40話:追手
秀助と善治が戦っていた頃、十兵衛らは部屋に戻るため、ひたすらに走っていた。
「運がいいですね。他のスタッフと遭遇しない。」
「ああ、不思議なくらいにな。」
善俊と中原のやり取りを聞いて、十兵衛ははっとした。
「確かに妙だ。ここのスタッフは等間隔で見張っていたはずだが…」
「まずいわ。大人数で何者かがこっちに来ている…もっと急いだ方がよさそうね。」
同じく妙に感じたのか、兆能力を発動していたトレイシーが言った。
「わかった。急ごう。」
十兵衛らは再び走り始めた。その間も、トレイシーは追手の状況を知るために兆能力を発動していた。そのとき、
「ちょっと待って!前からも来てる…!」
「なんだと!挟まれたか!」
十兵衛らは走るのをやめた。いや、走ろうにも走ることができなかった。
「雄康君。万が一のときは頼む。君が一番の戦力だ。」
雄康は頷いた…が、
「…って真剣がないんですが…」
「ああ、すまねぇな。俺が持ってる。」
中原が棺をいくつか出現させ、その中から真剣の入っている棺を探しだした。
「えーっと、どれだっけか?」
中原が棺を探しまわる。十兵衛が困惑する。
「いつも言ってるじゃないか。棺に印をつけろって。五味川茉莉を入れた棺もあるんだぞ。」
「まずいわ。すぐそこまで来てる。」
「焦れ!中原君!刀がとれないこと以上に、君の兆能力がばれるとまずい!」
「ええ!わかってますとも!あれでもない!これでもない!」
中原は、棺を開いては閉じるという作業を繰り返す。それでも真剣は見つからない。
「早くしなさいよ!そこまで来てるって言ってるでしょ!」
「だーかーらー!わかってるって言ってるだろ!黙って見てろ!あっ!あったぞ!」
中原は急いで真剣を取り出し、それを雄康に渡した。そして、すぐさまに棺を消滅させた。
「いたぞ!あっちだ!」
棺を消滅させた瞬間、大勢のスタッフたちがやってきた。
「おやおや皆さんお揃いで。ロングアイランドアイスティーを頂こう。」
「無駄だ!お前たちがスタッフでないことを、俺たちは知っているぞ!」
十兵衛が気絶させたスタッフであった。
「雄康君。」
十兵衛が雄康に合図をした。雄康は軽く頷くと、近くにいたスタッフに斬りかかった。雄康は、峰打ちで次々とスタッフを倒す。
「ヤス君、さすがだね…」
「見とれてる場合じゃない。園田が相手をしているうちに、逃げるぞ。」
雄康がスタッフを相手にしている間、中原らが逃げようとする。
「無駄だよ。」
一人の男が立ちふさがった。その男を見て中原らは止まらざるをえなかった。なぜなら、そこに立っていたのがハンフリー・デイヴィッドだったからだ。
「ハンフリー…デイヴィッド…!」
「久しぶりだなぁ、ミスター・リードこと、平塚十兵衛よ。」
十兵衛とデイヴィッドがにらみ合う。世界三大兆能力者同士の対面に、周りは息を呑んでいる。先に口を開いたのはデイヴィッドであった。デイヴィッドは倒されたスタッフを見ながら、
「腕に自身があるっていってもこの程度か…」
指パッチンをする。その瞬間、倒れていたスタッフが発火した。
「うぎゃああああ!」
「なんだこりゃあ!」
燃えているスタッフや、それに驚く中原らを横目に、十兵衛が言った。
「なぜわかった。」
「ふふふ。お前のことだ。GPSが仕込まれているかは確認したんだろう?だがそれは、所詮外面的なものにすぎない。」
「そうか…さすがにあの状況で体内を調べられなかった…!」
デイヴィッドは十兵衛らの顔を一人一人見ながら言った。
「5人か…よく見るとビジョンジャックの彼もいるじゃないか。君もネズミだったんだな。」
(みつね君を連れて来なかったのは英断だった。)
「肝心の五味川茉莉がいない…2人のうち誰かが隠したか。」
デイヴィッドは少し考えこんだ。
「その気になれば、十兵衛…お前を相手にしながらでも部下4人を殺すことができる。」
「脅しのつもりか?お前さんのいう通り、五味川茉莉は部下が隠した。だが、殺してみろ。五味川茉莉は消滅する。」
「…なるほどな。異次元に転移するタイプか。厄介だな…だが…」
デイヴィッドがにやりとした。十兵衛は何者かの気配に気がつき振り返る。
「久しぶりだな…リード!」
「てめぇ…フェルナンド!」
フェルナンド伯爵であった。
ここに、世界三大兆能力者が一堂に会したのである。




