39話:激闘決着
破裂したティアドロップは、辺り一面に水をまき散らした。破裂の衝撃はかなりのもので、観客は耳を防ぐような仕草をしていた。
『耳が壊れた!何も聞こえない!』
『そりゃ、あんた。耳ふさいでるじゃないの。』
衝撃の中心にいた秀助はどうなったのだろうか。
「…ぜぇ…ぜぇ…」
集められる限りでゴミの盾を作ったことで、かろうじて意識を保つことができていた。足に纏わりついていた水は衝撃で吹き飛ばされたようだが、立ち上がることはできない。
『しゅう君!倒れていない!なんて耐久力なんだ!』
「大したもんだ。ティアドロップを間近にくらっておきながら、意識を保つことができようとは。だが、それでも終わりは近いな。」
ティアドロップで体内の水を消耗した善治は、最後の気力を振り絞り、涙を流した。
「これで最後だ。」
涙は塊になった。ハンマーを形成する余裕こそなかったが、男一人を気絶させるには十分であった。善治はそれを全力で秀助に投げつけた。秀助はそれを避けない、いや避けることができない。ただ下を向いていた。
「安心しろ。フェルナンド伯爵は、この俺がぶちのめす。」
それを聞いた秀助は顔を上げた。
「何勝った気でいやがる…」
塊が秀助の目前に迫った瞬間、塵が飛んできた。塵は塊を砕いた。
「なんだと!?お前、まだそんな気力が…はっ!」
秀助をよく見ると、オーラの色が変わりつつあった。それは青みがかった紫色である。
「まさか…レベル3に…なろうとしているのか?なぜ…?」
「俺はマスクマンとの戦いで、自身の才能の限界に気がつき始めていた…この戦いも、俺を限界まで追い込んでいる…!」
秀助はふらふらしながら立ち上がった。
「俺は自身の限界を理解したんだ!」
「だからなんだってんだよ!」
「それこそが、レベル3への萌芽だったんだ!己の限界を知り、乗り越える!それが俺のダストメイカーレベル3だ!」
「!…お前...たったそれだけでダストメイカーの全てを理解したってのか!そんなことで!」
「馬鹿馬鹿しいよな。だがな、そんなことが、俺にとって最大の課題だったんだよ!」
秀助は四次元ゴミ箱を2つ出現させ、ゴミを集め始めた。
『おやおや!しゅう君!ゴミ箱を2つも出現させたぞ!それに、オーラの色も紫色になっている!』
「ゴミ収集ってのは隙だらけなんだが、今のお前には手を出せないだろうな。」
善治は、これ以上水を出せることができない。
ハイドロボディを持つ人間は、通常の人間よりも多くの水分を蓄えることができる。着目すべきは水分摂取量。通常、人間は一日あたり6L以上の水を摂取すれば死に至る。血中のナトリウム濃度が下がることにより、水中毒になるためである。そこで、ハイドロボディを持つ人間、善治は大量の水を貯水できるよう、赤血球の形がとても薄くなっている。通常の人間の赤血球は多くの水を含むと破裂してしまうが、薄くなることにより多くの水分を血液に貯蓄できるのだ。この貯水は、ラクダが水を蓄えている原理と同じである。
(これは、ほとんどの人間が知らないことだ。この特殊な体によって、無茶な放水が可能になる…だが…今の俺は…!)
しかし、善治はティアドロップによって多くの水分を使い果たし、これ以上の放水は命に関わる。兆能力によって引き戻す気力もない。それは先ほど塊を作ることで使い果たした。
「ぐぉおおおお!」
善治は突然雄叫びをあげ、そのまま頭を地面に擦りつけた。秀助はその行動の意図を理解できなかった。が、よく見ると善治は、地面にできていた水たまり―ティアドロップによってできた―をすすっていたのである。
『はるはる!突然頭を下げた!これは、はっきり言って、情けない!』
「正気かよ!あんた!」
常軌を逸した行動に秀助はドン引きした。
「はぁ…はぁ…俺はな…ゴミ野郎…勝利のためなら、くだらないプライドも捨てて、泥水をすすってやるさ…!」
善治は涙を流し始めた。
「いいか!この涙は攻撃の涙じゃねぇ!怒りと悔しさの涙だ!俺のプライドを傷つけた罪は重いぞ!」
「なんだよそれ…プライドは捨てたんだろ?」
「プライドってのはトカゲのしっぽさ…切り離したらすぐに再生させる…」
「都合がいいな…そういうところが嫌いなんだよ…!」
そう言いつつも、秀助は少しにやっとしていた。
「なんとでも言え!これが最後の一発勝負だ!行くぞッ!!五味川秀助!!」
「来いッ!!川路善治!!」
最初に仕掛けたのは善治であった。涙を塊に変えて、それを全速力で投げつけた。気力を使い果たしたとは思えないほど。一方、秀助は四次元ゴミ箱の片方から塵を取り出し、それを善治に向けて発射した。塊と塵、それぞれがぶつかり合おうしたそのとき、塵が発火した。
「!燃えた!?」
「燃えるゴミだからな…」
燃える塵は塊を砕き、そのまま善治の方へ向かっていく。
「さすがだ…俺がまだ水を蓄えていることを予見したか…」
善治は手から水を出し、燃える塵を受け止めようとする。火を消化させたものの、スピードは衰えない。塵はそのまま善治の体に直撃した。
「…負けたよ…五味川秀助…」
そう言って、善治はその場でぶっ倒れた。会場は大きな盛り上がりを見せた。
『感動したぁぁぁぁ!これほどまでに興奮した戦いは初めてだぁぁ!』
『私、つられて涙がこぼれました。』
「よかったぞー!」
「俺たちが見たかったのはこういう試合だー!」
観客がそれぞれ称賛を送る。それはどちらか片方ではなく、両方に対してであった。
こうして、犬猿の仲であった2人の激闘は、五味川秀助の勝利によって決着がついた。




