37話:ハイドロボディ レベル3
秀助の足には水が纏っており、それのせいか思うように動かすことができない。
「どうだ、足が動かないだろう?」
善治がじりじりと距離を詰めながら言う。
「水滞って知ってるか?体内の水の巡りが悪くなる状態のことだ。今、お前の足に纏わりついている水はその状態にある。それゆえ足が動かないのだ。」
秀助はもがくが、水は足から離れない。追い詰められた顔をしながら善治の方を見る。善治は確実に近づいてきた。一歩、また一歩と。涙を流しながら。善治は涙を塊にし、さらにはハンマーに変形させた。
『はるはる!涙をハンマーに変えたぞ!』
『涙は変幻自在ですからね。』
「安心しろ。軽く頭をかち割る程度に済ませてやる。」
「それを待ってた。」
「は?」
「おいおい、これだけ近くにいながら聞こえなかったのか?それを待ってたって言ったんだよ。」
その瞬間、塵の塊が善治の背後から飛んできた。それは善治が分解させた塵芥雲の一部であった。ワンウェイ・リユースで引き寄せたのである。
『出たぞ!ワンウェイ・リユースだ!』
『軌道管理が見事です。』
「ワンウェイ・リユースは忘れた頃にやってくる…」
「まさか!それで俺を倒すってのか!」
「違う。」
塵の塊は善治の体ではなく、善治が所持していたハンマーを砕いた。
「!」
「お前は…ゴミって何か考えたことあるか?」
砕け散ったハンマーの破片が宙に浮かび始め、善治に向かって飛びついていった。
「がはっ!」
それは善治に確実なダメージを与えた。善治は痛みからか、その場に座り込んだ。
「どうだ、自分の涙に攻撃される気分は…」
「てめぇ…なぜ俺の涙を…」
どちらも立ち上がることができない状態だった。しかし、どちらも遠距離攻撃ができる。一触即発の状態であった。
「ゴミってのは人間が作り出したものの中でも、不要になったもののことだ。」
「…」
「つまり、お前の涙も、お前のもとから離れたらゴミになるんだよ。」
秀助はワンウェイ・リユースによって涙の塊を善治にぶつけようとした。しかし、善治は水を全身に纏っていた。塊はそのまま水の中に取り込まれる。
「俺の涙がゴミだと?言ってくれるじゃねぇか。」
「俺にとって、ゴミは最高の武器だ。有用に使わせていただいてるっていうことなんだがな。」
「馬鹿野郎。それが一番不愉快なんだよ。」
善治は、纏っている水を増大させていた。
秀助と善治らが戦っている間、十兵衛らは前日と同じくスタッフに変装して、例の女性―つまりは五味川茉莉のことなのだが―を探していた。善俊が無色オーラでのビジョンジャックで様々な人の視界をジャックしていた。しばらくはこれといった人物を見つけることができない。しかし、あるとき、善俊はある人物の視界を不思議に感じた。
「なんだ…この人…」
「どうした?」
「いえ、妙な人なんです…なんというか動きがないというか、どこを見ているのかわからないというか…」
「どこにいるかわかるか?」
「そこまでは…どこか部屋のようですが。」
そのとき、トレイシーが兆能力を発動した。
「動きがないのであれば、心拍数はそれなりに低いでしょうね。他の人は、観戦してる興奮で心拍数が高いでしょうから。」
そう言いながらトレイシーは集中する。そのうち、何かを感じたらしい。
「いたわ。こっちよ。」
トレイシーは女性がいると思われる方向に向かっていく。皆もそれについていった。
「一つ厄介なことに、その心拍数の近くに2つの心拍数も感じたわ。」
トレイシーは走りながら言った。しばらく走っていると、部屋の前に立つ2人の人影が見えた。2人のうちの1人が、トレイシーらに気がつき声をかける。
「やあ、お水いるかい?」
「いや、ロングアイランドアイスティーを頂くわ。」
「何やってる、お前ら。」
「ああ、ちょっとな。」
十兵衛がいつの間にか2人の後ろに回り込んでおり、手刀で気絶させた。十兵衛は2人が倒れたのを確認した後、部屋に入り込んだ。そこにいたのは…髪の色が茶色の長髪で、顔にはそばかすがあるものの、目鼻立ちがとてもくっきりした美人であった。腕には緑色のブレスレットをしている。
「間違いない…五味川茉莉だ!」




