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兆兆発止  作者: ぱんろう
兆能力ファイトクラブ編
35/150

35話:緊迫した食事会

部屋に入ってきたのは一人の男だった。その男は間違いなくSOCIOLOGIの幹部・No.2であった。しかし、皆はそのことを知らずとも、男のことを知っていた。

「あ、あなたは…!」


「やあ、諸君。私の名前はハンフリー・デイヴィッド。」


フェルナンド伯爵が口を開く。

「驚いたな。デイヴィッド。あんたがこの大会の主催だったのか。」

「驚いたのはこちらもだよ。まさか君がこの大会に参加するとはね。」

3人は声が出なかった。世界三大兆能力者のうち、2人が目の前にいるのだ。

「さあ、食事を始めようじゃないか。せっかくの料理も冷めてしまう。」

ハンフリー・デイヴィッドは世界三大兆能力者である以前に、数多くの映画に出演しているアメリカの大御所俳優である。そのため、特に知名度と人気がある兆能力者である。善治はデイヴィッドを見ては、そわそわしていた。

「あ、あの…デイヴィッドさん。」

善治は勇気を出してデイヴィッドに声をかけた。

「なんだい?」

「サイン頂くことってできますか?」

「わ、私も!」

みつねも便乗していた。秀助は呆れながらも料理に手をつけていた。

「今は食事中だ。後で書いてあげるよ。写真も撮ろう。」

デイヴィッドはにこやかに答えた。善治とみつねはデイヴィッドに夢中であった。

「俺のサインは?」

フェルナンド伯爵が不機嫌そうに言った。

「おや?相手にされなくて嫉妬したのかな?」

「なんだって?」

デイヴィッドがからかうと、フェルナンド伯爵はより不機嫌になり、ついにはオーラを発現させた。

「やれやれ、本当に君は好戦的だな。今は食事中だぞ。」

「それはすまなかったな。」

フェルナンド伯爵は周りの目も気にしてか、オーラを収束させた。

「さて、君たちの戦いを見させてもらったが、とても良かったよ。」

みつねや善治は照れていた。

「この中に、何人いるんだろうね…リードの部下が。」

「!」

秀助の手が止まる。みつねと善治も、顔の表情が険しくなった。

「どういうことだ!ミスター・リードも来ているのか!?」

フェルナンド伯爵が思わず立ち上がる。デイヴィッドは、それを手で制するようなジェスチャーをした。

「そうだ。リードも来ている。この大会の運営を検挙するためにな。」

「…くそっ!」

フェルナンド伯爵は頭を抱えた。

「もし検挙されようものなら、私とフェルナンド伯爵の評判は地に落ちるだろうな。」

「いや、そんなことはどうでもいい…リード本人が参加していないことに腹が立っているのだ!」

デイヴィッドは呆気にとられた。ため息をついた後、

「本当に君は戦うことしか考えていないな…」

とこぼした。

「おい!お前らの中に、リードの配下はいるのか!?」

フェルナンド伯爵は怒鳴り散らす。3人は何も言えなかった。デイヴィッドが変わりに口を開いた。

「そんなに戦いたいか?リードと。」

「ああ!」

「ならば提案がある…」

「聞こう!」

フェルナンド伯爵は即答した。デイヴィッドはワインを一口飲んだ後、話し始めた。


「明日以降の試合は、相手を殺す気でやれ。」


「!」

3人は血の気が引いた。十兵衛の配下がいるかもしれないのを承知で、堂々と言ったのだ。

「お、おい。あんた、何を言ってんだ!」

初めて秀助は口を開いた。

「黙っていろ!」

フェルナンド伯爵がそれを制する。

「この中にリードの配下が、最低でも一人はいるはずだ。もし、部下が危機にあえばリードはきっと助けに来る。」

「なるほどな。それでリードに会えるってわけか。」

「いくらなんでもそれは…」

善治が口を挟もうとしたが、

「黙っていろと言ったはずだ。」

フェルナンド伯爵が兆能力を発動させようとする。秀助はついに立ち上がる。

「お前!自分が何やろうとしてんのかわかってんのか!」

「まあ、2人とも、落ち着きたまえ。平和的な方法がある。」

デイヴィッドも立ち上がる。

「私がリードの配下ですって名乗り上げればいい。そうすれば、命は助けよう。」

「そうした方がいいだろうな。それなら俺も、人を殺すことなくリードに会える。」

緊張した空気が流れる。秀助や善治は焦っていた。

(間違いなくこれは罠だ。ここで名乗り上げれば間違いなく穏便に済まされない…だが、明日フェルナンド伯爵と戦うのは…!)

準決勝でフェルナンド伯爵と戦うのは、みつねであった。秀助は、せめて自分だけが名乗りあげようか、と迷っていた。ついに手を挙げようとしたそのとき、何かに止められた。それは水であった。善治が無色オーラ状態でハイドロボディを発動させたのである。挙げようとした手はテーブルに隠れてデイヴィッドに見られることはなかった。

「名乗る者は無し…か。」

デイヴィッドが口を開いた。

「それじゃあ、明日以降、こちらは本気でいかせてもらう。それ相応の覚悟はしておけ。」

フェルナンド伯爵はそう言うと、席に座り直し、食事を再開した。

「いや、すまないね。空気を悪くしてしまって。リードの配下でない者は、明日の試合を棄権した方がいいだろう。」

デイヴィッドも席に座り、食事を再開する。立ち上がった秀助も仕方なく席に座り直した。が、食事に手をつけることができなかった。それからは誰も口を開くことなく、食事会はお開きとなった。食事会が終わった後、部屋に戻った秀助だったが眠ることができなかった。


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