35話:緊迫した食事会
部屋に入ってきたのは一人の男だった。その男は間違いなくSOCIOLOGIの幹部・No.2であった。しかし、皆はそのことを知らずとも、男のことを知っていた。
「あ、あなたは…!」
「やあ、諸君。私の名前はハンフリー・デイヴィッド。」
フェルナンド伯爵が口を開く。
「驚いたな。デイヴィッド。あんたがこの大会の主催だったのか。」
「驚いたのはこちらもだよ。まさか君がこの大会に参加するとはね。」
3人は声が出なかった。世界三大兆能力者のうち、2人が目の前にいるのだ。
「さあ、食事を始めようじゃないか。せっかくの料理も冷めてしまう。」
ハンフリー・デイヴィッドは世界三大兆能力者である以前に、数多くの映画に出演しているアメリカの大御所俳優である。そのため、特に知名度と人気がある兆能力者である。善治はデイヴィッドを見ては、そわそわしていた。
「あ、あの…デイヴィッドさん。」
善治は勇気を出してデイヴィッドに声をかけた。
「なんだい?」
「サイン頂くことってできますか?」
「わ、私も!」
みつねも便乗していた。秀助は呆れながらも料理に手をつけていた。
「今は食事中だ。後で書いてあげるよ。写真も撮ろう。」
デイヴィッドはにこやかに答えた。善治とみつねはデイヴィッドに夢中であった。
「俺のサインは?」
フェルナンド伯爵が不機嫌そうに言った。
「おや?相手にされなくて嫉妬したのかな?」
「なんだって?」
デイヴィッドがからかうと、フェルナンド伯爵はより不機嫌になり、ついにはオーラを発現させた。
「やれやれ、本当に君は好戦的だな。今は食事中だぞ。」
「それはすまなかったな。」
フェルナンド伯爵は周りの目も気にしてか、オーラを収束させた。
「さて、君たちの戦いを見させてもらったが、とても良かったよ。」
みつねや善治は照れていた。
「この中に、何人いるんだろうね…リードの部下が。」
「!」
秀助の手が止まる。みつねと善治も、顔の表情が険しくなった。
「どういうことだ!ミスター・リードも来ているのか!?」
フェルナンド伯爵が思わず立ち上がる。デイヴィッドは、それを手で制するようなジェスチャーをした。
「そうだ。リードも来ている。この大会の運営を検挙するためにな。」
「…くそっ!」
フェルナンド伯爵は頭を抱えた。
「もし検挙されようものなら、私とフェルナンド伯爵の評判は地に落ちるだろうな。」
「いや、そんなことはどうでもいい…リード本人が参加していないことに腹が立っているのだ!」
デイヴィッドは呆気にとられた。ため息をついた後、
「本当に君は戦うことしか考えていないな…」
とこぼした。
「おい!お前らの中に、リードの配下はいるのか!?」
フェルナンド伯爵は怒鳴り散らす。3人は何も言えなかった。デイヴィッドが変わりに口を開いた。
「そんなに戦いたいか?リードと。」
「ああ!」
「ならば提案がある…」
「聞こう!」
フェルナンド伯爵は即答した。デイヴィッドはワインを一口飲んだ後、話し始めた。
「明日以降の試合は、相手を殺す気でやれ。」
「!」
3人は血の気が引いた。十兵衛の配下がいるかもしれないのを承知で、堂々と言ったのだ。
「お、おい。あんた、何を言ってんだ!」
初めて秀助は口を開いた。
「黙っていろ!」
フェルナンド伯爵がそれを制する。
「この中にリードの配下が、最低でも一人はいるはずだ。もし、部下が危機にあえばリードはきっと助けに来る。」
「なるほどな。それでリードに会えるってわけか。」
「いくらなんでもそれは…」
善治が口を挟もうとしたが、
「黙っていろと言ったはずだ。」
フェルナンド伯爵が兆能力を発動させようとする。秀助はついに立ち上がる。
「お前!自分が何やろうとしてんのかわかってんのか!」
「まあ、2人とも、落ち着きたまえ。平和的な方法がある。」
デイヴィッドも立ち上がる。
「私がリードの配下ですって名乗り上げればいい。そうすれば、命は助けよう。」
「そうした方がいいだろうな。それなら俺も、人を殺すことなくリードに会える。」
緊張した空気が流れる。秀助や善治は焦っていた。
(間違いなくこれは罠だ。ここで名乗り上げれば間違いなく穏便に済まされない…だが、明日フェルナンド伯爵と戦うのは…!)
準決勝でフェルナンド伯爵と戦うのは、みつねであった。秀助は、せめて自分だけが名乗りあげようか、と迷っていた。ついに手を挙げようとしたそのとき、何かに止められた。それは水であった。善治が無色オーラ状態でハイドロボディを発動させたのである。挙げようとした手はテーブルに隠れてデイヴィッドに見られることはなかった。
「名乗る者は無し…か。」
デイヴィッドが口を開いた。
「それじゃあ、明日以降、こちらは本気でいかせてもらう。それ相応の覚悟はしておけ。」
フェルナンド伯爵はそう言うと、席に座り直し、食事を再開した。
「いや、すまないね。空気を悪くしてしまって。リードの配下でない者は、明日の試合を棄権した方がいいだろう。」
デイヴィッドも席に座り、食事を再開する。立ち上がった秀助も仕方なく席に座り直した。が、食事に手をつけることができなかった。それからは誰も口を開くことなく、食事会はお開きとなった。食事会が終わった後、部屋に戻った秀助だったが眠ることができなかった。




