2話:レベル3への挑戦
町を後にし、整備された道を歩く二人。そのうち、整備されていない道にでた。辺りを見回しても、何もない更地である。ここまで全く口を開かなかった二人であったが、秀助がようやくその沈黙を破った。
「さて、ここならざっくばらんに話すことができる。」
十兵衛も口を開く。
「ああ。」
「まずはじいさん。あんたが俺のおふくろ、五味川茉莉を探している目的を教えてもらおうか。」
「それは難しいな。」
あまりにも早すぎる返答であった。
「なんだと?」
「秀助、お前さんに助けてもらったのは感謝している。だが、だからといってなんでも話せるわけではないのでな。」
十兵衛はその素性も含めて、何も語ろうとしない。
「まさか、自分だけ情報を得ようって気じゃないだろうな。」
「そのつもりだ。」
またしても即答である。秀助はだんだんとむかっ腹がたってきた。
「情報交換ってのは、等価交換だぜ。あんたもそれ相応の情報を提供しない限り、俺も話すことはない。」
「そうか。それなら、私は手段を選ばない。」
十兵衛はそういうと、オーラを発した。その色は――紫色であった。
「なに!?レベル3だと!?」
秀助は後ずさりした。十兵衛の兆能力がレベル3であったことは、さすがに想定外であった。
「等価交換か。いいだろう。お前さんがこの私にひとかすりでも攻撃を当てることができようなら、五味川茉莉を探す目的と、私が何者であるかを教えてやろう。」
正直母を探す直接の手がかりになるかはわからない。それなのにレベル3の能力者に挑む必要があるのか。秀助は心の中で迷っていた。そうしているうちに十兵衛は再び口を開いた。
「お前さん、さっき兆能力そのものではなく、それをどう使うかが重要だと言ったな。その考え自体は大事にしてもらいたい。自身の能力と向き合っている証拠だ。しかしな、レベル1がそれを言っても説得力がないのだよ。」
「…」
秀助は何も言い返さなかった。いや、何も言い返せなかった。十兵衛による、秀助に対する兆能力論の否定は、秀助にとって最も恐れていたものだったのだろうか。十兵衛は続ける。
「たとえお前さんの能力使用がどれほど優れていようとも、レベル2能力者を倒すのが関の山だ。レベル1とレベル3では違うのだよ。格が。」
十兵衛がずっと話している中、ようやく口を開く。
「さっきから黙ってきいていれば、いってくれるじゃねぇか。」
その顔は神妙なものであった。
「じーさん、乗るぜ。あんたの提案に。」
「…その勇気に免じて、お前さんの勝利条件は私に触れるということにしようか。」
と発言した瞬間、秀助は十兵衛に向かって走り出した。
「せっかちだな。ご飯の前には『いただきます』を言ってるかい?」
秀助はそんな小言を無視して一直線に十兵衛に向かう。そして手を伸ばすが…十兵衛はいつの間にか秀助の背後に回っていた。
「!?」
「どうした?兆能力を使ってもいいんだぞ。」
十兵衛は常に余裕そうな表情を浮かべている。
「そっちこそ、兆能力を使えよ!」
秀助は焦燥しながら返す。
「兆能力の戦いの鉄則は…兆能力を使わないことだ。むやみやたらに能力を使えば相手に対処法を探られるからな。ましてや、ダストメイカーのような人口に膾炙した兆能力は使った時点でゲームオーバーだ。」
十兵衛は的確ながらもどこかとげのある指摘を秀助にぶつけ続ける。
「だったら、さっきの戦いではあんたにどうにかしてもらいたかったぜ。」
秀助は十兵衛と距離をおき、突然服をはたき始めた。十兵衛は秀助の行動を少し不審に感じた。
「大して汚れるようなことはしてないだろう…それにもともとお前さんの服は汚れ…まさか!」
秀助はいつの間にか自身の周りに塵を浮かせていた。服についていた塵である。
「ここら辺は褒められたことに、ゴミが落ちていないからな。まさか、能力が使えないとでも思ったか?」
そう言って塵を十兵衛めがけて飛ばす。それでも十兵衛は能力を発動する気配はしない。塵が十兵衛の視界を奪う。それでも直立不動の十兵衛だったが、いずれ自身の右後ろに向かって、シンプルなパンチを繰り出した。それは秀助の顔にクリーンヒットした。秀助はその場に倒れこむ。それでも立ち上がり十兵衛に殴りかかろうとするが、
「無駄なものは無駄だ。どれだけお前さんの戦闘センスが優れていようとも、レベル1とレベル3の格差はどうしようもできない。」
十兵衛は無慈悲に、吐き捨てるように言った。秀助は悔しさに攻撃をやめ、座り込んだ。
「しかし、埋めないことができない格差ではない。」
十兵衛は次に優しく、付け加えるように言った。
「お前はまだまだ強くなれる。いや、母と再会するためには強くならなければならない。」
十兵衛は意味深に言い放った。秀助は、それに触れられずにいられなかった。
「どういう意味だ?」
「結局お前さんが私に触れることはできなかったが、これだけは教えてもよいだろう。」
十兵衛は少し間隔を空けて、秀助にとって衝撃の事実を伝える。
「お前さんの母、五味川茉莉は…ある犯罪組織と関わりを持っている。」
「!?」
秀助はまたしても固まった。座り込むことさえない。ずっと固まったままであった。
「まあ、受け入れたくないだろうな。」
秀助は、今にも暴れだしそうなほど、震えていた。
「まあ落ち着け。別に所属しているとまでは言ってない。関わっていると言っているだけだ。」
「結局同じようなもんだろ。変に気をつかうな。」
秀助は怒りか悲しみかわからないような震え声で返す。
「その関わり方が、無理矢理だったとしてもか?」
「無理矢理だと?」
「そうだ。といっても、それも一つの推測に過ぎないがな。少なくともなんらかの関わりを持っている。だからこそ、私は五味川茉莉を、重要参考人として探しているのだ。」
秀助は十兵衛のはっきりとしない答えに困惑する。
「どっちなんだよ。はっきりしないな。」
「その通りだ。はっきりしないことがまだ多いのだよ。しかしな、一つはっきりしているのは、その犯罪組織は手練れが揃っているということだ。私に指一本触れられないお前さんには敵わない相手だろうな。だからこそ、このことをお前さんに話した。お前さんへの警告としてな。」
秀助は怒りを鎮めて冷静に考えた。しばらく沈黙の時間が続いたあと、口を開いた。
「どうやったら俺は強くなれる?」
「私はお前さんに諦めてほしいと思ってさっきの話をしたのだがね。」
「残念だが、諦めるわけにはいかない。どれだけ危険なことだろうと、おふくろの姿は俺自身の目で...その目で確かめる。そして、俺自身で...俺自身で見つける。必ずな。」
十兵衛は困ったような顔をしたが、秀助の覚悟を確かめるために聞いた。
「その覚悟は本当か?」
「嘘はない。そして、覆ることもない。」
返答であった。十兵衛はしばらく考えたあと、一つの提案をした。
「ならば、首都警察になれ。」
「は?」
急な提案に、秀助は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。首都警察とは、通常の警察とは別に、高度な兆能力犯罪に対処し、治安を維持する組織である。首都という名前がついているが、本部が首都にあるというだけで、全国各地に拠点を持っている。日本中の兆能力犯罪に対処する、日本屈指の治安維持組織なのだ。
「なんでそうなるんだよ。」
「簡単な話だ。警察関係者ならば、緊急時であれば兆能力を使用できる。なにより、首都警察はあらゆる兆能力犯罪に対処できなければならない。つまり、それだけ機転のきく強者でなければならない。」
十兵衛の短いプレゼンだが、秀助は少し興味を持ったようだ。
「じーさん、あんたも警察関係者なのか?」
「まあ、そんなところだ。詳しいところまでは話せないがな。ていうか、お前さんはさっきの戦いに負けていることを忘れるなよ。」
「ああ、負けを認めるよ。だからこそ、もっと強くなってやろうっていう話じゃないか。首都警察になれってのには驚いたが、それで強くなれるのなら、その提案も喜んで受け入れるさ。」
秀助はかなり乗り気になっていた。それを察知した十兵衛はついに首都警察になる方法を提示した。
「4日後に、研修と試験を兼ねる合宿がある。それに参加して、見事合格してみせろ。ただ合宿を終えるだけで合格になる。」
「え?それでなれるのか?」
秀助はさきほどの深刻な表情から一転、へらへらし始めた。
「ああ。それだけだ。とりあえずその合宿を通してお前さんのダストメイカーをレベル2に進化させるんだな。」
秀助は決心がついたようだ。
「よし、その合宿とやらをパスして首都警察になってやろう。そして、おふくろを見つけ出すんだ。そのときは、十兵衛さん、あんたにも協力してもらうぞ。」
「わかったよ。約束だ。」
十兵衛はやけにすんなりと受け入れた。秀助は少し不審に思ったようだが、それよりも合宿が気になって仕方がないようだ。
「へへへ」
こうして、母を見つけ出すための第一ステップが決まった。秀助は果たして警察になれるのか!?
(せいぜい、合格率3%の合宿で頑張るんだな…これを乗り越えて初めて、お前は母を探すスタートラインに立てるのだ…)




