137話:平塚十兵衛
十兵衛は、突然の嘆願に、呆気にとられた。
「えーとぉ、何かまずいか?」
乾二郎が頭に指差しながら言った。
「頭が痛くなるんですよ!」
宗平も便乗する。
「そうだ。何よりも…」
「何よりも?」
「首都警部とは、直接お話したいんだ。口と口で。」
十兵衛は苦い顔をした。
「口が疲れる。それに、脳内に直接の方が、時短になるじゃないか。」
「緊急時はそうしてください!でも、普段は使わないで!」
十兵衛は深くため息をついて言った。
「わかったよ。」
それを聞いて、2人の部下は嬉しそうにしていた。十兵衛は呆れた顔で見ていたが、一方で、少し嬉しくもあった。
「それと、これからは平塚十兵衛首都警部と呼ばせてくれよ。」
「お前!どこでその名を!」
「いいじゃないか。ミスター・リード?ダセェ名前だ。それよりも、平塚十兵衛って名前のが心地よい。」
「!」
十兵衛は自身が肯定された気がした。それは、テレパシーによるものではない。名前の響きがよいからと、なんともおかしな理由だが、十兵衛にとっては、とても嬉しいことであると感じた。
それから十兵衛は、部下を可愛がるようになった。それゆえ、部下からも人望を集めるようになる。それが、出世に繋がっていった。もっとも、首都警総監に昇りつめたのは、それだけの理由ではないが。
「平塚十兵衛首都警部!食事に行きましょう!」
「平塚首都警部…少し相談があるんだが…」
十兵衛は、部下に囲まれ、さらには尊敬もされていて、幸せであった。それは、決してテレパシーだけで評価されているのではない。十兵衛の優しい性格によるところもあった。兆能力以外も評価されて嬉しかったのだ。
そんなある日、ホテルがテロリストに占拠されるという事件が発生した。人質が取られ、普通の警察だけでは対応しきれそうになかった。そこで、十兵衛と2人の部下、乾二郎と宗平が応援として派遣された。
「このホテルか…」
警察官が十兵衛のもとに来る。
「相手の数なのですが…」
「いい。自分で確認できる。」
「ぜひそうしてください。私たちでは全て確認できているかどうか…」
十兵衛はテレパシーを発動し、テロリストと人質の様子を確認した。それを2人の部下に共有する。
(相手は15人だ。厄介なことに、3階、4階、5階にそれぞれ5人ずつ分散している。人質は部屋の中に入れていて、そこから動かないように指示しているらしいな。兆能力は…)
十兵衛の思念を聞いて、乾二郎が提案する。
(それでは、三手にわかれて行動しましょう!)
十兵衛は2人の方を見る。
(大丈夫か?)
(甘く見ないでください。僕たちだって、過酷な合宿を乗り越えたんです!)
(あんたが兆能力を共有してくれたじゃないか。それがわかってしまえば、こっちのもんだ。)
(…そうか。信じていいんだな?)
2人は心の中で、はい!やああ!と返答し、任せてくださいといった感じで十兵衛を見ていた。十兵衛は、緊張した現場にありながら、少し吹き出してしまった。
(わかった。乾二郎は3階がいいかな。宗平は5階なら相性がよさそうだ。俺は4階に向かう。テレパシーで連絡を取り合おう。人質やテロリストの状況を共有しよう。)
2人は頷く。十兵衛はそれを見て、この2人なら大丈夫だろうと思いながら、ホテルの中に入っていくのであった。十兵衛は警察官に話しかける。
「俺たちが突入する。君たちはそこで待機だ。」
「ええ!?無茶ですよ!」
「いいや、奴ら、完全に油断している。俺たちが突入できないと思っているぜ。」
「なぜそんなことが…」
十兵衛はにやっとしながら言った。
「これが首都警察の力さ。奴らの行動は手にとるようにわかる。」
結論から言えば、突入は悪手であったと言わざるをえない。十兵衛は不意打ちに成功していた。そこで部下の様子を見に行こうと、十兵衛が3階に降りたとき、乾二郎の死を知る。
「そんな…嘘だ…乾二郎!」
十兵衛が駆けつけた頃には、息を引き取っていた。
(そんな…乾二郎…)
そのとき、十兵衛ははっとした。
(そうだ!宗平!無事か?)
十兵衛は宗平に呼びかけるが、返事はない。
(…)
十兵衛は即座に、宗平がいる5階に向かった。途中数人のテロリストと遭遇したが、すれ違いざまに倒した。
(きっと、逃してしまったんだ。そうだ。宗平に限って、やられることなど…)
しばらく5階を探索していると、宗平を見つけた。宗平は、部屋のドアノブを強く握りしめた状態で息絶えていた。




