135話:二対一
十兵衛の目の前には、秀助が立っていた。
「秀助!なぜここに来たんだ!」
「じーさん、あんた相当参っているようだな。俺が近づいてきたことに気がつかなかったのか?」
秀助は笑っている。
「部下のためとはいえ、一人だけで建物に残るのは無茶だ。せめて、俺だけでも一緒にいさせてくれよ。」
「!…秀助…」
「…それよりもだ。こいつらをどうにかするか。」
「それだ!秀助!こいつは、SOCIOLOGIのNo.1だ!奴の兆能力は厄介だぞ!」
十兵衛は、秀助の脳内に語りかける。
(奴の兆能力に関する情報全てを、一瞬にしてお前さんの脳内にインプットさせる。少し頭が痛くなるが、我慢しろ。)
数秒経つと、秀助は軽い頭痛を感じた。
「!なんだこりゃあ!」
秀助は頭を抱えた。
「じーさん、頭が痛いぜ。これは、情報の流入によるものではない。奴の兆能力の、自由闊達さについていけないんだ。」
それでも、秀助はオーベルハウザーやフェルナンド伯爵が不審な動きをしないように見ていた。
「ただ一つ言えること。それは、奴を倒せば、おふくろが元に戻るということだ。そして、マスクマンの仇討ちだ...」
秀助は無敵のマスクマンのことを思い出していた。彼は、幹部の爆発に巻き込まれて死亡した。その元凶となったのが、オーベルハウザーの兆能力なのだ。
「はははははは。」
突然オーベルハウザーが笑いだした。
「これは、今日一のジョークだ!若者よ。私を倒すだって?」
秀助は対抗するかのように大笑いした。
「そうだ!お前なんか、一瞬に叩き潰してやるぜ!」
「自惚れるな!格下ごときが、威張るんじゃない!」
笑いから一転、オーベルハウザーは怒鳴り散らした。秀助はびくっとしたが、十兵衛が返した。
「お前さん、さっきは、『謙遜は悪質な自惚れ』と言っていたではないか。」
オーベルハウザーは頭を掻きむしる。
「ああ…ああ言えばこう言う…そんなのが2人もいると、鬱陶しいことこの上ないな!早急に片づけてしまおう!」
すると、後ろでフェルナンド伯爵が何かを念写していた。建物が揺れ、周りの壁などを破壊し始めた。
「!なんだ!」
「俺はこれを知っている!奴は城を念写しているんだ!」
秀助の予想は当たっていた。巨大な城が出現し始め、建物を破壊していたのである。その城は、兆能力ファイトクラブで念写されたものより、もっと大きかった。
「フェルナンドに相当な無理をさせているな…」
(…少なくとも、全ての部下は建物から離れているらしいな…よかった。)
このような時でも、十兵衛は部下の心配をしていた。
城が建物を破壊する様子を、みつねが見ている。そこに、中原や雄康らがやってきた。
「三島!無事か!?」
「はい。私は無事です。ただ…」
みつねはちらりと振り返る。そこには、オーベルハウザーに倒された菊千代たちが横になっていた。
「意識が戻ってないのか。まあ、起きるのを待とう…それにしても…」
中原は建物の方に振り返る。
「とんでもないことになっているな…」
その横で、雄康が辺りを見回している。ある程度見回した後、みつねに尋ねた。
「みつね、秀助と善俊は?」
みつねは下を向く。
「とっしー君はわからない…しゅう君は…」
みつねは、秀助が建物内部に向かったことを話した。
「自分勝手な真似を…!」
中原が歯をぎりぎりさせる。
「すみません…止めることができず…」
「仕方ない。五味川茉莉を見張るために離れなかった判断が正しい。とりあえず、俺たちはここで待機していよう。」
「俺は助けに行きます。」
雄康は建物の方に向かおうとする。その肩を、伊里が掴んだ。
「あかん。」
「なぜだ!」
「うちらが行っても巻き込まれるだけや。それに、首都警総監の命令でもある。五味川はんはそれに逆らった。それで死んだら、はっきり言って自業自得や。」
「お、おい!伊里!」
「しゅう君は死なない!」
「!」
みつねが声を大にして言った。その場にいた皆がみつねに視線をやる。
「彼は、きっと戻ってくる!」
「仕方ないとはいえ、みつねちゃんが戻るのを許してしまったのは事実やで。」
「お前ら、そこら辺にしとけ。これ以上余計なことを言うと、棺に閉じ込めるぞ。黙って待て。」
中原がそう言うと、誰も口を開かなくなった。淡々と言っていたところに、中原の凄みがあった。
一方、城が建物を破壊しつくした頃、十兵衛は秀助を探している。
(秀助!無事か!)
しばらく辺りを見回すと、十兵衛は狼狽し始めた。
そしてついに、秀助を発見した。倒れている状態の。




