133話:マリオネット
「彼は、とても優秀でね。最高傑作だよ。レベルΖを使えないことだけが欠点だ。」
オーベルハウザーは、後ろで手を組みながら、フェルナンド伯爵を見ている。
「お前さん、フェルナンドに何をした!」
「そんなことを聞いている暇かな?彼は君を狙っているよ。」
そのとき、砲弾が発射された。砲弾は十兵衛の近くで爆発する。
(くっ!まずはあいつからだ!No.1の方も厄介だが、下手に近づかなければいい!)
十兵衛はフェルナンド伯爵が乗っている戦車の方に向かっていく。
(強者揃いの大戦時中国軍ですら苦戦した、壹極畢僉の強さを見せてやる!)
十兵衛は強烈なパンチを、戦車に当てる。すると、戦車にへこみができた。
「!」
フェルナンド伯爵は動揺している。十兵衛はすかさず2発目、3発目を当てる。戦車はみるみるうちに、ぼろぼろになっていった。
フェルナンド伯爵は戦車から飛び降りる。いつの間にかレイピアを手に持っていた。フェルナンド伯爵はレイピアを十兵衛に突き刺そうとする。十兵衛はそれをかわす。フェルナンド伯爵は突きを次々に繰り出すも、全てかわされていた。
(心を読めずとも、こいつの動きは単調だな。)
「フェルナンド、お前さんは、兆能力にかけては最強だ。とてもじゃないが、私では勝てる気がしない…だがな、」
「!」
十兵衛は、突きによって伸ばしたフェルナンド伯爵の手を掴んだ。
「シンプルな近接戦で負けるわけないだろおお!この私がああ!」
十兵衛は、フェルナンド伯爵に背負い投げを仕掛ける。それは見事に決まり、フェルナンド伯爵を地面に叩きつけた。
「…!」
「さすがだよ。ミスター・リード。君こそが、世界三大兆能力者最強じゃないのかね。」
オーベルハウザーが拍手しながら言った。十兵衛は、倒れたフェルナンド伯爵の方を見ながら口を開く。
「そんな大層なもんではないさ。」
「ラ・ロシュフーコーは言った。『謙遜は悪質な自惚れである』とな。」
「日本のことわざに、こんなのがある。『出る杭は打たれる』とな。」
「ああ言えば、こう言うな。それは、私のことでも指しているのか?」
「さあな。」
オーベルハウザーはむすっとした表情で十兵衛に近づく。
「フェルナンドにしたことと、五味川茉莉にしたことは、同じだな。一体、どんな細工をした?」
「自分で考えろ。聞けば、何でも答えてくれるってのは、頭を弱くする。それより、いいのかな?そいつを放置して。」
「!」
十兵衛がふと振り返ると、フェルナンド伯爵が逃亡していた。
「しまった!逃げられた!」
フェルナンド伯爵は、オーベルハウザーの方に向かいながら、リンゴを念写していた。
(リンゴ?何のゆえで?)
十兵衛が困惑していたところ、オーベルハウザーはリンゴを受け取っていた。
「ヒントをくれてやる。ミスター・リード、こいつはなんだ?」
「リンゴだろう。」
「なぜ、人はこれをリンゴと呼ぶ?」
「それは、赤くて丸い果実に、人々が『リンゴ』と名付けているからだろう。」
オーベルハウザーはリンゴをさすりながら言った。
「まあ、そんなところだ。だが、それを定義したのは誰だ?人々とは?」
「それは…別に特定の誰でもないだろう。人々は人々だ。馬鹿馬鹿しい質問だ。」
「それもそうだな。」
オーベルハウザーは笑いながら、リンゴを十兵衛の方に投げた。十兵衛は身構える。
「そう恐れる必要はない。それはオレンジなのだから。」
十兵衛は呆気にとられた。
「お前は何を言っているんだ?」
オーベルハウザーはリンゴを指差す。
「いいから、食ってみろ。爆弾じゃないから大丈夫だ。フェルナンド伯爵に毒味でもさせるかい?」
十兵衛は、恐る恐るリンゴを拾い、かじってみる。
「!」
十兵衛は手に持ったリンゴを落とした。
「私は…舌が馬鹿になったのか?」
「強いて言うなら、リンゴが馬鹿になった。君の舌は正常だよ。」
リンゴをかじった十兵衛がどのような味を感じたのか、それは本人以外知る由もない。だが、少なくとも、リンゴの味ではなかったようだ。
(オーラ探知機になった机、目になったボタン、爆弾になったボタン、そしてオレンジ味のリンゴか...)
十兵衛は、これまでのことを振り返った。
(一つの可能性としては…「意味づけ」…)




