127話:最後の言葉
「!お兄様!」
死んだはずの善治の声を聞いて、真っ先に驚いたのは、善俊であった。善治の方を見るが、安らかな顔をしたままだ。
(どういうことだ!息はもう止まっている…なのに、声だけが聞こえるなんて!)
驚いたのは善俊だけでない。
(オーラが肥大している…それも勝手に…だ。)
十兵衛は自身のオーラが勝手に肥大しているのを感じた。そのとき、善治が再び声を出す。
(ミスター・リード首都警総監…少しのご無礼をお許しください。原理はわかりませんが、今の私はテレパシーに干渉できるそうです。)
(!…そうか。わかった。好きにしてくれ。)
(感謝します。ミスター・リード首都警総監。)
善治は間を置いて思念した。
(結論から言えば、俺は死んだ。今の俺は魂だけの存在だ。)
「!」
善治の死を知らなかった者はもれなく驚いた。とりわけ、秀助はオーラを弱めてしまった。アシドーシスはますます秀助に近づいていった。
(動揺するな!)
善治の口調が強くなる。
(ゴミ野郎!そんなことでへばるお前じゃないだろう!?)
(!)
(一ついいことを教えてやる…バランスを極めるんだ。)
(バランスだと…?)
(お兄様!それは!)
善俊が割って入った。それでも、善治は続ける。
(今のお前は、オーラを大きくさせることができるらしいな!だが、全体に行き渡らせることができていない!行き渡らせるんだ!オーラを行き渡らせることにより、技や身体能力を高次の段階に発展させることができる!)
(オーラの行き渡らせる...)
秀助は黙って善治の声を聞いている。善治が続けた。
(世界大戦時、中国でクーデターを起こした宗教集団によって生み出された技術…壹極畢僉!実は、壱極集中はこれを発展…いや、退化と呼ぶべきか。あるいは、誰でも使えるようにしたものだ!)
(善治君!それは、禁断の技術!歴史の闇に葬られているはずだ!なぜお前さんが知っている!)
十兵衛が取り乱したように聞いた。
(川路一族の情報網は、ミスター・リード首都警総監の想像以上ですよ。)
(善治!さっさとその方法を教えろ!)
秀助は焦っていた。無理もない。アシドーシスが近づいてきているのである。
(たく、死人に対して、なんだ、その態度は…簡単な話だよ。壱極集中を体全体でやればいい。)
(!そうか!)
(まあ、理屈でわかっても、実践するのは難しいがな…)
(は?じゃあ、なんで教えたんだよ!)
秀助は怒りを露わにする。しかし、善治はいつものように怒り返すのではなく、優しく言った。
(お前ならできるんじゃないかって思っただけさ。)
(!…お前…)
(死ぬなよ…五味川秀助。そして、他の皆さんも、どうかご達者で。)
秀助は意外な返答に困惑していた。それと同時に感銘も受けた。だが、何か返事をする前に、善治が再び思念していた。
(ミスター・リード首都警総監、今からは、善俊とだけで話します。他の皆の心の声を遮断してもよいですか?)
(ああ。)
すると、善俊と十兵衛以外の皆に、善治の声が聞こえなくなった。善治の訃報は、それぞれを悲しませる。特に、兆能力ファイトクラブで同じメンバーとして戦った者は涙を出さずにはいられなかった。
「善治…」
「…川路善治警部補…あなたとは、もっと兆能力について語り合いたかった…」
善治は、善俊に語りかける。
(善俊…お父様のことは、許してやってくれないか。)
(!ですが、お兄様…!)
善俊は心の声を強くする。
(確かに、ろくでもない人だ…本当にな…だが、本当のことを言うと、ちょっとだけ気持ちがわかるんだ。俺も首都警察になりたくて、なれなかった人間だからな…)
(…)
(善俊、これからは、お前が川路の名を背負っていくことになる。変えるんだ。くだらない、一族のしきたりをな。二度と、このようなことにならないためにも!)
(!…わかりました…)
善治は少し間を置いた。
(どうした?元気がないぞ?)
(だって…今でも信じられないんですよ!お兄様が死んだなんて!)
(!)
(それなのに、なぜ!こうして対話できているんですか!本当は生きているんでしょう!?からかうのはうやめてください!)
善俊は、善治の肉体に、涙を流しながら言い続ける。
(脈を確認してみろ…そいつは俺だが、そいつの中に俺はいない。)
(!うわああああああ!)
善俊は、その場で泣き崩れた。
(嫌です!離れ離れになりたくありません!)
(善俊…)
(嫌だ!嫌だ!)
(いい加減にしろ!)
(!)
先ほどまで優しい口調であった善治の思念が強くなった。
(死んだ者は、返ってこねぇぞ。こうして対話できることも、本来はありえないことだ。だからこそ、最後の時間をお前と噛みしめたいんだ。)
(お兄様…)
(俺だって…本当は嫌に決まってるだろ…!お前ともっと…うう…)
善治は黙り込んでしまった。
(お兄様?)
(すまない…どうやら、時間が迫ってきているようだ。くだらないことで喧嘩している場合じゃない。別れの言葉を伝えないとな…)
(はい…)
(善俊…今までありがとう。)
(お兄様…こちらこそ、ありがとうございます…)
善俊は涙を流しながらも、感謝の言葉を伝える。
(お前は、もっと長生きしろよ。そして、俺やお父様とは違って、幸せに、生きたいように生きてくれ…)
(…はい…)
(それじゃあな…善俊、お前が弟でよかったよ…)
(さようなら、自慢のお兄様…)
別れの言葉が交わされると、善治の声は聞こえなくなった。善治は、改めて善治の肉体に近づき、その安らかな顔を見続ける。そして、
(お兄様、この体は、間違いなくお兄様なのです…一緒に行きましょう。そして、この戦いが終われば、一緒に家に帰りましょう…)
善俊は善治の肉体を担ぎ、先に進むのであった。
(そうか、善治君…お前さんは、どうするか迷っていた私を見かねたのだな?)
十兵衛はゆっくりと立ち上がる。
(そうなんだよな…?じゃないと、こんなこと、起きるわけがない...!)
十兵衛も涙を流していた。善治の死を知ってからずっと下を向いたままの十兵衛であったが、顔を上げた。
(善治君…お前さんの死は決して無駄にしない!そのためにも、あの男を倒して、SOCIOLOGIを壊滅させる!)
十兵衛は立ち上がり、再び走りだすのであった。
追い詰められていた秀助は、なんとか気力を振り絞り、再び拮抗状態に戻していた。
「全く…そういうところが嫌いなんだよ…!」
秀助は涙を流している。止めようにも、止まらなかった。
「何を泣いているんだ?死が近づき、怖くなったか?」
龍助は、秀助の様子を見てからかっていた。
「うるせえな…お前には関係ないぜ。」
秀助も善治の死を悲しんでいたのである。涙を流しながらも、龍助と戦い続けていた。
(とはいえ、この状態から、どう抜け出す?…壹極畢僉ができるとは思えないし…)
そのとき、秀助の肩に誰かが手をぽんと置いた。
「しゅう君、まずは壱極集中を知ることからだよ。」




