124話:涙が流れない
「ごほっ!」
善治は吐血していた。吐血とともに発せられた声を聞いて、善俊は目を開ける。
「お兄様!!」
「チャンスだ…」
「!」
善治は振り絞って口を開いた。善信は、貫いた手が抜けないでいたのだ。
「俺が止める…!今の…うちに…!」
善俊は心配する気持ちを抑えて、腕にオーラを纏わせながら、善信の方に向かっていく。しかし、善信はなんとか善治の体から手を引っこ抜き、再び姿を消すのであった。
「お兄様!」
善俊は、攻撃を忘れて善治に駆け寄る。善治は、その場で倒れようとしていたが、その前に善俊が受け止めた。
「お兄様…!」
善俊は、ひたすら善治に呼びかけ続ける。善治は、かろうじて目を開けていた。
「…すまないな…俺が不甲斐ないばっかりに…」
「そんなことないです!むしろ、不甲斐ないのは私の方です!」
善俊は大粒の涙を流し続けていた。それを見て、善治は微笑みながら言った。
「馬鹿野郎…今は戦っている最中じゃねーか…泣いてんじゃねーよ…」
善俊は、ただ涙を流し続けた。善治は続ける。
「…敵が敵だよなぁ…腐っても…俺の面倒を…見て…くれた…」
善治の声が途切れていく。
「!お兄様!これ以上話しては…」
「…どうせ…俺は…助から…ない…善俊…!後は…頼んだぞ…」
「お兄様…」
「…そんな顔で…見るなよ…泣きたくなるぜ…でも…ティアドロップで使いきっちまった…涙が出ねぇよ…」
それ以降、善治が口を開くことはなかった。そしてついに、その目を閉じるのであった。
「お兄様!」
オーベルハウザーのもとに向かっていた十兵衛も、善治の死を察知した。走っていた足を止める。
(そんな…馬鹿な…声が消えた。善治君の…)
十兵衛は、口を手で押さえる。
(私が、2人だけにしたのがいけなかった!いや、それだけじゃない!そもそもだ!テレパシーがありながら、善信君の正体を見抜けなかったとは…!身内を信じすぎた私が甘かった…!)
十兵衛は、いつの間にか膝をついていた。
(この訃報を、皆に知らせるべきか…しかし、交戦している者もいる。動揺させてしまうのはまずいか…!?)
十兵衛は、しばらくその場で考え込むのであった。
善俊は何度も善治に呼びかけるが、返事は一切ない。ただ安らかな顔をしていた。
「うっ、うう。」
善俊は嗚咽する。もはや善信のことなど気にしていなかった。それよりも、兄がいなくなったことを、ひたすらに悲しんでいた。しかし、そうはいかなかった。
「善俊、聞き分けが悪いと、最後はこうなるのだ。」
「…!」
善俊は声のした方を振り返る。そこには善信が姿を現して立っていた。
「全く、口が悪いにも程があるな。父に向かってあのような言葉を…善治の悪いところだ。」
「…」
善俊は、善治をそっと寝かして、立ち上がる。
「だからといって…」
「む?」
「だからといって、殺す必要はないだろう!!」
善俊は大声で怒鳴った。オーラがかなり肥大している。
(なんだ!?オーラが大きくなっている!)
「許さない!絶対に、許さない!」
善信は、一瞬瞬きをした。その一瞬のうちに、善俊を見失った。
(!どこに消えた!?)
善信は辺りを見回す。しかし、善俊の姿は見当たらない。そこで、目をつむって千里眼を発動する。すると、意外な未来が見えた。
(!私が…殴られている…?馬鹿な!今まで、自分が殴られている未来なんて見えたことがない!…それにどうなっている!何に殴られているんだ!?)
善信が見えた未来には、確かに善信が殴られていた。しかし、何に殴られているのかわからないのだ。強いて言うなら、無に殴られている。あるいは、まるで透明人間に殴られているかのようだった。
(どこだ!どこにいる!)
善信は辺りを見回す。それでも、善俊が見つかることはない。そのとき、
「ごはぁっ!」
善信は何かに殴られ、吹き飛ばされた。受け身をとり、辺りを見回すが、誰もいない!
「どうなっているんだ!」
善信は冷静さを失っていた。そのとき、どこからか声が聞こえた。
「あんたの目の前にいるさ。」




