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兆兆発止  作者: ぱんろう
首都警察邁進編
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1話:邂逅

多くの人でにぎわいつつも、どこか暗い雰囲気が感じられる町。喧嘩こそ起きないものの、どこもかしこもチンピラがはびこっている。

そこを一人の老人が歩いていた。やせこけてはいるが、ブランドもののジャケットを着こなしている。すれ違う人は皆、場にそぐわないその老人を物珍しそうに、はたまた羨ましそうな目で見る。

人通りのない路地にさしかかったとき、柄の悪い三人の男たちに絡まれてしまった。

「じいさん、あんたずいぶんいい服を着ているな?」

「雨にぬれるといけねぇし、俺が預かってやるよ。」

老人は相手にせず、その場を立ち去ろうとする。しかし、

「おっとぉ、そうはいかないぜ。」

男たちは老人を囲みだした。逃げ場のなくなった老人が困り果てた顔をしていたそのとき、


「おいお前ら、その老人をはなしてやんな。困ってるだろ。」


どこからともなく一人の青年が割ってはいってきた。少し口が悪く、汚れた服を着ているが、老人を助けようとしているらしい。男たちは標的を青年に変えた。

「は?なんだお前。」

「正義の味方さんかい?子どもは家に帰って寝るんだな。」

「そうしないと…」

そう一人の男が発したとき、彼らから青色のオーラが発せられた。

「痛い目を見るぜ?」

「好戦的な奴らだ。」

青年は呆れながらも、同じくオーラを発した。だが、男たちのそれとは異なり赤色のオーラである。それを見た男たちは笑い出した。

「おい!こいつのオーラ赤色だぜ。」

「それで俺たちがびびるとでも思っているのか?」


「お前、なんの『兆能力』だ?」


「兆能力」は、現在の世界全ての人間に与えられる特殊能力である。歴史学者によれば、江戸時代に兆能力を持つ人が現れ始めたらしい。そこから長い年月を経て、いつしか人類全体が手にするようになった。それゆえ兆能力なのである。数の単位でもおなじみの「兆」だが、「兆民」という言葉があるように、「多くの人々」というニュアンスも含んでいる。

最初のうちは戦争や犯罪など悪い方面で使われることが多かったが、同じく長い年月を経るうちに、生活の役にたつように使おうとする潮流に向かっていった。

平和的な使い方ができる便利な兆能力だが、兆能力の種類や兆能力者によって格差ができる。それが争いの原因になるとして、現在では仕事や防衛など正当な場合を除き、能力の使用を原則禁止とする国際条約が結ばれている。それでも、能力を使用した悪事は減らないのが、人間社会の難しいところである。

ところで、男たちはなぜオーラの色で青年を笑いものにしたのだろう。それこそが能力の格差を示すからである。兆能力には三つの段階が存在する。レベル1、レベル2、そしてレベル3である。レベルが高くなるにつれ、兆能力を適用できる範囲「兆能力範囲」を広げるなど、強力になっていく。

兆能力を使用する際必ず、目に見える生体エネルギー・オーラが発せられる。レベルは、そのオーラの色で判別でき、赤色はレベル1、青色はレベル2である。男たちはそれで青年を格下だと判断したのだ。

男たちは文字通り捧腹絶倒であった。そう油断していたうちに、彼らの周りに黒いもやのようなものがたちこめ、視界を遮った。ずっと笑っていた彼らだったが、さすがに驚いた。

「な、なんだこれは!?」

「落ち着け!これはただの塵だ!」

「振り払え!」

彼らの中に風を操る兆能力者がいたそうだ。風が吹き荒れ塵を追い払った。しかし、

「くそっ!あの野郎どこにいきやがった?!」

「あのじじぃもいなくなってやがる!」

青年と老人はいなくなっていた。青年は目くらましのために兆能力を発動したのだ。


人気のある通りにでた青年と老人。さっきまで無口だった老人が口を開いた。

「さっきは助かった。感謝する。」

「首都警察に言うなよ。面倒なことになる。」

「わかっておる。」

「まったく…この町はどこ行っても治安が悪いんだ。老人が一人で出歩くところじゃねーよ。」

「人を探していてな…」

「だったらなおさらあんな場所に行っても意味ねーだろ。」

「少なくともそいつは人通りの多いところに顔を出さない。」

老人は意味深なことを言い出した。わざわざそのような言い方をするあたり、それ以上はあまり聞かないほうがよいだろうが、青年はすかさず聞いた。

「そいつは裏の人間ってことか?」

青年は意味深な老人とは対照的に直接的に聞き出そうとする。老人は返答に困ったようだが、答えた。

「まあ、そういうところだ。これ以上はお前さんも聞かなくてもよいだろう。」

青年は老人の警告に関係なく、こう返した。

「俺も探している人がいる。」

「!!」

「人探しなんて、探知に優れた兆能力者がいる探偵事務所に頼ればすぐに見つけることができる。そいつらでさえ見つけ出すことができない人物ってのは、普段表に顔を出さないような奴だ。」

青年は続けて言う。

「お互い独自に人探しをしている身だ。せっかくの機会だし情報交換をしようじゃないか。」

青年が老人の人探しに興味を持ったのには、青年自身も人探しであったゆえなのだ。老人は男たちに絡まれたとき以上に困った顔をした。

「あまり話したくないんだがなぁ。」

青年はなおも折れない。ああいえばこういう性分らしい。

「ならせめて俺の話だけでも聞いてくれ。」

それならということで、老人はうなずく。

「俺が探しているのは、10年前に失踪したおふくろだ。」

「!!」

老人は一瞬驚いたが、青年の母親が失踪した経緯などは聞かないように、青年が探す母親の情報を聞こうとした。

「そのおふくろさんの外見的な特徴は?」

青年は答えた。

「俺が最後に見たおふくろは、髪の色が茶色の長髪だった。顔にはそばかすがあるけど、目鼻立ちがとてもくっきりして美人だったよ。それと…親父から貰ったっていう緑色のブレスレットをしていたな。」

「!!!」

老人はその話を聞いて再び驚いた。今度は一瞬なんてものではない。少し興奮したように口を開いた。

「冷静に聞いてくれ、お前さんが探している人と私が探している人…同じかもしれない。」

「!!!」

今度は青年が驚く。老人は続けて問う。

「お前さん、名は?」

青年は名前を名乗った。


「俺の名前は五味川秀助だ。おふくろ、五味川茉莉を探して旅している。」


老人も同様に名を名乗る。


「私の名前は平塚十兵衛だ。私も、ゆえあって五味川茉莉を探している。」


それは青年のおふくろと同じ名前であった。双方聞きたいことが山ほどある。しかしそんなとき、


「いたぞ!あっちだ!」

さっきの男たちだ。しつこく二人を探していたらしい。

「ちくしょう!こんなときに!」

二人は大事にしたくないと思い、先ほど同様逃げようとする。

「逃がすか!」

男の一人が腕をゴムのように伸ばし、老人の足を掴んだ。

「じーさん!」

青年は振り返り、老人を助けようとする。しかし、そこに一人の男が立ちふさがる。風を使う兆能力者だ。かまいたちのように俊敏に移動できるのだ。

「さっきはよくもやってくれたな。執念深い俺たちを敵にまわしたのは悪手だぜ?」

青年は後ずさりした。しかし、


「おいおい。なんだあれ?」

「あれは風を司る兆能力・ウインドユーザーじゃないか?風力発電なんかで使われているイメージだが…」

「馬鹿!ありゃ喧嘩だよ!喧嘩!面白いことになってきたぞ!」


騒ぎから周りの人間が二人や男たちに注目し始め、集まってきた。野次馬がドーナツ状に群がっている。もちろん、秀助らは中心部にいる。秀助は辺りを見回しながら困惑した。

(さっきのように目くらましで逃げることはできなさそうだ。何より…)

腕が伸びる男に捕まった十兵衛は、長い腕に巻かれて身動きがとれなくなっていた。さらに、

「おい、そのじじぃ押さえとけよ。俺はこっちに加勢する。」

「ああ。任せとけ。」

もう一人の男も立ちはだかった。これで二対一。能力レベルが違うこともあり非常に分が悪い。

「さあ、レベル2が二人だぞ。だが、謝っても許さねぇ。さっきはよくもやってくれたな。」

「お前の兆能力は…『ダストメイカー』!ゴミを操ったり、作り出したりするとかいう、その名の通りのゴミ能力だな。」

「さっきは空気中の塵を寄せ集めて、その場をしのいだってわけだ。」

秀助は「ゴミ能力」という発言にカチンときたらしい。

「あまり俺の能力を舐めないほうがいい。」

この発言を聞いて、男たちは再び笑い出した。少し落ち着いた後、

「頭の悪い、可哀そうな奴だ。早めにシメて自分の立場をわからせてやろう。」

男たちは既に臨戦態勢で、じりじりと秀助に近寄る。逃げ場のないこの状況に秀助はため息をつく。

「仕方がない。戦わざるをえないか…これ以上違反を重ねたくはないんだがな。」

秀助は赤いオーラを発する。周りはどよめく。あれでは勝ち目がないとぼやく者、無謀な戦いに冷笑する者、逆にその勇気を称賛する者。その中で十兵衛はある発言に引っかかる。

(こいつ、違反を重ねてるって…どうやら、これまでも兆能力で戦ってきたらしいな。)

そう思ったのは十兵衛だけではない。

「まるで、経験豊富な言い方だなぁ!レベル1の分際で!」

そう言いながらウインドユーザーの男は突風を繰り出す。秀助はさっと避けるが、少しかすれた。いや、かすれたなんでものではない。風が当たった場所には大きめの傷ができた。群衆の一人が

「すごいぜ!さすがレベル2のウインドユーザーだ!」

と沸いている間にもう一人の男が攻撃を仕掛けた。シンプルなパンチである。しかし、その破壊力は凄まじいものであった。秀助はこちらもかわしたものの、なかなか反撃の機会を掴めない。

「どうした!?何もできないのかぁ!?」

怪力の男が煽る。しかし、秀助はそれに動じない。どうやら反撃の機会をどうにか探そうとしているらしい。しかし、それを許さないかのように追撃が迫りくる。


「そろそろとどめといこうか!くらいやがれ!神旋風じんせんぷう!」


そういうと、男はつむじ風を発生させ、秀助めがけて放った。野次馬はより沸き上がる。

「おお!あれをくらうとただじゃすまないぞ!」

「ていうか大丈夫か!?最悪死んじまうぞ!」

様々な声が挙がるなか、肝心の秀助は動かない。ついには野次馬のほとんどが不安がるほどに。神旋風が秀助の目前に迫ったとき、ついに動いた。なぜそこまで動かなかったのか。その理由は、神旋風を避けた後の秀助を見ることで明らかになる。

「お、おい!あいつの周りにすげー塵が集まってるぞ!」

ウインドユーザーの男はその理由を察知する。

「そうか!神旋風が巻き上げた塵を、操っているのか!ぎりぎりまで動かなかったのは、ゴミを自身の兆能力範囲にいれるためだ!」

彼の考察に秀助は感心しながら答える。

「よくわかったな。ダストメイカーはゴミを操るにあたって、自身の兆能力範囲にゴミをいれなければならない。そして、一度兆能力範囲にいれてしまえば、飛び道具として遠くの敵に攻撃できるってわけだ。」

秀助は続けて言う。


「ダストメイカーは『ゴミを操る能力』であって、『ゴミ能力』じゃねぇ。それをお前たちの身をもって知ってもらおう。」


秀助の宣言を聞き、男たちはいらっとしたようだ。

「攻撃をかわしただけでいい気になるなよ。」

「どうやら、集めた塵で俺たちに攻撃しようと考えているらしいが、仮にそれで攻撃してきたとしても俺の風で吹き飛ばしてやるさ。」

男たちにまだまだ分がある。野次馬のほとんどがそう思っている中、一人があることに気が付く。

「おい!よく見たら集まっているのは塵だけじゃないぞ!」

塵が秀助の周りを漂っている中、大きな塊も見える。

「あれは…道路に使われていたコンクリートだ!」

「なんだと!?」

さすがにこれには男たちは狼狽した。

「怪力の男が破壊した道路の破片も集めていたんだ!」


「これも神旋風が巻き上げたものだ。さすがにこのゴミは、神旋風ではどうにかできても、普通の風ではどうにもできまい。」


そう言って秀助は周りのゴミを男たちめがけて飛ばした。

「もう一度神旋風をしろ!それならあの塊も飛ばせる!」

「ダ、ダメだ!そう何度も放てるもんでもねぇ!そういうお前こそ、その怪力であの塊を壊せるだろ!」

「塵のせいでよく見えないんだよ!」

こうして言い争っている間に、塵や塊が男たちに直撃する。

「ぐわぁぁぁ!」

「ぼべあぁ!」

男たちはその場で倒れこむ。かなりの衝撃だったらしい。彼らは気絶した。

「お前たちの敗因は…冷静さを失ったことだな。風で塵を飛ばしさえすれば、塊に対処することができたはずだ。」

更に続ける。


「兆能力そのものが力の全てじゃない。本当に重要なのは、それをどう使うかだ。」


腕で十兵衛を巻き付けていた男は驚きと恐れから逃げ出した。十兵衛は解放されたことよりも、秀助の発言を気に入ったらしい。秀助を賛美と尊敬の目で見ている。周りはどよめく。

「おいおい、レベル1がレベル2二人をやっつけたぞ!」

それは次第に興奮へと変わっていった。

「うるせえな…おい、じいさん。これ以上この町にいてもトラブルに巻き込まれるだけだ。もっと静かな場所で、話をしようじゃないか。」

「二度も助けられるとはな。大したもんだ…わかった。行こうじゃないか。」

こうして、二人は町をあとにするのであった。これが、この二人の、最初の出会いであった。これは、「五味川茉莉」という一人の女性を探す物語。


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