27話 東の砂漠
王妃様とミアさんの回復、あと僕の好感度アップの為の賄賂として黄金色の和菓子【くりきんとん】を出した僕。
茶菓子に合う特産の抹茶を、と準備させた所クルミがメイド服を着ててお茶セットを載せたワゴンを押してテーブルの横に立っていた。
「クルミ……がメイドになっている」
魔導師として一緒に冒険していたクルミがメイド服を着てお茶を準備している。
「ぁ、永太様は初めてご覧になるんですね」
「有事や魔導師団としての仕事以外の時は、よくメイドとして私の身の回りのお世話をしてくれているんです」
モモは驚かずに普段通りの笑顔で話す。
「……そうなんだ」
僕が驚いているのも無理はない、魔導師として設定されているクルミ。
実はメイドという初期案もあったのだ。
実際は魔導師として仲間入りして、メイド案はお蔵入りになっていたのだが……ここで補完されて回収かよ!と驚いていたのである。
全員分のお茶を準備し終えたクルミは、当然の様に自分も席に座り口を開く。
「さぁ……食べる」
国王様達の好感度アップの為、くりきんとんはそちらの分しか配っていなかったが……当然私達も食べます!といった感じでみんなのお茶も配られている。
これは……計られた!?
浜尻の町で一度食べた時によっぽど気に入ったのであろう、再び食べられる機会を伺っていたに違いない。
完全にクルミにしてやられた感じである。
先程の会話に参加しているフリをして、そっとハケてお茶を準備し機会を伺っていたのだ。
ここまで展開の先を読むとは……陰の調律者恐るべし。
このくりきんとん【無限くりきんとん】という箱アイテムに大量の魔力を注ぐ事により生成される回復アイテムなのだが、魔力消費が激しいのでおいそれと作ることが出来ない。
ここでみんなの分も配らなければ、僕の心象が悪くなるのは確実である。
「くっ……」
僕は心で泣きながら魔力を絞り出し、みんなの分のくりきんとんも作り出した。
「ぉお〜」
なかなか見られないクルミの笑顔と感嘆の声が響く。
「ありがとうございます、永太様」
モモも喜んでくれている。
「まぁ、せっかくだから食べてあげるわ」
リナは相変わらずのツンツンでも口元がちょっと喜んでいる。
「ぁはは、さあどうぞ」
みんなに配り終え、魔力大量消費によりげっそりした僕はそれを感じさせない様にそう言った。
パクり
「美味しい……」
最初に口を開いたのは王妃様。
モグモグ
「これは、魔力と体力が回復している感じが……する」
次いでミアさんが効果を感じ取っているようだ。
パクパク
「栗の素直な味が口の中に広がってゆく」
国王様は丁寧に食リポしてくれる。
「やっぱり美味しいですね、くりきんとん」
モモも満面の笑みで美味しさを表現している。
「悔しいけれど……美味しいわね、もぉ」
悔しがりながらも美味しさを噛み締めているリナ。
「お茶にも……合う」
クルミは特産の抹茶と合わせてマリアージュを楽しむ。
「モグモグ、うん美味しい」
僕の分も創り出しておいたので、それを食べて消費した魔力を少しでも回復させる。
ひとしきり食べ終えた後、国王が静かに口を開く。
「とても美味しかった」
「何だか元気が出て来ました」
アンズ王妃は微笑みながらお茶をすする。
「完調とまでは行かないですが、ずいぶん回復した気がします」
ミアさんも喜んでくれたようで何よりだ。
「こんなに美味しいんだから、いっぱい作って置いておけばいいのに」
リナが満足気な顔を隠しながら僕を見てそう言う。
「いや〜、この和菓子……賞味期限が短くて日持ちしないのが弱点なんだよね」
「だからこういう時しか出せないんだ」
特に魔力消費が激しいので、毎回出していたら僕が干からびてしまう。
「……残念」
「……でも美味しかった」
クルミは食べるの大好きな様子で満足気に微笑む。
「そうですね」
モモもそう言って同意する。
「では、勇者永太殿」
「この国の命運は勇者殿に託された」
「よろしく頼むぞ」
ここで再び国王様が昔の僕が入力した決め台詞を復唱する。
「任せて下さい!」
何故かリナが元気良く返事する。
「ほら、あんたも」
そう言ってリナが僕に返事を強要する。
「ぁ……はい」
まぁ、一応ゲームクリアが目的なのでやりますけど……リナに強要されるとテンション下がるな〜という感じの返事をする。
こうして僕達は案内してくれた王国兵の元、再びコソコソと宿に戻った。
宿屋に戻った僕達は今後の方針を話し合う為に、部屋に集まっていた。
「しかし、良かったわねモモ」
「国王様も王妃様も無事で」
リナがそう切り出す。
「はい」
「ぁ、でも一応隠れているという事なので、口外しない様にしましょう」
モモナイス、こう言っておかないと口の軽いリナの事だ、あちこちで喋りかねない。
と、僕が思っていると、
「なによ、大丈夫よそんな簡単に口を滑らしたりしないわよ!」
なんて僕の心を読んでいるかのように答える。
というか、思いっきり顔に出ていた様だった。
てへ。
「……とりあえずは」
「東の塔」
クルミがそう呟き、話を進める。
「そうね、さっさと東の塔に向かいましょ」
リナが騎士団長風を吹かせて仕切り始める。
「そうですね」
そんなリナに慣れている様子で、モモも相槌を打つ。
こうして僕達は物資の調達や砂漠越えの準備をした後、ミーカワの東門から出発した。
出発してすぐは豊かな森が広がっていたが、暫く歩くと木々も少なくなり、やがて遠くに砂漠が見えて来た。
一応砂漠の手前には簡易的な宿場町があり、砂漠越えする人にとっての最後の休息場であることが伺える。
僕達はそこで宿を取り、翌日の朝から砂漠越えに挑むこととなった。
昔の僕が作ったゲーム内では、テクテク歩くだけで到着する東の塔も実際の砂漠越えとなると大変である。
この後の展開を思い出しながらベッドに横になると、魔力大量消費で疲れていたのか、すぐに眠りに落ちた。
翌朝準備を済ませた僕達は、広大な東の砂漠へと歩き出した。
サンサンと太陽の光が振り注ぐ、それなりに暑いが思ったよりも灼熱では無い。
風も程よくある為、汗だくで脱水症状になるといった感じではなくてとても助かる。
とはいえ砂の地面なので多少は歩きにくい。
砂漠と言えばRPGや冒険物の中盤で出てくる難所なのだが、まさか自分が体験することになろうとは……なんて思いながら歩く。
暫く歩くとリナが口を開く。
「砂ばっかりで何もないわね!」
「砂漠だからね」
僕はそう言って軽くあしらう。
「なによ!何もないんだから仕方ないじゃない!」
何もない風景に飽きてきたのかリナが強めに絡んでくる。
「声デカッ」
ふと僕は思った、こういう砂漠フィールドの定番の敵って……
「まさか?」
そう言って周囲を警戒する僕。
「……!?」
クルミも何かを察知した様で周りを見渡す。
「どうしたんですか?永太様」
辺りを見ている僕にモモが声をかける。
「……モモ、僕から離れないで」
カッコイイ台詞をカッコよく喋る僕。
「なによ!なんなのよ!」
相変わらずリナが大きな声で叫ぶ。
「……来る」
クルミがそう呟くと同時に僕もリナに向かって呟く。
「……リナ、そこ危ないよ」
「へ?」
リナが僕に向かって素っ頓狂な顔をしたかと思うと、リナの背後の砂が空に向かって噴き上がる。
ザバァァァァァァァン
その音にリナは直ぐ様振り向く。
「ぇえぇえ!」
リナの背後から現れたのは巨大なミミズ?いやサンドウォームだった。
「こういう砂漠の魔物は音に敏感ってのがお約束だからね」
「大声出すと気付かれて襲われちゃうよ」
僕は冷静にリナに解説する。
「そういう事は……」
「早く言いなさいよ〜!!」
リナはそう言って襲いかかって来たサンドウォームの攻撃を間一髪で躱した。




