26話 コアクリスタル
「二つ目の問題は王城に引き込む方法」
ミアさんがちょっぴり真剣な顔になり静かに喋る。
「そうよ!どうやって?」
リナが野次馬かガヤ芸人みたいになって来ている。
「……それは」
「幻術です」
ミアさんがみんなを見つめてそう言った。
「幻術……幻を見せて誘い込むという事ですか?」
モモがミアさんに問いかける。
「そんな、魔王軍丸ごと幻術にかけるなんて」
「ありえないでしょ」
リナがそう言って作戦会議に参加している事が、ありえないと僕はリナをチラ見する。
「なによ!」
僕の視線に直ぐ様気付き、ツンドラして来るリナ。
「ぇえ、まあ普通の幻術では到底無理でしょうね」
「でも……皆既日食の残滓を使う事で可能にした」
ミアさんが中二病的フレーズをカッコよく言い放った。
昔の僕が入力した台詞では無いので、僕は恥ずかしがらず素直に感心する。
「どういう事ですか?」
モモが再びミアさんに問いかける。
「魔王軍は皆既日食で発生した魔力の渦を利用して結界内部へと転移してきた……」
「魔力の渦は皆既日食が終わると同時に霧散する」
「魔王軍が王都に辿り着いた頃には魔力の渦は消えて無くなってしまうが」
「その魔力の渦が完全に消えてしまうその前に、残滓を集めておく事で逆に利用する」
恐らくここがこの作戦のキモであろうという喋りでミアさんは語る。
「たとえそれが出来たとしても……そんな大規模な幻術」
「普通の魔導師ではとても……現実的では無いのでは」
モモが心配そうな顔でミアさんに向かって話す。
「そうね……普通の魔導師では無理でしょうね」
ミアさんはそう言ってモモに向かって微笑む。
「私はこの王国の魔導師団、副師団長ですよ」
「それに、幻術の心得もありましたしね」
心配そうなモモを安心させる様に笑顔で話すミアさん。
「まぁちょっとばかり大変でしたけれど」
笑顔の裏に大変さが伺える話し方をするミアさん。
「なるほど……」
ミアさんの説明でようやく納得するモモ。
なのだが、僕は最初からミアさんなら可能だと思っていた。
何故なら魔導師団副師団長のミアさん、クルミの師匠でもあるこの人は……陰の調律者なのだ!
クルミも陰の調律者、その師匠という事で当然と言えば当然なのだが。
さらに言うならミアさんは陰の調律者のNo.1でもある。
ちなみにクルミはNo.3。
先程ミアさんは幻術の心得がある、と言っていた。
けれどミアさんの幻術は多少の心得と言った類の物ではない。
陰の調律者にはコードネームがあるのだが、ミアさんのコードネームは【蜃気楼】。
むしろ幻術などの幻を見せる技の方が本職なのである。
ちなみにクルミのコードネームは【影法師】。
陰の調律者の設定自体は昔の僕がノリノリで考えたものであるので、それを知っている僕はこの話を落ち着いて聞くことが出来たのだ。
まぁ、ミアさんとクルミの秘密についてはナイショの様なので僕も黙っている事にした。
「ともあれ、魔王軍本隊を王城に誘い込み結界の核であるコアクリスタルを使い王城に閉じ込める事に成功したのです」
「これにより、周囲の町や村が侵略されるのを防ぐ事もできました」
ミアさんがそこまで話すとみんなが、ぉお〜と感嘆の声を上げる。
通常のRPGは魔王が攻めて来ているのに普通に生活している、昔の自分はそんな事に疑問を抱くわけもなく作り上げていた。
この理由なら、魔王が王城を奪ったのに周囲の町や村が普通に普段の生活をしている辻褄が合っている。
「ただ、魔王軍本隊は誘い込めたものの暗黒四天王など少数の別働隊は封じ込める事が出来ませんでした」
「結界の核であるコアクリスタルを奪われると封印が解かれてしまいます」
「その為、私の幻術で国王様と王妃様、コアクリスタルと共にこのミーカワに隠れている……という訳です」
ミアさんの話に流石陰の調律者No.1と、感心する僕。
「コアクリスタルが見つからない暗黒四天王は結界の起点でもある四つの塔を闇に染める事で封印を解こうとしました」
再びミアさんが真剣な顔で話す。
「そうです、四つの塔が闇に染まって封印は大丈夫だったのですか?」
モモがまたミアさんに問いかける。
「大丈夫……ではありませんでした」
「封印自体はコアクリスタルの力で維持出来たものの、四つの塔から闇の力がコアクリスタルに流れて来て」
「その闇を前聖女アンズ様の浄化の力により、耐えていたのですが」
「四つの塔からの闇の力が大きく封印が解けるのも時間の問題でした……」
「王城に封印しきれなかった残存部隊への対応と、周囲の町や村への防衛線の為に王都周辺に駐留している騎士団と魔導師団は動かすことができない……」
「その時、西の塔の闇が払われた」
そう言ってミアさんが僕の方を見つめる。
「永太様ですね!」
モモが嬉しそうに僕を見ながら叫ぶ。
「次いで南の塔の闇も払われた事で力の均衡が取れ、前聖女であるアンズ様の癒しの力も相まって封印は再び安定した状態を取り戻しました」
ミアさんは安堵した様に話す。
「ただ、依然東と北の塔は闇に染まっていて、闇の力が流れ込んでいる」
「私も魔王軍に使用した大規模な幻術により魔力を使い過ぎた為、僅かな魔力の幻術で国王様と王妃様を匿うのが精一杯」
「そこで勇者様に残る塔の解放と、浄化をお願いしたいのです」
そこまで言うとミアさんが僕の方を見る。
「任せて!」
と僕……では無くリナが叫ぶ。
なんで勝手に同意して叫んでいるの?と言った顔で僕はリナの顔を見る。
「なによ、当然行くんでしょ!」
リナはそう言って僕を睨む。
「永太様」
モモも期待の眼差しで僕を見つめる。
「……ぇ、まぁ」
リナの勢いに僕は渋々同意する。
「うむ」
「この国の命運は勇者殿に託された」
「よろしく頼むぞ」
ここで国王様が昔の僕が入力した決め台詞を叫ぶ。
「……はぁ」
何となく流れで同意してしまったものの、ゲームクリアするつもりだったしまぁイイかと自分を納得させる。
「それよりも……」
なんとなく話がまとまった所で僕は、先程まで気になっていた事を話し始める。
「王妃様と副師団長のミアさん……」
「あまり体調がすぐれない様ですね」
そう言って王妃様とミアさんの方を見る。
みんなを安心させる様に笑顔で微笑んではいるが、僕の見立てでは無理をしている。
「……勇者殿には分かってしまうか」
それを聞いた国王が口を開く。
「コアクリスタルの浄化や大規模幻術の影響」
「アンズとミアには負担をかけてしまっている」
「国王としては不甲斐ないばかりだ……」
悔しい様な悲しいような顔をする国王。
「でしたら、よろしければこれを……」
僕はそう言って小さな箱を取り出し、そっとテーブルの上に置いた。
「これは……?」
国王がそう言って箱を見つめる。
僕は静かに箱の蓋を開けて中を見せた。
「菓子……か?」
少し驚いた様に話す国王。
「そうです、くりきんとんと言います」
そう僕が出したのは無限くりきんとんの箱で作り上げた和菓子、くりきんとん。
「これを食べると疲弊した体力や魔力を多少なりとも回復させる事が出来ます」
「よければどうぞ」
この魔王封印の要である二人、先程聞いた話では相当大変な目に合っている。
無理をして倒れられてしまっては、今後のメインシナリオに影響が出てしまう。
その為、このくりきんとんを食べて貰う事で王妃様とミアさんを回復させればメインシナリオも安定するはずだ。
あ、あと権力者に弱い小物の僕はこういう賄賂を贈ることにより心象を良くすると言った小技を駆使しているのだ!
「ぉお、心遣い感謝する勇者殿」
僕の想定通り国王様の好感度が上がった……気がする!
「微力ですが、少しでもお役に立てたのなら幸いです」
僕はカッコよく返事を返す。
「菓子、であれば茶が必要だな」
「特産である抹茶を準備させよう」
そう言って国王が振り向くと、
「既に準備しております」
ミアさんがそう言って横を向く。
そこには……
「クルミ?」
さっきから全く会話に参加しないなとは思っていたクルミが、メイド服を着てお茶セットを載せたワゴンを押してテーブルの横に立っていた。




