21話 境川
ジャイアントトレントがいた場所には何も無く、前方100メートル程が技の威力で更地になってしまっていた。
「ヴァルハラの洞窟で天井を壊した反省から、威力をセーブしておいたんだけれど……」
「レベルが上がったからか凄い威力だなぁ」
僕は剣をしまいながら目の前の更地を見ながら呟く。
「ちょっとぉ!!」
「危うく巻き込まれる所だったんですけどぉ!」
リナが怒りながら僕を指差して叫ぶ。
「大丈夫、リナなら避けてくれると信じていたから!」
僕は思いの外技の威力が高くて、リナを巻き込みそうになった事を誤魔化す。
「っていうか、なんであの変な技の中あんたは元気に動けていたのよ!」
怒りが収まらないリナの矛先が僕に向かう。
「ぇ〜と……」
僕が適当な言い訳を考えていると、
「きっと勇者の力ですね!」
モモが上手いこと言ってくれる。
「そう!それ!」
僕はすぐさまそれに乗っかる。
「はぁぁ?なにそれ」
リナは相変わらず僕に疑いの眼差しを向ける。
あの疲労感と倦怠感が渦巻く技【死の木曜日】。
元気に動いていた様に見えるリナでさえ疲労感を感じていた。
なのに僕にはその技が効いていなかった。
それは何故か……?
答えは、耐性がついていたからである!
僕はこの世界に来る前、何連勤もしたデスマーチをしていた。
その為、疲労感や倦怠感を感じるラインなどとっくに超えた世界へと踏み出していたのだ!
ちゃんと土日休めている内は木曜日や月曜日に感じる絶望感があるが、何連勤、何徹もした僕にとってはもはや耐性がついてしまい効果など無いのに等しいのだ!
「……なんか腹立つ!」
表向きは勇者の力とやらで納得させようとしたが、リナは凄く不満気な様子だ。
「……さすが勇者」
クルミが珍しく僕をフォローしてくれる。
「ふん!魔物も倒した事だし、さっさと村に戻るわよ」
モモに続いてクルミも勇者として認めた感じになった事でリナは反論しづらい様で、話を進める。
「そうですね」
モモも笑顔でリナに相槌を打つ。
やれやれなんとか無事に収まったと胸を撫で下ろしていると、
「……ありがとう、永太」
クルミがボソリと僕に呟き、モモとリナの方に駆け寄る。
クルミにお礼を言われたことと、名前を呼んでくれた事に呆気に取られる僕。
「ほら!行くわよ見習い!」
リナが僕に向かって叫ぶ。
「……うん、わかった」
ちょっぴりニヤけながらみんなの元に向かう僕。
村に向かう帰り道、シュミラクラの森はもう迷いの森では無くなっていた。
村に着いた頃には日が落ち始めていて、僕達は村長に魔物退治の報告をした後、宿屋へと向かう。
「これで橋を渡れるわね」
リナが安心した顔でモモに話しかける。
「村長さん、喜んでいましたね」
モモが笑顔で相槌を打つ。
「……名産」
橋が渡れる様になればこの村にも再び名産品が届けられる様になる。
それを期待してクルミが呟く。
「明日、橋の様子を見に行かないとね」
「流石にまだ名産は食べられないかな」
リナが騎士団長風を吹かせてみんなを仕切る。
「……残念」
名産がまだ食べられない事に残念がるクルミ。
「次の町についたら名産も食べられますよ」
いつもポジティブで明るいモモがクルミを励ます。
こうしてシュミラクラの森の魔物を退治した僕達は宿屋に泊まり、翌日ツタで通行出来なかった橋へと再び向かう事にした。
「ふぁあ〜」
「昨日の疲労感がまだ抜けて無いかも」
リナがそんな事を言いながら僕達は村長の手配してくれた馬車に乗り橋へと向かう。
「見えてきましたよ」
暫く馬車に揺られると先日ツタが絡まり通行出来なかった橋へと到着する。
僕達は馬車から一旦降りて、橋の様子を確認する。
「ツタが枯れてボロボロになっているわね」
最初に来たときは、リナが斬ろうとすると襲いかかって来たツタも今は完全に動きを止め朽ちていた。
「これなら大丈夫そうですね」
枯れたツタを見てモモがそう言う。
「……うん」
クルミも同じく頷く。
「良かった、これでまた橋の向こうに行けます」
「ありがとうございます」
馬車の御者が安心した様子で僕達にお礼を言う。
「さすが閃光の解放旅団のリーダー、光輝闇暗竜炎主昏き太陽の勇者様御一行」
御者の人が僕達にそう言う……が恥ずかしい。
「……なんか腹立つ!」
勇者様御一行として一括りにされている事に腹を立てるリナだが、ジャイアントトレントを倒したのも僕である為に面と向かって文句を言えないストレスを地団駄で地面にぶつけている。
「お代はいらないです、早速この境川を越えて橋向こうへとお送りしますよ」
御者の人がそう言ってくれる。
「ありがとうございます」
モモが笑顔でお礼を言う。
「さぁ、さっさと行くわよ見習い」
ストレス値が溜まっているリナが僕に叫ぶ。
「ぁい」
ストレス爆発すると怖いので僕は素直に返事する。
ガタガタ
ガタガタ
橋に絡まったツタはボロボロで馬車の走行に大きな影響は無さそうである。
ただちょっとガタガタして乗り心地は悪かったけどね!
橋を越えると馬車の乗り心地の悪さも解消され、僕達は東へと向かう。
日が暮れて来る頃に次の町が見えてくる。
「あれが東の都、ミーカワ」
僕は見えて来た町を見てそう呟く。
ミーカワ
モモの国は東西に大きな都市が一つずつある。
西はもちろん王都、東には工業などで栄えている都市、ミーカワがある。
その都市は王都の様に都市を囲うように城壁がある。
王都にある王城は無いが、都市を統治する大きな建物が代わりに鎮座している。
やがて城壁にある大きな門へと馬車が到着する。
「あんたら、西の村から来たのか?」
城壁の前に居た警備兵らしき人が駆け寄ってきて問いかける。
「ぁあ、閃光の解放旅団のリーダー、光輝闇暗竜炎主昏き太陽の勇者様が、シュミラクラの森の魔物を退治してくれたんだよ」
御者な人が自慢気に説明してくれる。
「ぉお、勇者様が見つかったのか!」
警備兵らしき人が嬉しそうに話す。
ともあれ無事にミーカワに到着した僕達は御者の人から宿屋の場所を聞き、宿を取ることが出来た。
いつも通り宿屋併設の酒場兼食堂で食事をした僕達。
ミーカワの名産である味噌を使った料理などを満喫した。
モモもリナも楽しそうだったが、クルミが一番料理を楽しんでいた気がする。
こうして僕達はミーカワの宿屋に泊まった。
翌日、バタバタした物音で僕は目が覚める。
「永太様!」
バタバタして部屋に飛び込んで来たのはモモだった。
「イャン」
布団から出て肌着一枚だった僕はサービスショットな声を出す。
「……ぁ、ゴメンナサイ、です(照」
顔を赤らめて部屋から飛び出すモモ。
僕は、いそいそと着替え部屋の外で待つモモに話かける。
「もう入っても大丈夫だよ」
カチャ
今度は警戒しながら扉を開け、部屋に入るモモ。
「どうしたの?モモ」
珍しく慌てていたモモに僕はそう話かける。
「はい!お父様とお母様が」
「このミーカワに来ているんです!」
僕に向かって嬉しそうに叫ぶモモ。




