2話 浜尻の町
サワサワ
頬を撫でる風が気持ちいい。
夢にしてはリアル過ぎるし、今の所ゲーム内転生が一番可能性が高いかな?と思いながら道を歩く。
「永太様はお強いんですね」
隣を歩くピンク髪の美少女モモが僕に話かける。
「いゃ、まぁ、そうでも、あるかな」
モモを襲っていた暗黒四天王のゴブイチを一撃で倒した。
その事で僕は少し調子に乗っている。
まるで調子という台が目に見える様だ。
昔から調子に乗りやすい性格だった。
小学生の頃、調子に乗って作り上げた自作ゲーム【エイタークエスト】
僕はその世界に居るらしい。
この異世界にずっと居ると言う選択肢も無いわけでは無いのだが、いかんせんここは僕の黒歴史が詰まった世界と言っても過言ではない。
タイトル名に自分の名前をつけてしまうぐらいの痛いゲーム、なるべくなら精神的に大怪我する前にこの世界から抜け出したいものだ。
そんな事を考えながら僕とモモは街道を歩く。
「確かこの後の展開は……」
「先ずは浜尻の町へ行こうか」
僕は近くに見える町を見ながらそう呟く。
浜尻の町、単純に始まりをもじっただけのネーミングセンス。
まぁ、小学生の時の僕らしい名前の付け方だ。
「そうですね」
モモはそう言ってニッコリ微笑む。
昔好きだった漫画のヒロインから流用した設定だけあって、モモが凄く可愛らしい。
そんなモモと一緒に浜尻の町へと向かう。
冒険の始まりの町、浜尻。
僕達はその町に着いた。
町の入り口に着くと、土煙を上げながら走る人影が向かって来る。
「モモ〜!!」
ズサぁぁぁぁぁ!
「よかった〜無事で〜」
勢い良く走って来て、僕の隣に居たモモを抱きしめる。
「大丈夫だったモモ?」
「変な事されてない?」
モモを凄く心配するこの女の子。
「大丈夫です〜」
「永太様が助けてくれましたから〜」
抱きしめられながらモモはその女の子に返事する。
「えいた?さま?」
その赤髪でポニーテールの女の子は僕の方を睨みつける。
「この男」
なんだか凄い言われようだが、この台詞も自分で作った……気がする。
「モモに何もしていないでしょうね」
そう言って剣を抜き、僕に向ける。
「何もしていないよ、リナ」
僕がそう言うと、
「……なんで私の名前を知っているの!?」
剣を持つ手に力を込めてさらに睨みつけられる。
「ぁ、まずっ」
「ぇと、」
僕はそう言って咄嗟に言い訳を考えた。
「あ、ほら王国の騎士団長は有名人ですから〜」
僕がそう説明すると、
「そ、そう?」
その女の子はちょっぴり照れる。
「そうだよ〜、凄く強くてカッコいいって」
「みんな言ってますから〜」
「リナ団長」
そう、この赤髪でポニーテールの女の子は王国騎士団の団長、ツンデリーナ(リナ)である。
名前からわかるようにツンデレで、おだてると直ぐに浮かれる性格である。
姫様のモモを名前で呼んでいるのは、幼馴染で小さい頃からモモを護っているお姉ちゃんポジションだったからかな?と昔の記憶を掘り起こす。
まあ、この設定も昔見て好きだったアニメからのパク……もといインスパイアされた物である。
モモの設定とは違う作品なのだが、当時小学生だった僕が勢いとノリでモモの王国騎士団設定としてくっつけたのだ。
「まぁ、私も有名になったわね」
少し照れながら顔を赤らめる。
「あの暗黒四天王ゴブイチを倒して助けてくれたのです」
するとモモがリナにそう説明する。
「……あのゴブイチを?」
「まさか〜」
リナは信用していない様だ。
「凄かったんですよ、永太様は」
「あの素晴らしい名前の剣と技」
そう言って僕を見るモモ。
「えと、光輝暗黒炎竜剣?」
僕は自分で恥ずかしい剣と技名を説明する。
そしてその恥ずかしさで謎のダメージを受ける。
「そうです」
「その美しい名前、光輝暗黒炎竜剣であっという間に倒してくれたのです」
モモは目を輝かせて喜ぶ。
僕はダメージを受ける。
喜んでくれるのは嬉しいが、中二病ネーミングを連呼すると恥ずかしくて謎のダメージを受けるから、ほどほどにして欲しいな……とちょっぴり思った。
「……なんか変な名前の剣」
「まぁ、取り敢えずモモが無事で何よりだよ」
リナがそう言って剣をしまう
変な名前で悪かったな、とはとても言えずに苦笑いする僕。
それに、ゲーム内ではこんな会話のやり取りは無かった筈だが、リナの元となったキャラの性格なら言いかねないなと僕は思った。
「それより本当に大丈夫?モモ」
リナが再び心配した様子で話し始める。
「魔王軍が王城にまで攻め込んできて、王様と王妃様を王都守護隊が逃がす時に急にモモが西の昏き太陽を探すって言い出すから」
「一緒に浜尻の町に来てみたけど暗黒四天王が追いかけてきて、追っ手を食い止めモモを逃がしている内に」
「本来は王国を守る聖なる結界である四つの塔までもが占拠されて、闇の塔に変えられた上に黒く光り出すわで」
「心配したわよ!モモ」
リナがまくし立てる様に喋る。
「……凄く説明口調だ」
昔の自分が作ったのだから仕方ない。
とは言え丁寧に説明してくれるのは少し有難かったりする。
「リナ、安心して下さい」
「見つけました!」
心配そうなリナに向かってモモがそう言う。
「見つけた……って?」
リナがモモに問いかける。
「勇者様です!」
モモは満面の笑みで僕を紹介する。
「……勇者〜?」
リナは僕を値踏みする様に僕を鋭い目で見つめる。
「そうです!伝承通りの勇者、永太様です」
目をキラキラさせながらモモがリナに説明を始める。
【勇者の伝承】
世界が闇に包まれし時、
竜の炎を纏いて昏き太陽が西から昇る、
その太陽はやがて大きくなり闇を祓い、
世界は再び輝きを取り戻すだろう。
モモが勇者の伝承を丁寧に説明してくれる。
そういえばそんな設定あったな〜と思い出しつつ、昔の自分の作文を朗読されているようで恥ずかしい。
しかもこの伝承、【纏う】とか【昏き】って言いたいだけだろ!と昔の僕にツッコミを入れて僕は謎の自傷ダメージを受ける。
「モモが西の昏き太陽を探しに行くって言っていた時に言っていた伝承だよね」
「その伝承は私も聞いた事はあるけれど……」
「こいつが勇者〜?」
完全に疑いの目で僕を見つめるリナ。
「そうです〜、あの素晴らしい光輝暗黒炎竜剣」
「まさに伝承通りです」
「暗黒四天王のゴブイチから私を護ってくれたのです、間違いありません」
モモは完全に僕を勇者認定した様だ。
「あんたが……勇者ねぇ」
僕を睨みながら呟き、王国騎士団の団長としてのプライドなのか僕に対して対抗心を燃やしている感じのリナ。
「どちらにしろ、闇の塔に変えられてしまった四つの塔を取り戻さないと」
「私が西の塔に行ってなんとかするから、モモはここで待っていて」
リナが真面目な顔でモモに告げる。
「いえ、私も行きます」
「私はこの国の聖女、塔を浄化するには私の力が必要でしょ」
モモはリナに目配せをして納得させる。
こういう芯の強さがモモの良い所なんだなあ、と僕は眺めていた。
「……仕方無いわね」
そんなモモを見てリナは渋々納得する。
「……で、あんたはどうするの?」
「勇者様とやら」
僕をまったく信用しておらず、警戒心バリバリで問いかけるリナ。
「永太様……」
モモがそう言ってこちらを見る。
正直勇者と言われても実感もあんまり無いし、リナが僕を見る目が怖いな〜なんて思っていると目の前に選択肢が現れる。
モモについていきますか?
【はい】
【いいえ】
そして
【わかめ】
いや、作ったのは自分なんだけども。
この選択肢、意味不明だよね。
作った当時は大爆笑だったんだろうけど。
そう思いながら僕は【わかめ】を選択する。
「わかった!目指す先は西の塔だね、僕も行くよ!」
と、自動的に喋る。
いや、強引だろ昔の僕。
ちなみにどの選択肢を選んでも、ほぼほぼ同じ会話で同行する事になるのだ。
選択ですら無いって……(苦笑い
「大丈夫?こんな男連れて」
リナが疑いの眼差しで僕を見る。
「大丈夫ですよ〜、永太様は頼りになりますから」
「ありがとうございます、永太様」
モモが笑顔で話す。
テレ〜レレンと謎の効果音が鳴り、モモとリナが仲間になる。
こういう所は昔のゲームっぽいな、と僕は思った。
こうして僕とモモ、リナの三人は西の塔に向かう事になった。
「……」
まあ、小学生の時に作った自作ゲームだ。
すぐ近くにその塔を置いてあるわけで、あっという間に目的地に着く。
「……あれは」
塔の入り口には雑魚ゴブリンが数匹待ち構えていた。
「ここは私に任せて!」
リナがそう言って剣を構えて雑魚ゴブリンに襲いかかる。
ズバァッ!
バサァッ!
さすが王国騎士団の団長なだけはある。
リナはあっさり洞窟の前に居た雑魚ゴブリンをやっつける。
テロレロリン
レベルアップの音が流れる。
先程、暗黒四天王のゴブイチを倒した時にも流れていたが、モモとリナの二人には聞こえていない様だ。
「モモ、気を付けてね」
お姉ちゃん気質なリナが先導してリナとモモ、僕の三人は塔内へと侵入する。
「まだ日が出ている時間なのにこの暗さ、結界塔が闇に染まっているのね」
リナがそう言いながら僕達三人は薄暗い塔を進む。
そんなリナに僕は言う。
「ここを右に曲がって、宝箱を回収しておこう」
「はぁ?なんで知ってるの?」
「もしかして敵のスパイとかじゃ無いでしょうね、あなた」
リナが僕に疑いの眼差しを向ける。
「ぁ、いやほら」
「なんかこう、スキル的な?」
「そう!勇者の勘で探知的なスキル持ってるんだよ」
僕は適当な言い訳で誤魔化す。
「探知のスキル?」
「聞いたこと無いわね、大丈夫なの?」
リナは僕を信用していない感じが凄い。
まぁ、昔のゲームに探知系スキルなんて珍しかったし、仕方ないか。
「大丈夫ですよ、永太様は私を守ってくれた方ですから」
モモは僕に対する絶対的信頼があるようだ。
昔僕が作ったゲームなのに入力した覚えの無い台詞が出てくるが、モモらしい台詞で違和感が無いのは凄いなこの異世界などと思った。
なんて話をしていると突き当たりに宝箱を見つける。
「……本当にあるし」
リナが驚く。
「さすが永太様です」
モモが手放しで褒める。
「取り敢えず回収っと」
僕はそう言って宝箱を開ける。
中にあったのは
【無限くりきんとん】
と書かれたこじんまりした箱。
「何この変な箱は?」
リナが訝しげな顔で見つめる。
まぁここはゲーム内みたいな異世界扱いだから、くりきんとんを知らなくても当然と言えば当然なのだが。
「これは大事な回復アイテムだから」
実は単純に昔の僕の好物を回復アイテムとして設定し、好きなだけ食べれるようにしただけなのは内緒だ。
この箱があれば無限にくりきんとんを作り出せるのだが、魔力消費が激しいという難点もある。
とはいえ回復アイテムの回収は基本なので入手しておいたほうが何かと安全、と言い訳じみた考えで無限くりきんとんを回収する。
こうして僕は昔の記憶を辿りながら迷うことなく西の塔の最上階に辿り着いた。
最上階にある大広間の扉の前で僕達三人は立ち止まる。
「ここに塔を闇に染めた暗黒四天王が待ち構えているのですね」
モモがカッコよく場を盛り上げる台詞を放つ。
「何が待ち受けているかわからないわ、モモ気を付けてね」
リナがモモに言う、が僕には冷たい目線で
「自分の身は自分で守ってよね」
そう言い放つ。
うむ、このツンツン具合も堪らなく良い。
「さぁ、行くわよ!」
ドガァ!
リナが大広間の扉を足で蹴破る!
うん、確かリナは直上的な性格で猪突猛進だったなと僕は思い出す。
「フッフッフ」
「わざわざ倒されに来るとはな!」
そう言って大広間で待ち構えていたのは……
「我はこの西の塔を守る暗黒四天王のゴブイチ!」
「目にもの見せてくれるわ!」
と登場したのはこの間倒した筈のゴブイチ。
「はあぁ?」
リナが変な声を上げる。
「あんた、ゴブイチは倒したって言ったよね!」
「やっぱ嘘つきでスパイかなんかじゃないの!?」
そう言って僕を睨みつける。
「……」
実は僕、こんな展開になると知っていました〜。




