15話 東明街道
ガタガタと馬車が揺れる。
「二ヴァーンの町ともお別れですね」
モモが遠くになってしまった二ヴァーンの町を見て呟く。
「お魚……美味しかった」
クルミがモモに話を合わせて相槌を打つ。
「次は東だっけか」
僕が次の目的地の話題を振る。
「先ずはこの東明街道に沿って東に向かうわよ」
東明街道、この国の東へ向かう主要の街道。
東西を繋ぐ経済や物流の大動脈で、人や物の行き来が盛んである。
乗り合い馬車等の交通機関も発達しており、僕達はその馬車に乗って東へと向かっているのである。
最初の浜尻の町から二ヴァーンの町迄は、朝から晩まで歩いて丸一日で着く位の近さ?だったのだがここから東へは少々遠い。
モモの国は東西に大きな都市が一つずつある。
西はもちろん王都、東には工業などで栄えている都市、ミーカワがある。
ミーカワ……三河?きっと赤味噌とかが特産品ですね?
途中でいくつかの村を経由して、数日かけてその東の都市ミーカワが当面の目的地だ。
さらに東の塔へはその先の砂漠を越えなければならない。
ゲーム内ではテクテク歩いているだけで着くのだが、ファンタジーな異世界として成立しているこの世界、しっかり移動しなければならないのが少々面倒ではある。
この世界は【エイタークエスト】という昔僕が自作しゲーム、らしい。
らしい、というのも当時作ったゲームは昔ながらの平面的なものだし、キャラの台詞も必要最低限位しか喋らない。
僕の脳内設定は多少あったもののここに居るモモやリナ、クルミはそんな脳内設定を遥かに超えて人間臭い。
設定していない台詞を喋ったり、思いがけない反応をしたりして凄く新鮮だ。
有難いことにメインストーリーの流れは自分が作った時と同じ流れで来ているので、大筋ではクリアに向かっているようで安心だ。
さらに言うならドット絵じゃないモモやリナ、クルミは正直可愛らしい。
ピンク髪のロングヘアーをなびかせ、可愛らしく笑うこの国のお姫様で癒しと浄化の聖女、モモ。
赤髪ポニーテールでいつもツンツンしている王国騎士団の団長、ツンデリーナ(リナ)。
小柄で青髪を後結びしたジト目の子で、魔導師団所属の魔道士、クルミ。
ずっとこの世界に居るという選択肢も一瞬浮かんだもののこの世界は昔の僕の中二病とか幼さ、ゲーム制作の拙さが滲み出ていて正直恥ずかしい気持ちがある。
もっと言うとこの国に魔王軍が攻めて来て王都が占拠され、魔王城になっちゃっている状態なのでそれをどうにかしないと危険が危ない(謎。
やはり、ここに居るにしろ帰るにしろクリアするのが一番だと思う。
まぁ、クリアしたら帰れるなんて保証はどこにもないのだが。
なんて事を考えながら馬車から揺れる風景を見ながら考える。
丸一日程馬車に揺られていると、日が暮れて来た頃に川が見えてくる。
その川の側に村があり、今日はそこで一泊する事となった。
「ん〜、ずっと馬車に乗っていたから疲れた〜」
背伸びをしながらリナかそう叫ぶ。
「東の塔はまだまだ先ですね」
モモもちょっぴりお疲れの様だ。
「……まだ半分も来ていない」
クルミがそう言うと、
「まじか〜」
体がなまって仕方がないと言わんばかりにリナが溜息をつく。
「とりあえず宿を探そう」
僕達は馬車の人に聞いた宿屋へと向かう。
ガヤガヤ
交通の拠点でもあり宿場町でもあるこの村は結構賑わっていた。
「ここの名産は何かな〜」
無事に宿もとれて部屋でひとしきりくつろぐと、お腹が空いてくる。
二ヴァーンの町の海鮮が美味しかったので、ここの食事にも期待してしまう僕。
賑わっているのか、なにやら騒がしい気もするが余り気にせず食事をする為に宿屋に併設された酒場へと向かう。
すると先に向かっていたモモが
「永太様!大変です」
慌てた様子で僕の元へ駆け寄って来た。
「どうしたの?モモ」
僕は肩で息をしていたモモを落ち着かせる様に静かに返事する。
「どうもこうもないわよ」
するとリナもやって来て気の抜けた声で話す。
「……」
クルミはクールに席に座り、僕達にも座るようにうながす。
「一体何が?」
席に座った僕が話を切り出す。
「それがですね」
「東の都市ミーカワに行くには、東西の境界にある川を渡らないと行けないんですが」
「その橋が魔物に占拠されてしまって、通行出来なくなっているって」
モモがワタワタと話しているのを微笑ましく見守る僕。
「なるほど、妙に騒がしかったのはそれが原因なんだね」
僕は冷静に返事を返す。
「あんまり驚いてないわね、モモの説明よちゃんと驚きなさい」
リナがまた無茶な事を言って来る。
「ぅ、うわぁ~、なんてこった!てえへんだ〜」
明らかな棒読みで僕は驚いてみる。
「……なんか、腹立つ」
思いっ切り人にやらせておいて不満げなリナ。
「その魔物のせいで人も荷物も橋を渡れないので、特産品も名産も手に入らなくて今日はパンとスープよ」
リナが引き続き不満げに話をする。
「ぇえ〜!まじかぁ〜、ショック」
今度はちゃんと驚いてガッカリする僕。
「……なんか、腹立つ」
ちゃんと驚いたのに不満げなリナ。
「名産品食べたかったよねぇ、クルミ」
静かにショックを受けていたクルミに僕は話を振って、クルミのクール度合いを和らげよう作戦を実行する。
「……食べたかった」
クールなクルミが珍しく残念そうな顔をしている……気がする。
「……なんかキモい」
フレンドリーにクルミに話かける僕を見て、リナがそう言い捨てる。
「ぐふっ」
僕はストレートにダメージを受けてよろける。
「ふふっ」
そんなやり取りを見てモモは仲がいいな、と思っている様だ。
いや、バッサリ切られてますよ。
「フッ」
リナの笑いは同じ様な笑い方でもツンドラ感がある。
「まずは明日、橋の様子を見に行かないとね」
リナが騎士団長っぽく仕切って話を続ける。
こうして僕達は食事を済ませ、明日に備えて眠りについた。
翌朝、村の側にある橋へと向かう。
東明街道の主要道路であり、この国の西と東を分ける大きな川に架かる石造りのしっかりした橋だ。
だが近づいてみると、その橋には大量のツタが絡んでいた。
「何このツタ?橋が見えなくなる位いっぱいじゃないの!」
橋にからまる大量のツタを見てリナか叫ぶ。
「これじゃ馬車も通れませんね」
モモもツタの状態を見てそう言う。
確かに腕の太さほどもある大きなツタが橋の至る所に絡まり行く手を阻んでいる。
「こんなツタ取り除いちゃえばいいのよ!」
リナの猪突猛進が発動してしまい剣を構えてツタを切ろうとする。
シュルシュル!
だが、そのツタが急に動き出しリナを襲う!
「ぇ、ちょ、動くなんて聞いてない!」
動かないと思っていたツタが急に襲いかかって来た為、へっぴり腰で構えた剣と共にリナが弾き飛ばされる。
ギィイイン!
ドサァッ
急とはいえ騎士団長、一応後ろに跳んで衝撃を和らげようとする……が尻餅をついてしまう。
「大丈夫ですか?リナ」
モモが心配して駆け寄る。
「いったぁ〜」
「まったくなによこのツタは!」
リナが立ち上がりウネウネと動くツタを見つめていると、やがてツタは大人しくなり動きを止める。
「なにこれ、切ろうとすると反撃するツタって事?」
「これじゃ人も馬車も通れないじゃない」
リナがそう叫ぶと、後ろから声がする。
「そうですね……、だからそのツタを切ろうとしても無駄ですよ」
そう言って街道の木の陰から現れたのは……黒いマントに黒いフード、黒い仮面のシャドウだ。




