1話 目覚め
僕は目の前に出た選択肢に驚愕している。
「どうしたんですか?」
固まったままの僕に、カワイイ美少女が問いかける。
「あ、ぁあごめん」
僕はそう言って目の前に出た選択肢を再び見つめる。
【はい】
【いいえ】
【うんこ】
「……、」
そして僕は選択する。
【うんこ】
それは徹夜明けで自宅の賃貸アパートに戻った朝。
納期ギリギリのデスマーチで会社に何徹もしていて、ようやくメドが付き自宅に戻って来たのだ。
僕は昔からゲームが好きだった。
目標だったゲーム制作会社に就職する為に何社も受けたが、ことごとく落ちた。
そしてようやく念願のゲーム制作会社に受かったのだが、小さな制作会社な為、人手が少なく納期もギリギリ。
まぁ、こんな無茶な納期でもなければ普段は穏やかで平和な会社に入れたと思っていた。
だが、次に制作するゲームに自分のアイデアが採用されて調子に乗って追加仕様やオプション、ユーザーインターフェースの作り込みなど色四方八方手を出しまくっていた。
元々人手の少ない小さなゲーム制作会社、当然手が回らなくなる。
だが自分の作るゲームは面白い筈だという謎の自信と、自分から言い出した追加仕様ということもあり僕は猛烈に頑張った。
つまりは自分で自分の首を絞めるセルフデスマーチと言うわけだ。
だが、後悔はない。
やりきったという充足感と達成感が僕を包み、自宅の部屋の布団に倒れ込む。
仕事のメドもついたし、久しぶりにグッスリ寝れる……と思った時にはもう眠りについていた。
チュンチュン
「……」
「……、」
眩しい日差しに僕はゆっくり目を開ける。
「……朝?」
「丸一日寝ていたのかな?」
そう思い起き上がろうとする、と
カサッ
手に布団とは違う感触に違和感を感じる。
自分の手を見る。
草。
自分の周りを見る。
草原。
「あれ、自宅に戻って布団で寝た……はずだよな」
自分の服を見ると確かにヨレヨレのワイシャツを着ている。
僕は立ち上がり周囲を見渡す。
草原が広がっている。
その場所は小高い丘になっており、遠くの景色が見える。
遠くにはお城の城壁や街道などがあり、明らかに自分の暮らしていた現代とは違う。
「……ここは?」
そこで僕はふと気付く、
「異世界ってやつ?」
ありがちでベタな展開だが、そういう小説や漫画は腐るほど履修してきた。
そういう世界やゲームが大好きで、ゲーム制作会社に就職してしまう僕みたいな人間にとっては夢みたいな展開だ。
「なんたかよくわからないが、よっしゃ〜」
僕はそんな夢みたいな展開に喜ぶ。
「ぁ、でも待てよ」
「ってことは僕、徹夜で無茶しすぎて死んだったって事になっちゃうのか?」
口元に手を当てて考え込む。
「まてまて、夢オチって事も考えられる」
よくある異世界知識を引っ張り出して僕は考える。
「ゲーム制作で無茶した後に此処に来たって事は、必死にデスマーチして作っていたゲーム内に転生した可能性が高い……のか」
「多分それだな」
そんな事を考えていたら、
「きゃあ〜」
可愛らしい女の子の声が聞こえる。
「イベント来た?のか」
僕は声のした方向を見る。
そこには少女が一匹のゴブリンに襲われている光景が目に入る。
当然の様に僕はそこに向かい、少女に向かってくるゴブリンに立ち塞がる。
「ぅーん、まさに開幕イベントっぽいな」
「ここで僕が華麗にゴブリンを打ち倒し、冒険が始まると言ったところか」
そう言ってゴブリンに向かって構える、が
「そう言えば、武器が無い」
ヨレヨレのワイシャツとシワシワのズボンを着ているだけで剣も無いし、魔法なんか使ったことも無い。
「……えと」
「どうしようこれ」
困った僕に手に持った棍棒を振り下ろすゴブリン。
ドカァッ!!
間一髪で避け、地面に振り下ろされる棍棒。
「うへっ」
あんな棍棒が当たったらただじゃ済まなそうだ、
そう思った僕は数歩後ずさる。
「……あっ」
立ち竦む少女の側まで下がった僕は、その女の子の顔を見る。
心配そうな顔で僕を見つめる……のだが、
「モモ?」
僕はこの少女を知っている。
ピンク色のロングヘアーに可愛らしい声。
「あれ?」
そこで僕は疑問に思い、
「違う?」
僕はそう口に出す。
デスマーチまでして作っていたゲームには、僕の知るこの少女【モモ】は出てこない。
「あれ?じゃあここは?」
そんな事を言っていると、ゴブリンが再び襲いかかろうと棍棒を構える。
「げっ」
その様子を見て僕は身構える。
するとピンク髪の少女、モモが
「あの魔物は暗黒四天王のゴブイチです。」
「このままでは勝てません、逃げましょう」
そう叫ぶ。
その台詞を聞いて僕はつぶやく。
「……この台詞」
すると僕の目の前に選択肢が突如現れる。
【はい】
【いいえ】
……そして
【うんこ】
それを見て再び僕はつぶやく
「……この選択肢(汗」
この世界やピンク髪の少女モモ、この選択肢。
デスマーチして自分が作っていたゲームに転生するベタな展開かと思っていたら……違う。
昔お手軽にRPGが作れるゲームが存在し、小さい頃にノリと勢いと中二病全開で酷い出来のゲームを自作した事がある。
その自作ゲームの名前は……
「【エイタークエスト 〜伝説の始まり〜】かよっ!」
思わず僕は叫んでいた。
【エイタークエスト】それは僕が小さい頃に自作したゲーム。
初めて作ったゲームであり、今の自分が見ると余りに拙く恥ずかしい演出や展開の行き当たりばったりで作ったのがバレバレの酷いゲームである。
そしてこの選択肢もその一つだ。
作り始めたのが小学生だった事もあり、この選択肢を考えていた頃の自分はノリノリの大爆笑で作っていたのを思い出す。
【はい】
この選択肢を選ぶと、ピンク髪の少女モモと共にこの場を逃げ出し、そこから冒険が始まる。
【いいえ】
この選択肢を選ぶと、ゴブリンと戦う事になるのだが相手は暗黒四天王のゴブイチ、絶対に勝てない強さに設定されており確実に負けていわゆる負けイベントとなる。
ゲームでは負けると死んで初めからやり直しとなるのだが、この世界で死ぬとどうなるのかは不明瞭だ。
よくある漫画や小説などでは死んでやり直していくと言う展開はありがちだが、死んだら復活しないで終わりと言う展開も十分に考えられる。
この状況で復活の可能性に賭けるのは間違いなく無謀であろう。
……だとしたら、
「どうしたんですか?」
固まったままの僕に、モモが笑顔で問いかける。
「あ、ぁあごめん」
僕はそう言って目の前に出た選択肢を再び見つめる。
【はい】
【いいえ】
【うんこ】
「……、」
そして僕は選択する。
【うんこ】
明らかに異質な選択肢だが、僕には自信がある。
何故ならここは僕の自作ゲームなのだから!
選択すると同時に自動で僕の口が動き出す。
「うんこ!」
「の敵は僕が倒す!」
「任せて!」
「……ぇ」
それを聞いたピンク髪の美少女モモが僕を見つめる。
「うん、この敵は僕が倒す」
この選択肢で、この会話内容にした当時の僕は大爆笑で作っていた事を思い出す。
「……」
うーんこの空気、
あの時の僕に言いたい、
寒いですよ〜。
「まぁでも、そのおかげでコレが手に入る!」
僕はそう言って突如現れた剣を手に取る。
「その剣は?」
突然現れた剣にモモは驚き、僕に質問する。
「……この剣は」
「光輝闇暗炎竜剣」
うわー、寒い。
当時小学生だった自分の知識で、光とか闇、炎に竜とカッコいいと思うものだけを並べただけの様な名前だ。
ウガァァァォァア!!
完全に無視されていたゴブリン(暗黒四天王)のゴブイチが怒って襲いかかって来る。
自然と体が動き、ゴブイチの攻撃を躱すと自分の口が勝手に喋り始める。
「邪王暗黒流次元断層剣零式改」
スゴォォォォォオオオ!
その一振りでゴブイチの体は一刀両断された。
「グ……ガ……ァ」
ドカァァァァーーン
真っ二つにされたゴブイチは爆発し、霧散した。
「……す、凄い」
「あの暗黒四天王を倒すなんて」
ピンク髪の美少女モモが僕を見てつぶやく。
「流石負けイベントに勝つ為だけに作った、ボクのカンガエタ最強武器」
そう言って僕は剣を見つめる。
そう、この剣は本来負けイベントであるゴブイチとの戦闘に勝てたら面白いんじゃないかと考えた後付けの選択肢。
【うんこ】その選択肢を選ぶと自動的に手に入るこのゲームでの最強の武器である。
「……それにしても邪王暗黒流ってなんで主人公が使っているんだよ……」
とか
「零式改って言いたいだけの技名……」
などなど
「改めてやると酷い自作ゲームだな」
僕は苦笑いしながら剣をアイテムボックスにしまう。
異世界やら、転生やらの作品を沢山読んだおかげでこういう転生時の基本的な動作はなんとなくわかってしまう。
今の時代そんな人は多いだろう、僕ももれなくその一人である。
「あ、ありがとうございます」
モモが近寄って来てお礼を言う。
「凄いです!あの暗黒四天王のゴブイチを倒したあの技!」
「邪王暗黒流次元断層剣零式改という美しい技!」
「光輝闇暗炎竜剣、なんて素晴らしい名前の剣!」
僕の手を握り嬉しそうに飛び跳ねるモモ。
「……(汗」
「と、取り敢えず落ち着いて」
僕は動揺しながらモモに語りかける。
「あ、はい」
モモはそう言って手を離す。
……正直、面と向かって昔の黒歴史を手放しで褒め称えられると恥ずかしさで危うく恥死しそうだった。
さらに言うなら、あんなに間近で可愛い女の子に喜ばれても恥死しそうだったのである。
「モモは大丈夫だった?」
僕が心を落ち着かせた後にそう問いかけると
「あれ?私の名前、何故知っているの?」
不思議な顔をして僕に聞き返す。
「ぁ、やば」
当然自分で作ったゲームだ、キャラの名前は覚えているが流石にそんな事を言ったら余計に話が拗れそうだ。
さらに言うならモモは当時僕が好きだった漫画のキャラ設定をパクり……ゴホン、もといインスパイアされて作ったキャラなので性格や設定も周知済みだ。
えと、確かモモの設定は……王国のお姫様だったか。
「モモ姫様はこの国では有名ですから〜」
僕は咄嗟に作った言い訳で誤魔化す。
「ぁあ、成程」
そう言ってモモは納得したようだ。
モモが天然なお姫様設定でよかった。
「では、改めてお礼を言わせてください」
「ありがとうございます」
モモは深々とお辞儀をした後、僕にニッコリ微笑む。
「ぁ、いえ、どういたまして」
制作した当時はドット絵だったが、リアルな美少女となって目の前に居るモモにドキッとする。
ゲームの技術の進歩は凄まじいな、と思ったがここは異世界?だった。
「よろしければ、お名前を聞いてもよろしいでしょうか」
モモが可愛らしい顔で聞いてくる。
そうか、ここで名前入力か。
「永太」
「僕は九里 永太」
正直ゲーム内転生なのか、夢なのか、VRゲーム的な物なのかよくわかっていない。
取り敢えずはゲームクリアが目標なのかな?
それで元の世界に戻れるかどうかはわからないが、自分で作ったゲームだしそう難しくは無いだろう。
安易に考えていた僕はこの後、後悔することになる。
そう、自分の若かりし頃の中二病具合に悶絶する事になろうとは。




