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「お疲れかな?」

放課後。

生徒たちが教室を出ていく中、机に座ったまま動かない俺に、フランが声をかけてきた。

「昨日、忙しくてな。顔に出てたか?」

「うん。いつにも増して陰気くさいって、みんな言ってた」

……普段からそんな風に思われてたんだ。

その一言に、若干の引っかかりを覚えた。


「疲れてるっていうより……悩んでる?」

フランは探るように、でも優しく聞いてくる。

「……そうかもな」

「私には、だいたい分かるんだから」

敵わないな、こいつには。

「このあと暇? ちょっと出かけようよ」


連れられて来たのは、歩いて15分ほどの河原だった。

「……なんで河原?」

正直、喫茶店での放課後デートなんかを期待していた分、拍子抜けする。

「私が悩んでるとき、よく来るの」


2人並んで何気ない話をしながら歩いた。

最近学校であったことや俺の仕事の愚痴なんかを一通り話し終わり、ぽつりぽつりと沈黙が出来始めた頃、

「ねえ、覚えてる? 昔、うちに怖い大人がいっぱい来たこと」

突拍子もなくフランが言う。

「……ああ。」

確か俺たちが十歳くらいの頃だ。

「あの時ね、私はギルの後ろに隠れて、終わるのを待つことしかできなかった。でも、アランは……一人であの人たちのところに行ったでしょ」

あれ以上、フランから何かを奪われるのが耐えられなかった。

父親を亡くして、少しずつ元気を失っていく姿を、ずっと見ていたから。

「私、怖かったの」

フランは足を止めず、前を見たまま言う。

「アランが一人で、どんどん遠くに行っちゃう気がして。いつか……帰ってこなくなるんじゃないかって」

「そんなこと…」

そう言いかけるが続く言葉が見当たらない。

彼女は少しだけ笑った。

「今はもう、アランもギルも軍に入って、私の手が届かないところに行っちゃったでしょ。もう、同じ場所には立てない。一緒に進むこともできない。」

落ちかける日を受けながら、彼女はしっかりと続ける。

「だから決めたの。君たちが振り返ったときに、目に入るくらいの距離まで、私も歩き続けるって。二人がもうダメだって思ったとき、大丈夫だよって……寄りかかれる場所になるために」

こちらを向きそう言う彼女の顔を俺は見ることが出来なかった。


あの時、フランの家に来たのは帝国の軍人だった。

フランの母親には、魔導国のスパイ容疑がかけられていた。

「なんで、こんなことするんだよ」

震えを抑え、必死に吐き出した言葉に、軍人の男は静かに答えた。

「誰かがやらなければならない。ここに住む全ての人間と、家と、生活を守るために」

子供としてではなく、

一人の人間として向けられた言葉だとなんとなく感じた。

2人歩く帰り道、俺はそんなことを思い出す。


——もし俺が死んだら。

フランは、きっと泣くだろう。

それでも。

こいつが、あいつらが、平和に生きられるなら。


そこに、俺がいなくても。

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