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7 ルル・マグゼル

「おとなしく返してくれるね」

ルルは落ち着き払った声で言った。口元には微笑が浮かんでいるが、その目はまったく笑っていない。

「わかったよ」

俺はゆっくりと手にしていた手紙を床に置いた。

——その瞬間、ルルは一息に距離を詰め、剣を突き出してきた。

首を狙った一直線の刺突。

かろうじて身を捻り回避するが、肩に焼けるような痛みが走る。

「っ……!」

勢いのままベランダへ駆け、身を投げ出す。着地の瞬間、全身に鈍い衝撃が走った。

木陰に身を潜め、呼吸を整える。

《日陰者》が発動中なら、簡単には見つからないはずだ。

手紙は、まだ俺の手にある。

「大丈夫か?」

耳元でクラウスの声がした。

「少しトチったが問題ない。手紙も確保した」

魔力阻害を解除し、呼吸を整える。

「門は?」とレイナ。

「予定通り開けていい」

「無茶はするな。最悪、俺も、」

「来なくていい。あんたが来ると余計ややこしくなる」

「しかし、き…の……が……」

通信が、唐突に途切れた。

「すごいな。まるで気配を感じない。それに、その魔道具……面白いじゃん」

背後から声がした。

ルルが、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

先ほどのような隙は、もうない。

「早すぎるだろ...」

慎重に間合いを保ちながら、時間を稼ぐ。

守るべきは、俺の命じゃない。

捕らえられ、情報を抜かれるくらいなら。

自死するしかない。

だが、この手紙を失うわけにもいかない。

ルルは剣を構えたまま、楽しげに首を傾げた。

「その顔。覚悟はできてるって感じだね」

「仕事なんでな」

次の瞬間、地面が弾けた。

ルルの踏み込みは異常だった。視認した時には、もう間合いの内側にいる。

間に合わない、

回避を諦め、俺は魔力による身体強化を止める。

――嫌だ。死にたくない

自ら受け入れたはずの死を直前になって再び拒絶していた。

その瞬間、

ゴギィ

鈍い音がするも、俺の身体には痛みはない。

目の前には、突如として現れた黒いスーツに身を包む細身の男。

「クラウス」

「邪魔したかな」クラウスが言うと、

「全くだな」とルルは軽く肩をすくめる。

次の瞬間、クラウスの蹴りが炸裂する。

ルルの身体は地面を転がり、数メートル先まで吹き飛んだ。

「帰るぞ、門は持ってきた」手に握りしめたバンドを見せる。

「魔力阻害が、まだ残ってる…」

「手紙は諦めろ」有無を言わせぬ声だった。

起動音と同時に視界が歪む。

次の瞬間、俺たちは作戦室に戻っていた。

——手紙は、ない。

さっきまで確かに手の中にあったそれは、もうどこにもなかった。


残されたルルは、ゆっくりと立ち上がる。

泥にまみれた服も、口の端の血も気に留めず、先ほどまで敵が居た空間を静かに見る。

「……帝国の亡霊か」

その呟きは、誰に届くこともなく、消えた。

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