35 笑み
交流会は終了し、俺とレイナはスバルと別れ部屋に戻る。
ドアを閉めた瞬間、何となく感じる違和感。
そんな俺などお構いなく、
「あーつかれたー」
レイナはそう言うと一目散にベッドに飛び込んだ。
「今日はどうだった?」
ひとまず俺もソファーに腰掛け尋ねる。
「どうも何も、何もなかったじゃない」
「そうじゃなくて、楽しかったか?」
「そうねぇ、まぁ、私に比べたらみんな大したことないし、人は多いし、ずっと歩いて疲れたけど」
一度間を置き、
「―――楽しかった」
こちらに向き直り呟くように言った。
「そっか」
俺はひとまずの目標を達成できたことに少しほっとする。
そして、次の瞬間。俺は部屋に入った時から感じていた違和感を完全に把握した。
ほんのかすかに、部屋には魔力の痕跡がある。意図的に、しかも発覚しないよう丁寧に隠されたものだ。
正確な位置やその目的を探ろうとすれば、向こうに気づいたことを悟られる。
俺は細心の注意を払いながら、おおよその当たりだけをつけた。
「シャワー、私が先に浴びちゃっていい?」
レイナが訪ねてくる。
「ああ」俺はそう答えかけ、
「いや、俺が先使おうかな」
そう言いながらレイナに目線で合図を送った。側においてあったメモ用紙を手に取る。
「そう、じゃあ、」
答えかけたレイナは俺の合図に気付くとぎこちなくそばにある椅子に腰を下ろした。
「そういえばさ、今日何もなかったわけだけど、監察の仕事の方はそれで言いわけ?」
発声に少しの違和感があったがそこまで悪くわない。
次のレイナのセリフをメモに書きながらその質問に答える。
「それだけど、多分、アイツはスパイじゃないよ」
「どういうこと?そんな簡単にわかるわけ?」
これも俺が今描いたメモ通りのセリフだが、その声にはリアルな驚きも混ざる。
「多分アイツは囮、疑われてるのは俺達だ」
そう言い切ると一瞬、完全な沈黙が場を支配する。
既に次のセリフはレイナに見せているのだが、それでもレイナは言葉を飲み込む。
「どういうこと?」
ようやくレイナが口を開く。
「俺たちの部隊の性質上怪しく映る点もあるんだろうな」
「それって、」
「そう、特別情報作戦部隊として」
俺がそこまで言うとレイナは顔をしかめる。
そこまで言う必要はないとでも言いたげに、
だが、そこまで情報を開示しなくてはこの盗聴の主から信頼は勝ち取れない。俺はそう踏んでいる。
「じゃあ、最初からスパイなんていなかったってこと?」
「いや違う。俺たちにも疑いがかけられてるだけで、帝国の情報を流してる奴は別でいる」
「じゃあ、アンタが担当するはずだった学生はシロとして……残り二人のうち、どっちかがスパイ?」
「いや、もう確定してるよ。日中、レオは俺たちと距離が近かった。恐らくアイツが担当することになってる兵士もニセ。俺たちの監視を紛らわせるためだな。」
そして何よりも、部屋の様子を監視し、俺たちについて探りを入れようとしている盗聴の主もレオだろうな。
「てなると、」
「そう、スパイはセレナが担当してるはずの大学教授」
俺はそこまで会話すると一旦メモを置く。
ひとまず、俺たちの立場を信じ込ませることができればいいのだが。
隠し事は多いが、俺たち特別情報部隊も監察課も帝国のために戦う仲間。
俺たちの身をさらしてでもここで争い合うべきではない。
――少なくとも、俺はそう信じている。
◇◇◇
少し離れた別の部屋。
薄明かりだけが灯るその空間で、レオはアランたちの会話に耳を傾けていた。
そして、手にした魔道具には、粗いながらも部屋の内部映像が映し出されている。
アラン達の部屋には盗聴器だけでなく盗撮のための魔道具も仕込まれていた。
メモを使い、会話を巧みに誘導するアランの姿を眺めながら、レオは静かに、しかし確かな笑みを浮かべた。




