33 開幕
魔道具フォーラム初日、俺達は学校の校庭に集められる。
転送用のコストを抑えるため、学生や軍関係者、研究者などは、一括で転送されるらしい。
「俺、転送魔法なんて初めてなんだよ、着いたらバラバラとかじゃねえよな?」
「そんなんじゃねぇって」
基本的に、国を越えての転送には特別な許可が必要となる。
まぁ、俺は無許可でガンガン侵入してるわけだが。
と、そこで俺は集団から距離を置くレイナを見る。
余所行きの格好をしているところを見るのは久々なのだが、黒を基調としたシンプルな服装で、そこには品がある。普段はだらしない姿をよく目にするせいか、とても同一人物とは思えなかった。周りから浮きポツン一人立っているのだが、それを納得させるだけの品格をそこに感じさせる。
育ちがいいと、こういうところで差が出るのかもしれないなんて考えながら、俺は次に、昨日会った監察課の2人、そして監察対象がしっかりと集団の中にいるのを確認する。
点呼と説明を済ませると、俺たちを囲むように配置された方陣が光りはじめる。
転送用の術式が発動したのだろう。
俺が良くしている転送とは異なり、まばゆい光に包まれる。
そして、気づくと辺りの景色は一変。青々と茂った森の中、そして、目の前には夢にまで見たでかいホテル。エントランスにはそこはかとなく人が入り、入り口の装飾からすでに高級感を感じてしまう。何を隠そう、俺はこういった場所に来るのが初めてだった。もちろん潜入で訪れることは多々あるのだが、それはいつも一瞬で楽しむ余裕などあったもんじゃない。そこに来ただけで俺はもうかなり満足していた。
俺たちがいるのは、集団での転送用の受容座標が設置されている場所だった。こういったホテルやでかい屋敷、公共施設などには設置されていて、転送魔法を使用する際、座標指定のための術式が施されている。
フォーラム会場のすぐ近くにあるホテルということで、使用がつっかえているらしく、俺たちは早々にそこを後にしなくてはならなかった。
ひとまずは、俺が学生として行動するのかここまでで、ここからは完全に別行動になる。
こうして、魔道具フォーラム1日目が幕を開けた。
俺はいったん集団を離れ、レイナと合流する。
「にしても、でかい場所ね」
俺たちに割り当てられた部屋に入ると早々にレイナが言った。
「あんたと二人ってのも変な感じ」
「まぁいつもは3人だしな」
「まぁそれもそうだけど」
レイナが言いよどむ。
「任務とはいえ、年頃の男女が二人一緒の部屋に泊まるなんて、」
少し照れたように言うレイナ。その顔には恥じらいがある。
「お前、」
俺も思わず目をそらす。
「冗談よ」
冷めた声。そして放たれるのは冷静な視線。
「知ってる」
俺も同じく一瞬にして真顔に戻る。
今更何かが起こるような関係性というわけでもない。
俺は窓際に立ち、カーテンを少しだけ開ける。
外には、森と、フォーラム会場へと続く道。
警備は厚いが、死角がゼロってわけでもない。
「……いい部屋ね」
レイナがぽつりと言った。
「仕事じゃなきゃ、もう少し楽しめたかも」
「お前は普通に楽しめばいいだろ」
「そうもいかないでしょ。私が気にしてもしょうがないかもしれないけどさ」
「少なくとも、お前に危険は訪れないよ」
少し溜め、
「俺がいるからな」
振り返り決め顔で言った俺のことをレイナは見てすらいなかった。
「ま、とりあえず」
レイナはベッドに腰を下ろし、靴を脱ぐ。
「今日は何も起きないでしょ。初日だし」
「そうだな」
俺はそう答えながら、
その言葉を、どこかで疑っている自分に気づいていた。
魔道具フォーラム1日目。今日は主に展示などが中心となっている。
スバルは今日は学術会議の傍聴に行くようで俺はレイナの付き添いで展示を回ることにした。
魔道具展示ブースの一角。
「……いやぁ、若いのに理解が早いね」
目の前にいる男は、俺の説明にそう言って目を細めた。
「この視点は面白い。理論としては未完成だが、発想自体は正しい」
「ありがとうございます」
俺は軽く頭を下げる。
レイナは一歩後ろで腕を組み、明らかに退屈そうにしていた。
話もひと段落つき、ブースを離れようかというころ、遠くで声が上がる。
「あなたがあのエイナル・アルギリス?」
俺とレイナの横にはいつの間にか人だかりが出来ていた。
初老の男を取り囲むようにして出来た一段の中には俺たちの監察対象も含まれている。
「げー、あのおっさんが?」
レイナが横でしかめっ面をしながらそれを見る。
「なんだよその顔」
「もっと若い人かと思ってたのに」
「お前なぁ」
俺はあきれながら近くのベンチに腰を下ろす。
「誰だ、あれ?」
少し離れた場所でその一団を観察していたレオが近づき耳打ちしてくる。
「帝国の凄腕魔道具技師なんだと。滅多にこういう場には出てこないで有名なんだ」
「なるほどな」
レオは納得したのか俺たちと距離を取る。まぁあまりここの関係を知られるのは良くないし、なにより、他人との接触にレイナがあまりいい顔をしていない。
もうすでに1日目のフォーラムはほとんど終わっていた。俺はレイナと一緒に回っていたのだが、なかなか面白い展示が多かった。
レイナが気になったことや、言いたいことは全て俺を通して伝えられたので、展示している専門家からは天才少年のように扱われてしまった。
「すごかったな、展示」
「まぁね、私なら全部作れるけど」
「実際、お前結構すごいんだな」
「普段からもっと感謝しときなさいよ」
「ていうかあんたもう一個の任務はいいわけ?」
「そっちは今日は様子見だな。」
「友達は?」
「今日は別行動。遊ぶとすれば最終日かな」
「あんたも大概大変よね」
俺に課された2つの任務、そのうちの一つはこう進行中なわけだが、当然、もう一つの任務も並行して行わなくてはならない。
監察対象は3人。
俺たちはそれぞれが1人ずつを対象として行動の確認を行っている。
俺の対象となっている、学生のマクエル・ガラバーン。今日一日、常に監視しながら行動していたのだが、特段動きは見られなかった。
明日以降も動きが無いようであれば何かしらの接触を試みるらしい。




