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31 魔道具フォーラム

対抗演習が無事……かどうかはさておき終わり、一週間。

俺たちは相変わらずの日々を送っていた。

スバルを除いて。


「お疲れみたいだな」

「下手に労おうとするな。殺したくなる」


荒れた肌に、手入れのされていないぼさぼさの髪。

目の下に濃く刻まれたクマが、ただでさえ不健康そうな顔をさらにひどく見せている。

ここ数日、スバルはずっとこの調子だった。

――にしても、荒みすぎだろ。

「終わんねーーー!!」

机に突っ伏したまま、魂の抜けた叫びを上げる。

「先週まではイイ感じだったじゃん」

「直前になってエラーが出てきてんだよ。今日も泊まり込み確定」

とはいえ、寮から学校までそれほど距離があるわけじゃない。

それでも、この様子を見る限り、移動に割く時間すら惜しいのだろう。


「もう来週だもんな、魔道具フォーラム」

俺がそう言うと、スバルは顔も上げずに舌打ちした。

「一番ムカつくのはな、お前らが“買い出し”とか言いながらキャッキャしてんのなんだが」

「わ、悪い」

確かに、少し浮かれすぎていたかもしれない。

なにせ、学校全体で行く“最後の旅行”だ。

内心、楽しみでしょうがなかったのは否定できない。

こいつには悪いが、早く来てほしいとすら思っていた。


帝国領を離れた場所にひっそりと存在するギルス公国。

中立国を標榜するその国で、年に一度開催されるのが魔道具フォーラムだ。

元は小規模な学術会議として始まったこの集まりも、

年を追うごとに規模を増し、

今では世界中の技術者、研究者、軍関係者が注目する

最大級の魔道具技術の祭典へと変貌していた。

帝国と魔道国。

普段なら刃を向け合うような国の人間同士であっても、

この場では一時的に対立を棚上げし、

同じ分野を志す者として交流する――

なんて建前は、当然のように存在しない。

実態は技術と研究成果による、

遠回しで、しかし苛烈なマウント合戦だ。

もっとも、中立国開催という事情もあり、

表向きは終始穏やかに進む。

あくまで「表向きは」。

俺たちの学校も、例年このフォーラムに

校外学習という名目で参加している。

そして今回、とうとう俺たちの学年が現地に足を運ぶことになった。

参加といっても、大半の学生にとっては

最新技術を間近で見学するだけの行事だ。

戦闘、医療、諜報――

どの分野を取っても、魔道具は今や不可欠な存在だ。


その最前線を肌で感じること自体に、十分な価値がある。


だが、こいつは違う。


スバルのように、魔道具技師を志す者にとって、

フォーラムは文字通りの勝負の場だった。

学生であっても、希望すれば展示を行える。

そこで成果が認められれば、

一夜にして将来の道が拓けることも珍しくない。


戦闘職と違い、普段は評価されにくい技術職にとって、

これほどわかりやすい晴れ舞台はない。

気合が入るのも、無理はなかった。


そして、俺たちが追っている《ガニメデ》も、

れっきとした魔道具の一種だ。

当然、フォーラムは情報収集の好機でもある。

浮かれてばかりはいられない。

時間がないことも、わかっている。


「ねえねえ」

そんな空気をぶち壊すように、

アカネが魔導端末を覗き込みながら言った。

「私たちが泊まるホテル、超イイとこらしいわよ」

「まじ?」

「うん、先輩が言ってたんだけど」

そう言いながら俺たちに画像を見せてくる。

それを見ると俺のなかにあったそんな意識は一瞬にして消えてしまった。

透き通るような晴天とそれを反射する海。あたり一面を雄大な自然に囲まれたそのホテルは学生にはえらく不相応だった。

「さすが、軍直属だな」

スバルは少しやる気を取り戻したようだった。。

普段は厳しい規則やカリキュラム、それに応じた能力を求められる学校だが、その分こういったところには金がかかっている。

「なかなかロマンチックそうなところだしね」

そういうアカネは少し離れたところで話をしているフランの方に目をやる。

「ちょっとは進展させたら?」

そう言われると少しは考えてしまう。学生でいられる時間は限りがあるのだ。

「まぁな」

俺はそう答えながら、来るべく日に向けて胸を高鳴らせていた。

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