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26 幕間

時は少しさかのぼり、アラン対ディーンの試合開始5分前。

フラン、スバル、ルカの3人は昼食を買いに出店を訪れていた。

闘技場の外周には出店が立ち並び、学生を中心として多くの人が立ち入っていた。

お互いの居場所すらわからないほどに。

「おい、もう試合始まっちまうぞ」

そういうルカの声を背後に聞きながら、フランとスバルは屋台の前に並ぶ。

「これ買ったら戻るから、先戻ってて」

フランがそう答えると、ルカは人込みの中に消えていく。


「にしてもあいつが本選出場とはな」

そんな軽口をたたくスバルに対し、フランはどこか嬉しそうに答える。

「ね、アランこういうの真面目にやるイメージないのに」

「アカネに感化されたんじゃねーの」

2人して軽く笑い合いながら、順番がもう来るかという時、別の声が後ろからかかる。


「あれ、フランちゃん?」

そう声をかけてきたのは白い髪をした男。よく整えられた服装に華美にすら感じる装飾を身にまとっている。近づくと微かに甘い香りが立ち込めた。

「誰?」

困惑するフランに

「え、忘れた? さすがに傷つくなぁ」

男は大げさに肩をすくめ、わざとらしくため息をつく。

「去年の舞踏会で一回話したんだけど」

「……?」

「知り合い?」

記憶を探るフランの横で、会計を済ませ商品を受け取ったスバルが尋ねる。

「いや、全然覚えてなくて……」

「はは、覚えてないか」

男は自嘲気味に笑いながらも、まったく気にしていない様子で続ける。

「俺はエルネスト。名家・ヴァイゼン家の三男」

その名を聞いた瞬間、スバルの表情がわずかに変わる。

(エルネスト……?)

確か、第2師団の新人。今日の個人戦にも出てたはず。

「今日は観戦かな?学生は昨日だけだもんね」

横に並び立つスバルのことなど気にも留めないような様子でフランに話しかける。

「そうですけど」

「そっか。じゃあ暇でしょ?」

エルネストは当然のように言い、フランの手元を一瞥する。

「屋台巡り? 似合わないなぁ。

君みたいな子は、もっとちゃんとした席で観るべきだと思うけど」

「余計なお世話です」

「はは、手厳しい」

そう言いながらも、距離を詰めるのをやめない。

「ねぇ一緒に観ない?俺も試合出るんだけどそれまで」

「いや、友達と来てるので」

「友達ってもしかして、コイツ?」

そういうとスバルの方を一瞥する。

「あー……なるほど」

納得したように、しかしどこか見下した調子で頷く。

「でもさ、こういう場では“付き合う相手”って大事だと思わない?」

「思いません」

フランは即答した。

「冷たいなぁ。

でもそういうとこ、逆にそそるなー」

「気持ち悪いです」

「はは、正直だね」

乾いた笑い交じりに言うと、

「いいじゃん、ほら」

強引にフランの腕をつかむ。

「ちょっと、やめてください」

そういうフランなどお構いなしに、エルネストは進んでいく。

「おい離せよ」

スバルがそう言うと

「誰に命令してんの?学生風情が」

軽いトーンの中に少し混じった威圧感。

3人の周囲から人はすっかりはけ、周囲の人間は様子見をしながらも距離をとる。

「いいからほら」

2人の抵抗の意味もなく、エルネストは強引に進もうとする。

そんな中、1人の大柄な男がエルネストの進路を妨害するように立った。

「邪魔だ。ぶち殺すぞ」

声の主を見ると

「ギル」

「あ?」

フランとエルネスト2人が同時に声を出す。

エルネストはギルのことを一見し、

「確か、ギルバートとか言ったか?」思い出すように言った。

「だから何だよ、こんなとこでごたついてんじゃねぇ」

そう言いながら、エルネストの手を掴むとフランから引き離す。

「てめぇ」

エルネストは凄んでみせるが、辺りの人だかりを確認すると勢いを収める。

「まぁいい。お前と当たるとすれば決勝だったかな?」

勝負はそこで決めようと言わんばかりの口ぶりで言うと、続けて、

「最年少で入隊した天才だがなんだか知らないが、気に入らなかったんだよお前のこと。いい機会だ、楽しみにしとくぜ」余裕そうに言った。

「まるで自分は決勝に行けるみたいな口ぶりだな」


「まぁな、危ういとすればディーンぐらいだが、俺はあいつと相性が良いんだ」

「あっそ、」

「チッ、舐めた口を」

 

「俺が勝ったらこの女貰ってくぜ」

「勝手にしろ」

最後に言い残すとエルネストは去っていった。


「「助かったー!!」」

「気ぃつけろよ」

安堵する2人に対しギルバートはあきれながら言う。

「ていうか、勝手に私のことトロフィー扱いしないでもらえる」

「あ?知るか」


「お前よくギルバートに食って掛かれるな」

ギルバートと別れると、スバルが言う。

「別に普通じゃん、ていうかなんか今日機嫌いいし」

さも当然かのように語るフランに対し、

「あれでかよ?」

信じられないといった顔でいうスバル。


2人が席に戻った時、アランの試合はちょうど始まるところだった。


◇◇◇


「さぁ、個人戦第一試合も大詰め、第8試合となりました!!!」

会場のアナウンスがそう告げる。

「選手の紹介に移ります。優勝候補、第1師団期待の新人、ディーン!!!迎え撃つは全くの無名ながらも予選を勝ち抜いたこの男、アラン!!!」


「消化試合だな」

「飯食いに行こうぜ」

アナウンスのテンションとは裏腹に会場からはそんな声がちらほらと聞こえてくる。

「では、試合開始!!」


開始の合図がかかるやいなや、俺は一気に距離を詰める。迷うことなく首狙い。一直線に身体を反発させ突っ込んでいくが、完全に防がれる。


―――やっぱり、こいつは俺よりも強い。

厳しい戦闘訓練を受け、同世代奴ら、なんなら一般的な兵士よりかは強い自負はある。

だが、俺は戦闘は得意な方ではないし、才能なんて無いに等しいだろう。

俺がアカネ達や他の学生とは異なる強さを持っているのは単純に覚悟の差だ。

それもひとえにたったの数年覚悟を決めるのが早かったというだけのこと。本格的に訓練を開始すればアカネには抜かれるだろうし、ギルに至ってはもう既に追い越されていてもおかしくない。


目の前にいるこの男は俺よりも年は上、覚悟も当然しているだろう。

では、俺がこいつに勝てる唯一の要素はなにか。

 

攻撃を弾かれ少しだけ距離ができる。


―――思い出せ、あの時感じた恐怖を。

ルル・マグゼルと対峙したあの記憶。予言局で目にした最上位騎士。そして、そいつらと相対した時のクラウスを。

訓練とは違う。この試合とも違う。命を賭けた本気の殺し合い。互いの生命を奪い合う、肌で感じたあの空気を。

 

俺のスキルは一発逆転には向かないし、決め手になるわけでもない。だからこそ攻め続ける。相手に余裕を与えるな。《日陰者》をカードとして機能させるためにもこちらから攻め続ける。


即座に体勢を立て直し、立て続けに攻撃し続ける。確実に命を獲るための動き。

体術に魔力操作、基礎的な部分でなら負けてない。


一瞬の油断が死につながる。それは相手も、そして自分も。1発アウトの超インファイト。様子見や読み合いのない反射での勝負。


―――大丈夫、死ぬことはない。

魔力でしっかりと防げば、傷を負ってもすぐに回復スキルを持つ者が来てくれる。俺もこいつも死ぬことは無い。

剣が加速していくのを感じながらディーンはそう言い聞かせた。

だが、彼自身が積み重ねてきた経験とその類稀なる実力がそれをはっきりと否定する。

―――この速度で剣を交えれば、死ぬ。

自分の命が既に、卓上に置かれてていることをはっきりと理解した。

それは彼にとっては初めての経験だった。

第1師団に入ってから、死ぬほどの訓練、簡単な実戦はあった。しかし、自身の命に手がかかる経験などしたことはない。

覚悟は当然できていた。それでも、実際に命のやりとりをしているという実感が動きをほんの僅かに遅らせる。


開始直後は完全に処理されていた攻撃が段々と通用し始める。致命傷になり得る攻撃は確実に防がれたが、細かく入れた攻撃はだんだんと入るようになった。時間がたつごとに、アランの攻撃は冴え、一方、ディーンの動きは鈍くなっていく。状況はアランが完全に押していた。


―――このままでは負ける。

ディーンはそう直観した。なんとか状況を打破しなければならない。だけれども、その方法を考える余裕も実行するだけの隙もそこにはなかった。くる攻撃をさばくことに神経を全て集中させる。さっきまでは軽くいなせていた攻撃に気を使い始めているという実感がより彼の余裕を奪い去る。


次の瞬間、ディーンは自身のスキル《残火》を発動した。


「折り返しだな…」

熱気を感じ、別のものになったディーンの気配に触れながら俺は言った。

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