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25 2日目・個人戦一回戦第8試合

対抗演習は1日目を終え、会場は今日の総括に入っていた。

日は傾き、喧騒はすっかり過去のものになった。

みんなが閉幕式に出る間、俺はアカネがいる休憩室を訪れていた。

窓から柔らかな日が差し込んで部屋の中を柔らかく照らす。

大きな部屋に1人、俺が部屋に入って来たのに気づくとアカネはベッドから体を起した。

「大丈夫か?」

アカネは試合が終わり表彰を待つ間に倒れてしまったのだ。緊張からの解放、何よりも特訓による疲労が一気に出てきたのだろう。

「大丈夫、ちょっとふらついただけだから」

そう言って、アカネは弱く笑った。


「どうだった?」

しばらくの沈黙ののち、アカネは恐る恐る聞いてくる。

舞台の上では堂々としていたのにすっかり弱気になっている。出会ってからの3年間で一度も見たことがない姿だった。

「良かったと思うぞ。俺が教えたことも十二分に出来てたし。なにより、最後の崩しはなかなか見事だった」励ますでもなく純粋に思ったことを言う。

「そっか」

満足そうにアカネが呟いた。

「優勝した割には暗いな?」

「そうかな」

一拍間をおいて、自身の考えを整理するように話し始める。

「私、もっと強くならないと、」


その瞬間だった。

――バンッ!

扉が乱暴に開かれ、大柄な女が入ってくる。赤くストレートな長い髪に男にも引けをとらないどころか、圧倒的な存在感を与えるその体躯。鋭いというよりかは力強い眼光はそのものが捕食者であることを認識させる。

第1師団団長、フレデリカ。

以前皇帝の前であった時とは別人のように野性的な印象を受ける。


「いるじゃねぇか」

低く、投げやりな声。

「いや、ノックぐらいしましょうよ」

後から入ってきた細身の男がそう告げながらこちらに謝るそぶりを見せる。


「フレデリカ…さん」

アカネはかなり驚いた様子だった。

俺も一瞬何が起こったのかわからずにアカネと顔を見合わせる。

「どうして、ここに……」

「お前に言いたいことがあってな」

その言葉に、アカネは一気に表情を明るくし、こちらを見る。


「あ、あの私、いつか第1師団に入ってあなたと、」

早口につっかえながら言いかけるアカネを遮り

「がっかりだ」

フレデリカは切り捨てるように言った。

「えっ?」

アカネは何を言われたのか認識することが出来ず固まった。

「今の若い世代がどんなもんかと見に来てみれば、お粗末にもほどがある。」

そう吐き捨てるように言った彼女は少し俺に目をやると

「ウチに入りたいのか?お前じゃ無理だ。給仕か下働きの奴隷としてなら入れてやらんこともないがな」

再びアカネに向き直りそう告げた。

「それだけだ、邪魔したな。」


「待てよ」

気が付いたら俺は彼女を呼び止めていた。

「なんだ?」

「わざわざそんなこと言いに来たのか?」

「そうだ、居ても立ってもいられなくてな。嘆かわしい限りだよ」


「こいつは弱くない」

「いや弱いね、悲しくなるほどに」

「今はそうかもしれない、でもいつかはお前にだって」

「ちょっとアラン、私はいいから」アカネが慌てて制止する。


「だから何だ、戦場でもそれを言うのか?あ?」

「それは、」

返す言葉がなかった。それは、俺が先日まで考えていたことだったし、優勝した後でも常に頭の中にあったことだった。

こいつを戦場に立たせたくない。

それは師として彼女に向き合う中で日に日に大きくなっていた。

それでも、俺がその感情に反した行動をとっているのは、友人として、目標に向かいひたむきに努力するアカネの姿を傍でずっと見ていたからだろう。


「こんなこと言いたくないがな、私がお前らの年の頃にはすでに上位騎士を片手間に屠ってたんだよ。」そんな矛盾を抱える俺にフレデリカはさらにこう告げる。

「それに、一度も戦場に出たことのない剣など、使い物にならないことはお前も十分承知だろ。」


「だがその威勢、嫌いじゃないな」

何も言い返せない俺を満足そうに見て言う。

「そこまで言うなら証明して見せろ。」

「証明?」

「明日、お前も出んだろ、対抗演習」

フレデリカは、口角を歪めた。

「ウチの新人も出んだよ。そこで勝てたら、こいつの事、認めてやるよ」

「やってやるよ」


◇ ◇ ◇

フレデリカは部屋を出て、大股で堂々と廊下を歩く。

「あそこまで言う必要、ありました?」

後に続く細身で長身の男・ヴァルドが言う。

「確かに物足りない感じもあります。でもまだまだ発展途上、火力も動きも申し分ない。何よりもあのスキル、あれ絶対団長のと相性いいでしょ。今の段階であれぐらい動けるなら、全然、」

「違ぇよ、バカ」

「え?」

「狙いはあのガキだ」

「ガキって、あの突っかかってきたほうですか?」


「アカネ、とか言ったやつの動き、ありゃクラウスの動きだ。あのガキ確かクラウスの部下だろ。クラウスが直接アカネと知り合うことは無い。となれば、アカネに戦いを教えてるのはあのガキだ」

「それで挑発したと」

「まぁ一緒にいたのは予想外だったがな、かるく突っついてやれば乗ってくると思ったんだよ」

「相変わらず、そういうところだけはキレますよね」

「うるせぇ、シバくぞ」


「ていうかそのクラウス、さん?と仲悪いんでしたっけ?」

「逆だ」

「部下の出来でも私の方が上だって 、わからせてやらねぇとな」


「これ、副団長にバレたら叱られますよ」

「黙っとけよ」

「はいはい」

◇◇◇

翌日、俺は難なく予選を突破し本戦へと勝ち進んだ。

レイナに頼んで、一回戦で目的の人物とあたり、なるべく昼飯で人がいない時間に勝負が来るよう細工してもらった。


「あの子、急にやる気出しちゃったけど大丈夫かしら。」

闘技場観客席の最上部、人の気のない場所で、クラウスとレイナが心配そうに会場を見下ろす。

「意欲的なのは買うが、」


「クラァーウス」

そこに後ろから声がかかる。

「何となく理由が分かったよ。」その声の主を察し、クラウスは事のあらましを理解する。

怯えるレイナを自身の後ろに隠しながら、クラウは声の主、フレデリカに向き直る。

「君の差し金か?」

眉間を抑え、困ったようにクラウスが言う。

「お前との勝負もまともにできなくなっちまったからな」

「模擬戦なら今でもたまにやるじゃないか」

「あんなん勝負とは言わないね」

「俺たちが本気でやり合えば、町一つ吹き飛び、」

「あーもう、うるせぇな、相変わらず」


「模擬線の勝ち負けもきっちり数えてるくせに」後ろから付いてきたヴァルドがそう言う。

「私の987勝789敗69分けだな」

「キモッ」クラウスの後ろから顔をだしたレイナがいうと、

「あ?」と一瞥

「ヒッ」

そう言いまたクラウスの背中に隠れる。

「あいつ、威勢は買うぜ。でもな、ウチのには勝てない」

そういうフレデリカのことを意味ありげな顔でクラウスは見る。

「限られた情報からすぐに結論を出そうとする、君の悪い癖だな」


◇◇◇


空席がちらほらと目立つ中、俺は対戦相手と向かい合う。

「あの人が励ましてくれた。」

対戦相手がおもむろに語りはじめる。

「よかった?のか」

「もちろんだ、だがな、俺が第1師団に入ってから初めてのことだ。お前の何がそうさせる?」淡々と告げる。その目は値踏みするようだった。

「俺も知りたい」心の底からそう思った。


俺の相手はディーン・アルペジオ。俺よりも3歳年上で第1師団期待のホープ。首の手前まで、しっかりと軍服を身にまとい、几帳面に整えられた髪型。

「あの人から受けた期待を裏切るわけには行かない。せいぜい死んでくれるなよ。」

ディーンは剣を抜き構えた。

俺も短剣を腰から取り出し、構えて見せる。

「来い」

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