24 1日目 個人戦決勝
中央闘技場は、すでに熱狂の坩堝と化していた。
数万人の観衆が作り出す音の壁が、空気を震わせている。
個人戦決勝。
舞台に立つ二人の名が呼ばれるたび、歓声が幾重にも重なった。
アカネの相手は名家出身の剣士、ローグ・マリド。
俺たちの世代の中では群を抜いた実力者で、決勝戦はこれまでのような余裕を許さない展開になっていた。
お互いに間合いを保ち、確実な一撃を狙い合う。
試合は、張り詰めた空気のまま、スローペースで進んでいる。
「アカネのやつ、なんでスキル使わねぇんだ?」
煮え切らない展開に業を煮やして、スバルが言った。
「バカ、使えねぇんだよ」
ルカが即座に答える。
あいつのスキル《閃火》は強力だが、その分、発動の前後に致命的な隙が生まれる。
格上との戦闘を想定し、基礎的な体術と魔力操作を中心に鍛えてきたことが、今回ばかりは裏目に出ていた。
実力は拮抗――いや、流れだけ見ればアカネが押している。
それでも、決め手に欠けていた。
アカネが一歩、大きく踏み込んだ。
それに反応して、相手はわずかに重心を落とす。
踏み込みに合わせた迎撃。
この距離、この角度――今まで何度も見てきた定石だ。
だが、アカネはそこで斬らなかった。
踏み込みは囮。
剣は振らず、足だけで間合いを詰める。
「……っ!」
観衆のどよめきが一段高くなる。
剣士の迎撃が空を切った瞬間、アカネは半歩だけ横にずれた。
その動きは、俺が叩き込んだものだ。
――勝つための動き。
次の瞬間、アカネの魔力が跳ね上がる。
「来るぞ……!」
スバルが息を呑む。
だが、アカネは《閃火》を使わない。
魔力につられ防御態勢をとった相手の意識が後ろに下がる。
そこを目掛けて、アカネは鋭く剣を突き付ける。
剣は、すんでのところで躱される。
だが、無理に避けた相手の重心は、完全に統制を失っていた。
「なっ――」
体勢が崩れる。
そのわずかな隙を、アカネは逃さない。
《閃火》
踏み込み、斬撃、爆発。
一連の動きが完全に噛み合い、闘技場を超え天にも届かんとする炎が一直線に走る。
轟音と熱風。
観衆の悲鳴と歓声が重なり、闘技場が揺れた。
相手の剣士は、吹き飛ばされ、地面を転がる。
静寂。
次の瞬間――
勝敗を告げる鐘が鳴り響いた。
「勝者――アカネ・フェルト!」
一拍遅れて、闘技場が爆発する。
フランが泣きながら跳ね、スバルが叫び、 ルカは呆然と口を開けたままだった。
俺は――
ただ、息を吐いた。
控室へ戻る途中、アカネがこちらを見る。
少し照れたように、でも確かに誇らしげに。
――ああ。
教える側として、そして、戦場に立たせた人間として。この瞬間だけは、胸を張ってよかったと思えた。




