23 対抗演習・1日目
そして迎えた、対抗演習初日。
中央闘技場には数万人の観衆が詰めかけ、空気そのものが熱を帯びていた。
歓声、ざわめき、魔術の残滓。
ここに立つだけで、人は簡単に飲み込まれる。
フランとスバルは、無事に各自の種目を終えていた。
本人たちにしてみれば精一杯やり切ったのだろう。
ただ、残念ながらはたから見るとこれと言って見どころは無かった。
「……緊張してんのか?」
控室で待つアカネに声をかける。
「そりゃするでしょ。決勝なんだから」
一緒に来ていたスバルが即座に返す。
「気負うなって。俺なんか二回戦負けだぜ」
ルカも笑ってそう言ったが、アカネの表情は硬いままだった。
「大丈夫。緊張してるけど、悪い緊張じゃないから」
「なんだそれ?」
実際、俺の目から見ても動きは悪くない。
むしろ勝ち進むほど冴え渡っていくぐらいだった。
「まさか決勝まで行くとはな」
スバルはそう言うが
「当たり前でしょ。あんなに頑張ってたんだから、このまま優勝するわよ。うちのアカネは。」
フランが熱く語った。
「結構ギリギリだったけどな」
スバルはそう言うが、実際には逆だ。最小限の動きで敵をいなし、一瞬の隙を突いて仕留める。常に場を最も支配していたのはアカネだった。
「まぁ、ここまで来ただけ十分すごいよ」
スバルにしてみれば、やはり心配が勝つのだろう。
ひと通り声をかけ、部屋を出ようとした時――
「アラン、ちょっと待って」
呼び止められた。
◇◇◇
廊下に出たスバルが、小声で言う。
「なんか、あの二人距離感変わったよな」
「そうか?」
ルカはそう答えつつ、フランの様子を気にしていた。
「まぁ、色々聞きたいこととかあるんじゃない?アランもそれなりに経験はあるわけだし。それに、2人が仲良くなって嬉しいな」
「正妻の余裕か」
「違うから!」
◇◇◇
控室に残ったのは、俺とアカネだけだった。
「で、なんだよ」
「ねぇ……死にかけたことってある?」
静かな問いだった。
本来なら、否定すべきなのだろう。
俺は表向き、戦闘をしない部隊の人間だ。
でも――ここで嘘をつく気にはなれなかった。
「……ある」
「私もね。昔、一度だけ」
視線を落としたまま、アカネは続ける。
「その時は、怖さより、助けられた時の安心感の方が大きかった。でも……これから私が行こうとしてる道って、そういうのじゃ済まないんだなって」
アカネは急にだが確実に強くなった。
今まで抱いていた叶わぬ夢は、もう既に目標に変わった。
「なんで戦えるの? 死にかけても、またそこに足を踏み出せるの?」
「お前たちに、そんな思いをしてほしくなかったからだ」
「……そっか。なんか、ごめん」
「いや」
「でもね。私も、フランも……それでいいなんて思わないよ。絶対に」
アカネは、はっきりと顔を上げた。
「決めた。私も背負う」
「話聞いてたか? 俺がそれを素直に肯定できるわけ――」
「だから」
言葉を遮る。
「あんたが死にそうな時、もうどうしようもない時は、私が代わりにやる」
静かで、揺るぎのない声。
「誰かが死んで、誰かが生きるんじゃない。二人でギリギリまでやって、みんなで生きるの」
俺は言葉を失った。
「あんたは今まで通りでいい。これは、私が決めたことだから」
少しだけ、笑う。
「いつか絶対、追い付いてみせるから」




