21 アカネ
翌日の放課後
「ねぇちょっといい?」
俺は珍しくアカネに声をかけられた。
「なんだよ改まって」
「今度の対抗演習、個人戦の代表に選ばれたの」
「おぉ、すごいじゃん」
個人戦は花型競技となっており、クラスで2名が選出されるのが慣例になっている。
ギルが出ないとはいえ、こいつそんなに強かったのか。
数少ない友人がそんな大舞台に立つ事をどこか誇らしくすら感じている。
一方で、俺はそれを素直に喜べなかった。
二人で教室をでて歩きながら、アカネが続ける。
「私ね、第1師団に入りたいの。……まだ誰にも言ってないけど」
帝国には現在、第1から第8までの師団が存在しているが、そのうち1~4は少数精鋭、多くとも20人ほどで構成されている。第1師団はそんな4つある小規模戦闘部隊の内最強と称される部隊。 現時点で個人戦の代表に選ばれるほどの実力であれば十分可能だとは思うが。
「何でまた?」そう問いかける俺に
「私、南部の出なの。昔あそこ、ごたついてたでしょ」
歩く足を止めず、アカネは続ける。
「そのとき助けてくれたのが、団長のフレデリカさん。小さい頃の、私の憧れ」
「で、俺になんの関係が」
「私の事鍛えてくれない?」
「俺が?」
「結構強いでしょあんた。」
「戦闘訓練の成績、別によくないけど」
「手抜いてるでしょ」
ぴたりと即答され、言葉に詰まる。
「ちゃんと見てるのよ。理由はどうせ、目立ちたくないとか、面倒事に巻き込まれたくないとか……そんなとこでしょ」
――ほとんど、言い当てられていた。
ギルにバレてるのは知っていたがまさかアカネにもわかっていたのか。
「正直、今のままじゃ優勝は危うい。あんた以外に頼れそうな人もいないのよ」
言葉に詰まる俺に対し、アカネは静かに続ける。
「私ね、ここに入学してからはそんなこと考えることもなかった。
すごい狭き門だし、安全なとこ入って、楽に生きてければいいかなって。
でも、あんたやフラン、スバルは一生懸命自分にできること精一杯頑張ってるでしょ。私はあんたみたいに頭が切れるわけじゃないし、スバルみたいにやりたいことがあるわけでもないけど、もう一回自分の目標に素直に生きてみたいって思ったの。」
「だからお願い。私に戦いを教えてください。」
アカネは俺に向かって頭を下げてきた。
「俺が断ったら、その夢はあきらめるか?」
正直言ってあまり乗り気ではなかった。第1師団に入るということはそれだけ危険も増えるだろう。
「たぶん無理。」
―――掛ける思いは人それぞれか……。
卒業後、いきなり第1師団に入隊することは出来ない。通常2年ほどよその部隊で経験を積むことで声がかかる。その時、対抗演習での実績があればかなりのアドバンテージになるだろう。
ここで俺が断ったら、手柄欲しさに無茶やるかもしれないしな。
「わかったよ、手伝う」
「ほんと?」
「ただし、これはある人からの受け売りなんだが、『自分の教え子が戦場で死ぬことほど後悔することは無い。だからこそ戦いを教えるときは殺す気で教えるんだ。戦場で殺されるぐらいなら、ここで殺すぐらいの気持ちで。』」
それはクラウスに言われた言葉だった。そして、それは正しい思う。
「覚悟はあるんだな?」そう尋ねると、
アカネは小さく頷いた。
次の日の朝、
「きゃあ!!」
フランの悲鳴が教室に響いた。
「大げさだって」
慌てるフランをアカネがなだめていた。
昨日からの変わりようを考えるとフランの反応は決して大げさなものではないのだが。腕は黒ずんだあざが服の上からでもわかるほど出来ていたし、クビには大きな打撲の跡。顔にも擦り傷が何個かついていた。
昨日は俺も休みだったので、つっきっきりで訓練を手伝っていた。手伝うといってもひたすらに1対1で戦っていただけなのだが。顔はなるべく避けたつもりだったのだが、申し訳ないな。
「どうしたんだよ?」俺と一緒に駆け寄ったスバルが心配そうに尋ねる。
「ちょっと訓練で」
「訓練って魔獣とでも戦ってたのか?」呆れた声で言うスバルに、アカネは少しだけ俺を見る。
「そんなとこ」
「アカネにこんなことするなんて、わたし許せない」
フランは憤りを込めてそういうが、
「あんたは結構気に入ると思うけどね、そいつ」
またしても俺の方を少し見ながらそう答えた。
「何言ってんの。ほら座って、治すから」
「治すって、結構体力つかうでしょ」
「い・い・か・ら、座りなさい」
強引にアカネを座らせると、フランは治癒を始めた。
「昨日あげた魔道具使わなかったのか?」
隙を見てアカネに耳打ちする。
「使ったわよ、それでこれなの」
―――今度からはもっと回復用の魔道具をもっていってやろう。
俺はそう心に誓うのだった。




