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19 謁見

帝国領、執務館大会議室。

20人ほどが詰めかけた室内で、俺たち情報作戦部隊――表向きには第七補充部隊は、部屋の隅にひっそりと身を寄せていた。各部隊の隊長格が中央付近を占める中、身分相応に、俺はクラウスの隣で小さくなっている。

「俺、来る必要あったか?」

小声でそう問いかけると、クラウスは肩をすくめた。

「皇帝様直々のご指名だ」

「それが一番怖いんだよ……」

やがて扉が開き、一人の若い男が数名の側近を従えて入室する。

その瞬間、室内の空気が切り替わった。

先ほどまでのざわめきが嘘のように消え、全員が一斉に立ち上がる。

俺は一拍遅れて立ち上がり、その異様な統率に息を呑んだ。

男は軽く手を上げ、着席を促すと、最奥の席に腰を下ろす。

帝国皇帝、アルザス・ドゥーチェ。

黒ずんだ金色の短髪に、細身の体躯。

だが、その鋭く射抜くような眼差しが、場に圧倒的な威圧感を生んでいた。

六年前。

弱冠22歳にして、貴族の身でありながら当時の帝国元老院を一掃。

魔導国影響下にあった帝国の自治を回復させ、帝国の今の地位を作り上げた若き皇帝。


「本日集まってもらったのは、他でもない。ある予言についてだ」

簡単な定例報告を終えた後、アルザスが切り出す。

「予言、ですか?」

皇帝の最も近くに座る女――第1師団団長、フレデリカが問い返した。

「先日、とある情報筋から手に入れたものだ。これを」

皇帝の脇に控えていた男が操作し、部屋の中央に映像が投影される。

昨日、俺が目にした予言。


数秒の沈黙。

ため息をつく者、理解が追いつかず黙り込む者。

「……ガニメデ、ですね」

フレデリカの低い声に、皇帝は短くうなずいた。

「そうだ」

「説明をお願いしたい」

困惑を隠せない様子で、別の男が口を開く。

皇帝は一人の男に視線を向けた。

「魔道具開発部の私から説明いたします」

指名された男が一歩前に出る。

「ガニメデとは、魔道工学の祖ガウディスによって設計された153の魔道具のうちの一つです。 巨大な爆弾型魔道具で、その威力は町一つを消し飛ばす規模に及びます」

室内がざわめく。

「さらに、その効果は――あらゆる魔術の無効化。探知も、防御も意味を成しません。 投下された場合、我々はそれを肉眼で確認するほかない」

「……予言は、それを示していると」

「内容から判断して、まず間違いありません」

「それが、一年後に降ってくるというわけか」

男は静かにそれを肯定する。

「ただし、ガニメデの開発は現在まで不可能とされてきました。

理由は二つ。

必要な魔術回路が極めて複雑で、技術的に再現不可能であること。

そして何より、開発に必要なスキル保有者が存在しないことです」

「魔道具の開発は、人が持つ術式を物に定着させることで行われます。ガニメデに必要なSランク相当の魔力無効化スキル――現時点で、その存在は確認されていません」

重苦しい沈黙が会議室を満たす。

「この予言を前提として今後は動いていく」

皇帝はそう断じた。


会議の後、俺とクラウスは皇帝に呼び止められる。

「ご苦労だった」

短い労いの後、アルザスは続ける。

「ガニメデが完成すれば、我々は無条件で降伏するほかない」

一拍置いて、さらに言葉を重ねる。

「十か月後。 この件に進展がなければ、帝国は魔導国に対し、戦争を仕掛ける」

「……戦争ですか。

平和のために戦っているのに」

思わず漏れた言葉に、皇帝は視線を向けた。

「平和とは何だ?」

答えに詰まる俺に、アルザスは静かに言う。

「平和とは、戦争へと緩やかに向かう状態のことだ。安定は腐敗を生み、腐敗は困窮と不平等を形成する。それが限界に達すると戦争が始まる。そこには思想も善悪も存在しない。

ただの構造だ。」


「だからこそ――俺は王としてそこから生じる不条理から民を遠ざけるため最善をつくす義務がある。」

皇帝は、王としての視線で言い切った。

「強くあれ。常に闘争の中にいろ。

弱者に選択は生まれない。

後悔する暇すらなく、ただ蹂躙されるだけだ」


「お前たちには感謝している。」

最後にそう告げられると俺たちは部屋を後にした。

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