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「どうなってる!!」
二階層。
階層を隔ててなお感じられる異様な気配。
魔力探知に慣れた者でなくとも、それが“異常”であることは理解できた。
「多数の魔力反応を確認! 50……いや、100近い反応があります!!」
「何か来るぞ、守りを――」
叫びかけたカースは、途中で言葉を切った。
眉間に深い皺を刻み、即座に思考を巡らせる。
「違う……俺だ。俺の魔力があるはずだ」
「……どういうことですか?」
「いいから第一階層を確認しろ。俺の魔力反応はどうなっている?」
一瞬の沈黙。
そして、息を呑む気配。
「それだ、お前はそこに当たれ」
「離れるぞ」
マイロは統制室にいる他の兵士に声をかけ部屋を出る。
マイロが踏み込んだ先の部屋には――
男が立っていた。外套を身にまとい顔はしっかりと確認できない。
「お前だな」
マイロはそう問いかけるが、向かい合った相手は何も答えない。身動き一つせずにただ立ち止まっていた。
「カース卿の魔力。どうやって手に入れた?」
男に目をやりながらマイロが尋ねるもやはり何も返事はない。
「状況は?」
魔道具からカースの声。
「敵は1名。カース卿の魔力を微かに感じます。」
目線はしっかりと相手に合わせたままカースに答える。
「俺のミスだ。」
カースはそう言いながら先ほどの一件を思い出す。状況判断のため広げた魔力感知があだになった。その際、敵に魔力を抜き取られていたのだろう。先ほどの一瞬でそう判断し即座に指示したが当たっていた。
「間に合ったようだな」
「恐らく。そちらは?」
「人の気配は感じない。」
「一手遅かったみたいだね。いや、俺たちが早かったのかな。」
安心感とともに目の前の男にそう告げる。
「あまり油断するなよ」
魔道具からの忠告を聞きながら、マイロは静かに剣を抜く。
「手早く済ませよう。」
無言のまま立ち尽くす男をその目はしっかり捉えるづけていた。
特に動きもなく気配も探りずらい。独特な雰囲気を保つ男を値踏みする。一見無防備に見えるが、その実そこにはしっかりとした反撃の意思がそこにはある。
まず優先すべきは警護の完遂。最悪逃げられようとも、これ以上奥へと進めてはならない。魔力さえあればどの扉からでも侵入される可能性はある。だが、逆に扉を開ける前の魔力の発生さえ確認すれば補足は可能。初撃をしのいだ時点で敵の作戦はほとんど潰せたようなものだろう。
そして次に優先すべきはここの被害を最小限に抑えること。本気で力をふるえばそれだけでこの屋敷が崩壊しかねないことをマイロは強く心に留める。
両者の間にある沈黙を破り、マイロが慎重にそして確実に一歩踏み出そうとしたその瞬間、男の手元から黒い球が落ちる。
その瞬間、煙幕があたりに立ち込める。
「逃げの一手か…」
部屋の中央、扉を背にマイロは立ち止まる。陽動を考慮し、すぐに追うことはしない。
「対象が逃げた、補足しろ」
統制室に残した部下に繋ぐ。
「物理探知も使用しますか?かなりの魔力を使用しますが」
「構わない。1階層にいる兵士を使って追い込んでいくぞ」
既にカースの魔力を感じることは無かったが、それでも確実に始末をつけなくてはならない。そこにあるのはその使命だけだった。




