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「何事もなく終わりそうでよかったですね」
耳につけた魔道具から届いた声に、短髪の大男は怪訝そうな表情を浮かべた。
「まだ終わっていない。それに“第4の一件”もある。最後まで気を抜くな」
「はいはい、堅物は相変わらずですね」
「お前と話していたくないだけだ」
「ひどいなあ」
気の抜けた返事が返ってくる。
「第4の一件といえば、カース卿は手紙の中身、知ってるんですか?」
「いや」
「よかった。最上位騎士で、僕だけ知らされてないのかと」
豪華絢爛な装いの部屋の中、通信を切りしばらく経つと二人の女が入室してくる。
一人は優雅な身のこなしで、
「あら、カース卿。こちらにいらしたの」
「ヘレナ様。どうなさいましたか」
「間違えただけですわ。この配置、なかなかややこしくて」
続けて、軽くため息をつく。
「まだ下へは降りられませんの?」
「ええ。整備がまだ完了しておりませんので」
「まったく、辟易としますわ。それに――」
ヘレナは眉をひそめ、カースを一瞥した。
「あなたのこの魔力、どうにかなりませんの? 息苦しくて仕方ありませんわ」
「申し訳ありません。しかし、少なくとも部外者がこの屋敷にいる間は、預言者の皆様には私の魔力探知の内側にいていただく必要があります」
「本当に退屈な一日ですこと」
そう鬱屈した声を残し、
「行きましょう、エリス」
半歩後ろに控えていた女に声をかけ、ヘレナは部屋を出ようとする。
「――お待ちください」
カースは二人を引き留めた。
「……何でしょう?」
「エリス様。これは何ですか?」
そう言って、エリスの服のちょうどエリの裏に隠れていた物体を取り上げる。
「ボタン……にしては、少し大きいですわね」
瓶の蓋ほどの半透明な円盤を、二人は訝しげに見つめる。
「何でしょうか?」
当のエリス本人にも心当たりはない。
「微弱ですが……本当に微かに魔力が込められています。魔道具の類でしょう」
カースの目つきが、わずかに険しくなる。
「エリス様。本日、そして昨日はどのように過ごされましたか?」
「今日はずっとヘレナ様と一緒に、居住階層で待機しておりました。昨日は、今日に備えて茶葉などの買い出しに」
「……それが、何か?」
横で聞いていたヘレナが口を挟む。
「いえ、少し気になっただけです。この程度の魔力であれば問題はないでしょうし、何かの拍子に付いてしまったのでしょう。本日はお部屋で、ゆっくりお過ごしください」
慣れない笑顔で、カースはそう告げた。
二人が部屋を出ると同時に、カースは統制室に待機している、もう一人の最上位騎士へと通信を繋ぐ。
「マイロ、聞こえるか」
「なんです?」
「――賊だ」
「魔力を蓄えるものですね」
5分ほどが経過した頃、解析の結果がマイロから伝えられる。
「魔力に晒されると、それを吸収し蓄積する。そして供給が途絶えると、少しずつ放出していく仕組みです」
「それがヘレナ様のお付きのものに付いていた……狙いは鍵でしょうね。」
「だろうな。」
「お二人はご無事で?」
「ああ。魔力の痕跡は一切確認できなかった」
「それは結構」
「取り敢えず、局内のもの全員をチェックするぞ。」




