10 覚悟
その日の暮れ、部隊室にクラウスとレイナを呼び出し、俺は切り出した。
「予言局に潜入しよう」
手紙が騎士団本部へ運ばれた以上、それを奪い返すことはできない。
おそらく、読まれた時点で焼却されているだろう。
ならば、内容を確認できる可能性があるのは――差出元だけ。
「あんた、正気?」
レイナが呆れたように言う。
クラウスも冷静に続けた。
「あのな。あの一件は、計画の段階から無理があった。準備も情報も足りていない。急ピッチで進めたにしては、よくやった方だ。失敗を取り返そうという心意気は結構だが、そういうのは無謀って言うんだ」
「上級騎士が警護についていたってことは、手紙の重要度は相当高い。無謀になる価値はある」
俺は食い下がるが、
「そもそも、手紙がなくとも、魔導国の動きを探ればいい。こちらが対応すれば済む話だ。そこまで固執する理由はない」
クラウスはそう言って首を振る。
「後手に回ったら手遅れになる」
俺は即座に返した。
「帝国が魔導国と、かろうじて拮抗できているのは情報で優位に立っているからだろ」
「それでもだ。予言局への潜入なんて、まず成功しない」
クラウスの声に、わずかな熱がこもる。
「無駄死にするだけだ」
「失うのはガキ一人の命だろ」
俺は言った。
「それでこの国が救われる可能性があるなら、安いだろ。俺がここにいる理由は、それじゃないのか?」
「……駄目だ。絶対に」
有無を言わせぬ声だった。
「それは軍人としての判断か?」
俺は問い返す。
「それとも、良識ある一人の大人としてか?」
クラウスは答えなかった。
沈黙ののち、彼は低く尋ねた。
「覚悟はあるのか」
「ああ」
「吹っ切れた顔してたわね」
アランが部隊室を後にしたあと、レイナがそう言った。
「だから嫌なんだ」
クラウスは苛立ちを隠さずに言う。
「軍人である以上、俺は国を優先する。それはあの子も、お前も同じだ。だが、それは組織の都合だ。嫌なら逃げればいい。戦う義務なんてない」
一度言葉を切り、彼は続けた。
「それでもあの子がそう望み、俺がそれを“国のためになる”と判断してしまった。なら、軍人としては――切り捨てる判断をするしかない。可能性があるかどうかも分からない未来に、命を賭けさせる判断をな」
「つくづく、嫌な仕事だ」
吐き捨てるように、そう言った。




