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神なき世界の設計者 ~奴隷の知識が非合理な絆と最強国家を鍛え上げる~  作者: Ken
第二幕:産業革命の設計図

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第五十三話『支配と取引』


ゼニスの執務室に影が落ちる。

第三の枷の執行者――監視者・グレイだ。

彼はアークライトの支配を体現する、氷の目を持つ男。


「…奴隷スレイヴ1138番。…食料の計画プランを聞こう」


ゼニスは、プランを開示する。


「…第一部隊は、ギデオン、ボルカス、カエル。…第二部隊は、リーナ、ロイド、エララ」

「…第二部隊は、灰色谷で、腐敗を受け入れる、『加工ライン』を構築する」

「…第一部隊は、現場へ…武器は二つだ」


ゼニスは、机の上に、ライ麦の袋と、アルコールの小瓶を置く。


「…プランA、ライ麦で買い叩く。プランB、アルコールで買い叩く」

「…俺は現場に同行する。あんたも好きにするがいい」


グレイは、その二段構えのプランを記録し終えると、無言で立ちあがった。





アークライト領・シルヴァーナ。

第一部隊は、領内最大の市場マーケットに到着した。

荷車には、取引用のライ麦とアルコールの樽を満載している。


現場は阿鼻叫喚の騒ぎだった。

腐敗と恐慌の混乱で、地獄の様相を呈している。


そんな中、ギデオンが群衆の前に立ち、印章指輪を見せながら叫んだ。


「…聞け!俺たちはアークライト公の代理だ!灰色谷が交換する!」

「…お前たちの、腐りかけの食料を、ライ麦で買ってやる!」


だが、プランは即、頓挫した。


「……ライ麦だと!?食料と交換するフリをして…タダ同然で奪う気か!アークライトの犬め!」

「…経済封鎖されたんだ!アークライトに奪われるくらいなら、ここで抵抗して死んでやる!」


興奮した農民たちは武器くわを構える。

それを見て、カエルも棍棒に手をかけた。


ゼニスが沈黙する中、グレイが初めて前に出た。


「…奴隷スレイヴ1138番。…お前のプランは失敗だな」

システム(こどもだまし)は終わりだ…奴らには、恐怖しか効かん」


そう言うと、アークライトの印章指輪を、ギデオンから奪い取った。


「…アークライトの代理として執行する。…親衛隊、前へ!」

「…三人、吊るせ。…交換などせずとも、残りは喜んで差し出す」


これこそが、アークライトが許可した、支配の正体だった。


親衛隊が剣を抜き、農民が死を覚悟した、その瞬間。


「待て」


ゼニスがグレイの前に丸腰で立つ。


「…どけ、奴隷スレイヴ。公の支配を邪魔する気か」


「……グレイ。あんたのやり方は、非合理的だ」

「…なんだと?」


「…三人吊るす。…恐怖で食料は集まるだろう」

「それの何が悪い」


「…食料を集めるのは、アークライト領の食料システムのためだ」

「…だが、彼らは二度と俺たちとの取引ディールには応じないだろう」

「…恐怖で集めた腐りかけの食料は、明日には完全なゴミだ」

「あんたは、ゴミを集めるために、明日の資源リソースを殺す気か?」


グレイが言葉に詰まる。

合理性という新たな価値観に、一瞬怯む。


ゼニスはグレイを無視し、農民たちに向き直る。


「…聞け!恐慌でカネ(通貨)は死んだ!」

「…経済封鎖で、お前たちの食料は腐りゆくゴミになった!」

「…突如振りかかった理不尽に、何も信じられないだろう!」

「…分かる。…俺も奴隷スレイヴだからだ」


ゼニスはボルカスに合図をする。

後方に控えていた第二の荷車(プランB)が、グレイと農民たちの間に割って入る。


荷車には、ロイドが準備した携帯コンロと、リーナが準備したアルコール(保存液)の樽が積まれていた。

ボルカスがコンロに火をつけ、ギデオンが樽を開ける。


「…お前たちの、腐りかけの食料をくれ。交換しよう」

「…ライ麦でなくていい。薪も油も手に入らないだろう?代わりになる」


ゼニスは、農民が持っていた腐りかけの肉を一つ受け取り、保存液に浸し、コンロで炙る。


腐敗の匂いが、食の匂いに上書きされた。


「…そして、腐敗を殺す力だ」


ゼニスは、グレイを見る。


「…あんたの支配は人を殺せる」

「…だが、俺のシステム(アルコール)は腐敗を殺せる」

「…領地を救うのは、どっちだ?」


グレイは、印章指輪を握りしめたまま、

青い炎と新たな価値を前に狂喜する農民たちを見て、立ち尽くすしかなかった。





その夜。代理看守長室(CEOルーム)。


腐敗戦争は勝利した。

農民たちは、腐りゆく食料を差し出し、燃料と保存料を手に入れた。

ギデオンとボルカスは、ライ麦の

マルコが、その新たな物流ルートの確立に興奮している。


ゼニスの隣にはグレイが黙して座っている。

彼はアークライトへの報告書を書き終えていた。


ゼニスが、その報告書を覗き込む。


「…何をする」

「…あんたは、俺を監視するんだろう?俺も、あんたを監視する。…主人マスターに、嘘を報告されては困る」


グレイは、何も言わずに報告書をゼニスに見せる。

報告書には、こう書かれていた。


『食料システムの構築、順調』

『ライ麦の活用は失敗。農民の抵抗に遭う』

『だが、余剰アルコール(ゴミ)を、新たな原資(エネルギー・保存料)に転換)』

『支配の力を使わず、価値交換のみで、農民の抵抗を粉砕)』

『新たな保存食レーション製造ルートを確立。公の軍隊の兵站を無限に補強しうる』


グレイは、ゼニスがアークライトの最強の道具であると報告することを決めた。

彼は、ゼニスのシステムが支配より効率が良いと認めたのだ。


裏の戦争の第一ラウンドは、ゼニスの勝利だった。


ゼニスは、報告書を書き終えたグレイに、次の戦を仕掛ける。

地図を指さし、マルコに言った。


「……マルコ。食料の血管(ルート)は開通した」

「…次は、第二の枷(情報)だ。…この血管に、神経を通す」

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