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神なき世界の設計者 ~奴隷の知識が非合理な絆と最強国家を鍛え上げる~  作者: Ken
第二幕:産業革命の設計図

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第三十三話『価値の創造者』


王都、その最底辺に位置する「スラム街」。

悪臭と、絶望が、(よど)む路地裏。

サイラスは、恐怖に全身を震わせながら、ゼニスとボルカスをある「工房」へと、案内していた。


そこは、工房、というよりは、ただの「ガラクタ置き場」だった。

中には、「ゴミ」が、溢れていた。


廃棄された、革クズ。

割れた、陶器。

錆びた、金属片。


だが、その「ゴミ」の山々の、すぐ横に。

まるで、王侯貴族が使うかのような、「完璧な『芸術品』」

――精緻な装飾が施された「鞄」や「装飾品」が、無造作に、置かれている。


その異様な光景の、奥。

一人の男が作業台に向かっていた。


()()()()


年の頃は、ゼニスと、同じくらいだろうか。

痩身だが、その瞳には、常軌を逸した「熱」が、宿っている。


彼は、ゼニスたちを、一瞥(いちべつ)したが、まるで、興味も示さず、ただ、黙々と、手元の「ゴミ(革クズ)」を、ナイフで、加工する作業を、続けていた。



「…ぎ、ギデオン殿!こ、こちらが、その…!」



サイラスが、媚びへつらうように、声をかける。

ギデオンは初めて顔を上げ、サイラスを、ゴミでも見るかのような目で、一瞥した。



「…ハイエナ(サイラス)が、何の用だ」



その声は、若いが、底冷えするような、冷たさを、帯びていた。



「…その『カモ』は、誰だ?また、俺の『ゴミ(芸術品)』を、二束三文で、買い叩きに、来たのか?」



ギデオンの「敵意」は、明確に、サイラスと、その連れ(ゼニスとボルカス)に、向けられていた。


ゼニスは、言葉を、一切、挟まなかった。

ただ、静かに懐から小さな「ガラス瓶」を取り出し、それをギデオンの「作業台」に、置いた。

中には、「錬金」された、「燃える水」が、満たされている。


ギデオンは、(いぶか)しげに、その「小瓶」を、手に取った。



「や、やめろ、それは、毒だ!」



サイラスが、絶叫しようとして、ボルカスに屈強な腕で口を塞がれた。


ギデオンの「鑑定」が、始まる。

まず、「香る」。

彼は、サイラスのように、「毒だ!」とは、思わない。


(…『雑味』が、一切、ない。…『純粋な』、匂い…?)


次に、「触る」。

彼は、それを、飲まない。

指先に、一滴、垂らす。


「…!?」

(消える…?乾くのが、異常に、速い…)


彼は、その「指」で、油と革の染料で汚れた、作業台の「表面」を、こすった。


「……!」

(…『汚れ(脂)』が、溶ける(・・・)…?)


最後に、「試す」。

ゼニスは、黙ってその「液体」を、別の小皿に少量注ぎ、火打石で、火を、つけた。


――ボッ!


「青白い炎」が、音もなく、燃え上がった。


ギデオンは、その「炎」を見た後、自分の「指」と、油汚れが綺麗に消え去った「作業台」を、交互に見比べた。


彼はサイラスのように、「呪物だ!」とは叫ばない。

彼は、その「本質」に、戦慄していた。


(…『燃料』…『溶剤』…『洗浄液』…『消毒薬』…!…そして、『香水』の、『基材』…!!)

(…こ、これは…『水』じゃない…『可能性』、そのものだ…!)


だが、ギデオンは、その内なる「興奮」を、完璧に隠した。

彼は、ゼニスを試すことにした。

この「化物アルコール」を持ってきた、この得体の知れない「男」を。



「…面白い『水』だ」



ギデオンは初めて、ゼニスを真っ直ぐに見た。



「…で?これを、ハイエナ(サイラス)に、捌かせると?」



ギデオンは、嘲るように、笑った。



「…あんた、馬鹿か?それとも、俺を、試しているのか?

こいつは、『価値(ねだん)』を創造する男じゃない。寄生するだけの、ウジ虫だ。

こんな男に、この可能性(ばけもの)を、渡した時点で、あんたの負けだ。

これは、『金貨』じゃない。…『価値は、ゼロ』だ」



ゼニスは、その「テスト」を、待っていたかのように、静かに、頷いた。



「ああ。ゼロだ」


「!」



ギデオンの、瞳が、見開かれる。

ゼニスは、続けた。



「だから、あんたを、呼びに来た。

…あんたが、この『ゼロ』に、『価値(ねだん)』を、つけろ」



ギデオンは、息を、呑んだ。

目の前の男は、理解している。

価値とは、発見するものではなく、創造するものだと。



「…俺の『価値』は、高いぞ?」



ギデオンは、最後の「テスト」を、仕掛けた。



「『ハイエナ』の、カモになって、やる、つもりは、ない。

俺を、『雇う』のか?『金貨』で?

…このゴミ溜めから連れ出して、あんたの『奴隷』にするのか?」



ゼニスは、そこで初めて、ボルカスに顎で合図した。

ボルカスは、抵抗するサイラスをゴミ袋のように担ぎ上げ、工房から叩き出した。


二人きりに、なる。



「…俺は、あんたを雇う気は、ない」



ゼニスは、静かに、告げた。



「俺は、あんたに『武器』を、渡しに来た」


「…武器?」


「あんたは、『ゴミ(革クズ)』から、『芸術品()』を、造る」



ゼニスは、ギデオンの、工房を、見渡した。



「…だが、『革細工ギルド』の認可がなければ、それはただの『ゴミ』のままだ。…違うか?」



ギデオンの、目が、鋭く、細められた。

図星だった。



「この『燃える水』も、同じだ」



ゼニスは、続けた。



「このままでは、『用途不明の、毒』だ。価値は、ゼロだ。

だが、これに、あんたが『価値』を、つければ…」



ゼニスは、冷徹に、告げた。



「『薬師ギルド』の、『消毒薬』の、独占を、破壊できる」


「『香水ギルド』の、『基材(アルコール)』の、支配を、破壊できる」


「『酒造ギルド』の、『高級酒(ブランデー)』の、権威を、破壊できる」



ゼニスは、ギデオンの目を見据えた。



「俺の目的は、あんたを『雇う』ことではない…ギデオン。俺と、『共犯者』になれ。

俺は、『武器システム』を造る。あんたはその『武器』で、『旧体制ギルド』を『破壊』しろ」



ギデオンは、ゼニスのその狂気じみた「合理性」に、しばし呆然としていた。

やがて彼は、腹の底から笑い出した。



「…『旧体制ギルド』を、『破壊』する…。は、はは!」



ギデオンは、ゼニスに、手を差し出した。



「…サイラスの奴、灰色谷に『化物』がいると言っていたが、あんたがその親玉か。

…あんた、最高に、『狂って』る」


「契約、成立だ。…『共犯者』殿」



ギデオンは、自らの「工房(ガラクタ置き場)」に、松明で、火を、放った。

「ゴミ」と、そこに置かれていた、数々の「芸術品」が、炎に、包まれていく。



「…こんな『ゴミ』は、もう、いらん」



ギデオンは、炎を、背に、ゼニスに、言った。



「…『灰色谷』とやらに、連れて行け。

『本物』の、『芸術(ビジネス)』を、始める」





数日後。


ギデオンが、灰色谷に、到着した。

彼が、最初に、目にした光景。


それは、棍棒を振り回し、奇声を上げて訓練に励む、カエル。

頭に、エララが作ったであろう「雑草の花冠」を載せたまま、真顔で書類仕事をしている、ボルカス。

醜い「蒸留器」のさらなる「改良」に、狂ったように没頭している、ロイド。

そして、その全ての「カオス」の中心で、ただ一人冷静に、「燃える水」の次なる「設計図」を描いている、ゼニス。


ギデオンは、その「光景」を見て、腹を抱えて笑い転げた。



「は、ははは!ぶはははは!」



涙を流しながら、彼は、ゼニスに、叫んだ。



「最高だ!ここは、最高だぞ、ゼニス!

『ゴミ溜め(スラム)』より、よっぽど、『狂って』やがる!」


こうして、旧体制システムを破壊する、最初の「共犯者」が、チームに加わった。

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