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「これって、いけないこと?」


 私達の反応を見て、アル様が怯えたような表情を浮かべた。


「いいえ! いけないことではないわ! ちょっと驚いてしまっただけよ」


「そう、なんだ」


「えぇ、ごめんなさいね。初めて見たものだから、本当に驚いてしまったの」


 その後、カーミラを起こし、宿屋を後にし、食事へと向かった。


「見事な銀髪ですね……」


 外に出たら、カーミラがそう呟いたのを聞き逃さなかった。


 室内ではグレーを思わせる色だったが、外で太陽の陽射しを浴びると、キラキラと輝くほどの銀を発している髪。


 これのどこがアルビノだと言うのだろうか? どう見ても間違いなく銀髪である。


 尻尾も、先端の方は白いが根元に行くほど濃い銀色になっている。


「やっぱり、変なのかな?」


 耳がいい獣人だけあり、カーミラの声を拾ったようで、不安げな表情を浮かべるアル様に微笑んだ。


「違うわ。アルが綺麗だから、獣人嫌いのカーミラも見蕩れてしまっているのよ」


「……やっぱり、アンジーナ達は、人間?」


「言っていなかったわね、ごめんなさい。……そう、人間よ? 嫌、かしら?」


「ううん、嫌じゃないよ。僕、人間を初めて見たから。だから二人からは、嗅いだことのない匂いがするのか」


 狐はイヌ科の動物である。それはこの世界でも同じなようである。


 獣人がいるなら他の同種の動物は存在しないのかと思っていたが、それとこれとは別なようで、きちんと存在している。


『始祖は彼の地に降り立ち、自らの体の一部から、ヒトと動物を生み出した』


 これはこの世界の『創世記』の冒頭である。


 まだ何もなかった世界に降り立った神様は、自分の体の一部から人間と動物を作り出し、その結果神の力を失い、天界へと戻れなくなってしまい、始祖となりこの地に留まったと言われている。


 その始祖が獣人。


 人間と動物、二つの特性を持った彼らは、その子孫なのであると創世記には記されているのだが、それは一部の信仰であり、誰もがそれを信じている訳ではない。


 だから、狐であるアル様は鼻も耳も非常にいいのだろう。


 真横にいた私が辛うじて拾ったカーミラの声も、しっかり拾っていたようだ。


「何が食べたいかしら? 好きな物はある?」


「あの、ね……出来れば……玉子が食べたい……」


 食べたい物が玉子だなんて、可愛すぎないか?


「玉子が好きなの?」


「前、おじさんがくれたんだ、玉子のパン……あれが凄く美味しかったから……」


「そう……じゃあ、玉子は食べましょう! 他には何かある?」


「お、肉?」


「うんうん、お肉ね。そうよね、お肉よね」


 さっきはのんびり見られなかったが、ビラの町は白壁と煉瓦を組み合わせた建物が多く、洒落た雰囲気が漂っている。


 パラスの町は木造の建物が多かったため、人がいなければ寂れた雰囲気を出していただろうが、この町は建物に統一感があり、スッキリしている。


「どこがいいかしらね?」


 食堂は町中に何軒かあるのだが、初めて来る場所なので、どこが美味しいのか全く分からない。


「クンクン……あそこ……あの店がいいと思う」


 顎を上げ、目を閉じて鼻をクンクンとさせていたアル様が、一軒の食堂を指さした。


『マコルの食堂』と看板が掲げられた小さな食堂だが、人の出入りは多く、人気店なのかもしれない。


 食堂に入ると、茶色く細長い尻尾の女の子がパタパタと駆け寄ってきた。


「いらっしゃいませ! 三名様ですか?」


「はい」


「今、混んでまして……あ、空いた! ちょっと待っててくださいね!」


 少々忙しない感じの子である。あの長い尻尾はきっと猿だろう。狭い店内をちょこまかと動き回っている。


「お客さーん! ここ、ここに座ってくださーい!」


 店の最奥で、ピョンピョン跳ねながら、大きく手を振っている。


 四人がけのテーブルに、私とアル様が横並びに、カーミラは私の向かい側に腰を下ろすと、猿の店員がすかさずオーダーを取りに来たのだが、メニューがないので、どんな料理があるのか検討もつかない。


「この店には何があるのかしら? メニューもないから分からないの」


「あ! メニュー! 忘れてた!」


 慌ててメニューを取りに行った店員は、メニューとお水を持って戻ってきた。


 前世で住んでいた国では、食堂やレストランに行くと水が出てくるのが当たり前だったが、この世界では水も商品である。


 サービスで出てくることはないのだが、どうしてあの子は持っているのだろう?


「はい、メニューです。それとお冷」


「え? お冷?」


 思わず反応してしまった。『お冷』なんて言葉、久しぶりに聞いたからだ。


「お客さん、お冷を知ってるんです? 私、てっきりマコルさんが勝手に作った言葉だと思ってたんですけど」


 店員が不思議そうに首を傾げていた。


「美味しい玉子料理はないかしら? そして、美味しい肉料理も」


「あー、それなら、オムライスとハンバーグがオススメです! マコルさんの特製で、この店でしか食べられない特別品なんですよ! 大人気なんです!」


 お冷にオムライスにハンバーグ。


 どれもこの世界では耳慣れない物だが、私は知っている。きっと、マコルという人物は、私と同じ転生者か何かなのだろう。


「じゃあそれをお願いするわ。二人前ね。カーミラは何にするの?」


「では、私もそれで」


「かしこまり! オムライスとハンバーグ三人前!」


 そういうと店員はパタパタと調理場の方へ駆けて行った。


「オムライスって、何だろう? ハンバーグ? 初めて聞いた……」


 十五分ほど待っていたら、店員が大きなお盆を器用に持ってやってきた。


「はい、お待たせです! 当店自慢のオムライスとハンバーグになります!」


 前世では見慣れた、黄色いアーモンド型の玉子に赤いケチャップのかかったオムライスと、焼きたてで湯気が出ているハンバーグがテーブルに並べられた。


 ハンバーグに掛かっているのはきっとデミグラスソースだろう。


 前世ぶりのその料理に、私のテンションが上がるのを感じていた。


 フワフワトロトロの玉子のオムライスも好きだったが、昔ながらのこういう、薄焼き玉子に包まれたオムライスも好きだった。


「これ、どうやって食べるのでしょうか?」


「普通に食べればいいのよ。こんなふうに」


 オムライスにスプーンを差し入れ、薄焼き玉子を切るようにして、中のご飯と一緒にすくって見せると、カーミラとアル様が目を丸くしていた。


「中に、隠されているのですね、ご飯が」


 包まれているだけなのに、隠されていると感じるのか……と少しおかしかった。

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