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銀狐様と一緒に戻ってきた私を見て、カーミラが卒倒しかけた。
「ど、ど、ど、ど、」
きっと「どういうことですか!?」とでも言おうとしているのだろうが、言葉すらまともに出てこないようだ。
「お腹が空いているようだから、連れてきたわ! 彼は銀狐様……そういえば名前は何ていうのかしら?」
「アル……アルビノだから、アル」
「え? アルビノ?」
アルビノとは動物界において言うと、色素を持たずに生まれてきた個体のことである。
毛の色が白や薄いクリーム色になり、目は血液の色がそのまま現れるため、鮮やかな赤になる。
だが、銀狐様改めアル様がアルビノのはずがない!
アルビノにはないはずの銀の色素をきちんと有しているし、目の赤色が明らかに違うのだ。
アル様の目の色は確かに赤だが、アルビノ特有の鮮やかな赤ではなく、ワインレッドのようなやや紫を帯びた深みのある赤なのだ。これがアルビノのはずがない。
この世界にもアルビノは存在している。名称もアルビノである。
この世界においてもアルビノは珍しく、犬や猫は貴族の間で人気が高いため、私も何度か見たことがあるが、アル様とは全く違うのだ。
「あなたがアルビノのはずがないわ」
「……でも、みんながそう言うから」
オドオドと話す姿がとても痛々しく見える。
「あなたはアルビノじゃない! 私が保証してあげる」
そう言うと、アル様は目を丸くして私を見た。
おばあさんに向かいの席に移ってもらい、アル様を私の隣に座らせると、馬車が動き出した。
席を移動したおばあさんは、アル様を見て「くわばらくわばら……」と手をすり合わせ始めた。
「変な人ね……」と言うと、アル様が首を傾げた。
「君は、知らないの? 獣人なのに……」
「何を?」
「獣人族にとって、アルビノは不吉の象徴なんだ……だから、僕は嫌われてる……」
前世においてアルビノは『幸運の象徴』とされていることが多かったのに、この世界の獣人族にとっては『不吉の象徴』とは驚きである。
白蛇は『神の使い』とも呼ばれる存在だったし、ホワイトタイガーなどのアルビノが生まれればそれだけでニュースになるほど、珍しく人気があった前世とは正反対である。
「僕といると、不幸になる、かも……」
アル様はきっとこれまで、アルビノだと思い込まれたせいで、忌み嫌われ、差別を受け続けてきたのかもしれない。
だから物乞いのような真似をして生きてきたのだろう。そう考えると涙が溢れてきた。
「ど、どうしたの? 僕が怖くなった? 泣かないで? 何もしないから」
「違うの……違うのよ……あなたが今まで、謂れない理不尽に晒されてきたのかと思うと、悔しくて、悲しくて……」
「……僕のために、泣いてくれてるの?」
コクコクと頷くと、アル様が目を丸くした後、私の頭を、子供をあやすように優しく撫でてくれた。
その様子を、カーミラが口をパクパクしながら見ていたようだが、あずかり知らぬ話である。
しばらくして、馬車が止まり、おじさんが「到着!」と声を上げた。
鳥混じりのキリン姉さんと、セキセイインコおばあさんは、我先にとばかりに馬車を下りていった。
ビラの町はパラスより大きく、鳥以外の獣人がきちんと存在しており、そのことに少し安堵した。
すぐにレストランか食堂に行こうと思ったのだが、アル様の格好があまりにも酷かったので、お風呂に入れるため宿屋で部屋を借りた。
大衆浴場があればよかったのだろうが、この世界にはまだそういう施設は存在しておらず、部屋を数時間だけ借りるとしても一泊の料金を取られてしまう。
だけどそんなことはどうでもいい。綺麗になったアル様を見れるのならば、もっと支払ってもいいくらいである。
「お腹が空いてると思うのだけど、その前に身だしなみを整えましょう。綺麗になれば、誰もあなたのことを馬鹿にしたり出来なくなるわ」
そう言うと、アル様はコクンと頷いた。
部屋にある浴室に向かったのだが、アル様はシャワーの使い方も、シャンプーの使い方も知らなかったため、教えることから始まった。
この世界にはシャワーもシャンプーやリンスも存在している。
世界観的にいえば、あちらの中世に、現代の文化の一部を持ってきたような感じである。
シャワーは存在するのに、バスタブはなく、浴槽と呼ばれるものは、大きな木製のタライのようなものだし、シャンプーやリンスはあっても、ボディソープはなく、石鹸も、前世のような泡立ちの良いものではなく、何となく申し訳程度に泡が立つだけだ。
歯磨き粉はあるが、本当に名の通りの粉で、それに少し水を加えて練り上げたもので歯を磨く。
歯ブラシはあるが、毛が非常に固いため、優しく磨かなければ、口の中が血だらけになるため、注意が必要だ。
家電製品はほぼ存在していないが、何故か冷蔵庫だけは存在している。
冷気を放つ珍しい石『アイスストーン』というものが存在し、それを使った『氷室』のような仕組みになっている。
お値段は非常に高く、高級レストランや貴族の家でしか使われていない。
「理解出来たかしら?」
「うん、何となく」
「頭は最低でも二回は洗うのよ? 体もね」
「分かった……」
アル様がお風呂に消えたので、私はアル様の脱いだ服と靴を持って町に出た。
カーミラも一緒についてこようとしたのだが、もしもアル様がお風呂から出てきた場合、誰もいないのは困るので留守番を頼んだ。
足早に街中を見ながら、アル様に似合いそうな服を売っている店を探し、一軒の洋品店に入った。
「いらっしゃいませ」
少々高級志向の店のようで、店員の女性は紺色のビジネススーツに似た服を着ている。
ちなみに、馬の獣人のようで、細長い耳と長い尻尾が生えていた。
「このサイズの服と靴はあるかしら?」
カウンターの上にアル様が着ていた服を置くと、店員は露骨に嫌な顔をした。
「お客様……失礼ではございますが、来る店を間違えていらっしゃいます」
「いいえ、何も間違えていないわよ?」
アル様の服の上に札束を置くと、店員の顔色が変わった。
「も、も、申し訳ございません! 直ちにご用意させていただきます!」
「あ、上品さはありつつ、シンプルなものでお願いするわ」
店員はアル様の服を抱え、店内を忙しなく動き始めた。
「こちらはいかがでしょうか?」
「時間がないから全ていただくわ!」
「あ、ありがとうございますっ!」
靴を三足、シャツを五枚、パンツも五着、ジャケット三着、下着のセットを何点か、その他のベルトや靴下、下着などの小物を数点購入し、丁寧に袋に入れようとする店員を押しのけ、自分で無造作に紙袋に突っ込み、急いで宿屋へと戻った。