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「見えてきましたぜ! あれがラボートでさぁ」


 ドヴォルが指さす先には陸地があり、船がチラホラ行き交う港が見えた。


「おぅ! ドヴォルじゃねーか! 帰ってきたのかよ!」


 気付くと近くには漁船が来ていて、そこにはドヴォルと同じような熊耳を生やした、日に焼けた肌の大男が!


「じゅ、獣人……」


 それを見たカーミラは怯えた声を出していた。


「たまには帰ってこらぁな! カミさんに噛みつかれるしな!」


「違いねぇ! 今回はゆっくり出来んのかい?」


「一ヶ月ってとこだなぁ」


「そうか! じゃ、酒でも飲もうぜ!」


「おうよ!」


 去っていく船、というよりも、獣人さんをしっかりと見つめていた。


 ドヴォルにはない、丸い尻尾が! なんて素敵なんだろう! 銀髪じゃないのが残念だし、出来れば尻尾は長くてフサフサしているのが好みだが、丸いのも趣があるし、何より愛らしいではないか!


 逞しいムキムキの体には決して似合いそうもないのに、実にしっくりと来ている耳と尻尾を、私はうっとりと眺めていた。


 船はゆっくりと港に近付き、止まった。


「着きましたぜ、女神アンジーナ様。ようこそ、ラボートへ!」


 港に停泊している船がドヴォルのだけだったからなのか、少し閑散としている。


「人が少ないのね」


「港が活発なのは早朝と昼過ぎなんですわ。朝は漁船でごった返し、昼過ぎには他国の船が来るんで、また賑わう」


「そうなのね」


 船から下りると、ドヴォルが申し訳なさそうに「案内出来なくてすみません」と言ってきた。


 ドヴォルにはまだやるべき仕事があるのだから、案内まで頼むつもりはなかった。


「宿泊はぜひ我が家で! ドヴォルの家って言えば、この国のやつなら大抵知ってますから」


 なんでも、ドヴォルの奥さんはとても有名な人のようで、それに伴いドヴォルの知名度も高く、ドヴォルの名前を出せば大抵の人は知っているのだとか。


 ドヴォルと別れ、教えてもらった道を行き、街中を目指した。


 時折すれ違った鳥の獣人に、胸をときめかせたのは言うまでもない。


 私としては羽よりも毛が生えた獣人が好みなのだが、前世のアニメなどで見掛けていた、ハーピーに似ている鳥の獣人も愛らしく思える。


 カーミラはずっと怯えたように私の服を掴んで離さないのだが、そんなことを構っていられないほど、私の気持ちは昂っていた。


 港から十分ほど歩いた先に、ラボートの玄関口である港町『パラス』はあった。


 たくさんのカラフルな鳥の獣人達が行き交い、活気ある声が聞こえてきている。


「私好みの銀髪イケメン様はいるかしら……」


 横でカーミラが祈りの言葉を唱え始めた。


 さっそく街中を歩いてみたのだが、すぐに違和感を覚えた。


「ねぇ? ここって、鳥族の町って言われたかしら?」


「い、いえ……そんなことは全く……」


 歩けど歩けど、見掛けるのは鳥の獣人ばかり。


 中にはハーピーのような姿をしつつ、頭には小さな耳や、お尻に尻尾を生やしている者もいたが、私の求める獣人とは違う! 何か違う!


「どうなっているの……」


 道行く人も商売をしている人も皆、鳥の獣人。あれ? 獣人って鳥だけだった? と疑いたくなるほど鳥だらけ。


 思い切って聞いてみることにして、野菜を売っているおばさんに声をかけた。もちろんハーピー型で、色味的にフクロウを思わせる鳥族の獣人である。


「あの、つかぬことをお尋ねしますが」


「おや! 珍しい! 純粋な大熊族かい? 今じゃ純血種は珍しいってのに。で? 何だい? 野菜のことなら任しとくれ!」


 今ので大体の予想はついてしまった。だが、声をかけてしまった手前、質問はしなければいけないだろう……。


「ハルミはあるかしら? それと、そんなに珍しいかしら? 純血種って? 今日、田舎から出てきたばかりで、よく知らないの」


「ハルミかい? ちょっと待ってな」


 ハルミとは、前世のレタスそっくりの野菜で、味もレタスである。この世界ではハルミと呼ばれており、主にサラダ用として食べられている。


 瑞々しいハルミを持っておばさんが戻ってきた。


「これなんか活きもいいし、間違いないと思うよ。……田舎から出てきたのかい? じゃ、知らないのかもねぇ。近年はね、鳥の獣人との混血種が増えちまって、この辺じゃ純血種は珍しいのさ。元々この辺りには鳥族が多かったからね、この辺り特有なのかもしれないが、この町から出たことがないから、よく分からないねぇ」


「異種族婚……あれ? 鳥族って卵生なんじゃ?」


 思わず呟いていた言葉が聞こえたようで、おばさんがブフッと吹き出した。


「そりゃ、いつの時代の話だい? 今時卵生って! アハハハ……鳥族が卵生だったのはもう昔の話だよ。物を知らないにもほどがあるねぇ。人型をとれば異種間だろうが子は出来る。人間と同じさね! だからこんなふうにこの辺じゃ混血が増えちまったのさ」


 鳥族が卵生ではない事実にちょっとショックを受けたが、それ以上に混血種が増えて、鳥の天下になっているこの町に多大なるショックを受けていた。


 ハルミを買い、それを紙袋に入れてもらって、改めて町をじっくりと観察してみたのだが、やはり私の求めているケモ耳尻尾の獣人はどこにもいない!


「惜しい!」というのはいるのだが、やはり鳥が混ざっていて、残念感しかない。


「この町にいても私の求めるもふもふはいないことが分かったわ……」


「じ、じゃあ、お戻りになられるのですか、お屋敷に?」


 カーミラが嬉しそうな声で尋ねてきたが、戻るなんて選択肢はない!


「そんなはずないでしょう! 戻ったらあの白豚と婚約して結婚じゃない! 嫌よ、そんなの!」


「白豚……プッ」


 私のあまりの言いようにカーミラが吹き出していた。


「こうなったら、ラボートの国中を巡ってでも、理想のもふもふ様を探し出すまでよ!」


「く、国中!?」


 カーミラがよろけるのが見えたが、家出までしてやっとたどり着いたのだ。そのくらいの意気込みである。

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