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「何だか分かりませんが、お嬢様がもふもふを愛していることは理解しました。だから、ラボートなのですね?」


「そうよ! もふもふを愛で、あまつさえ、銀髪のイケメンケモ耳様に出会って恋が芽生えたら、私、もう思い残すことはないわ!」


「っ!? 早まってはいけません! 恋が芽生えただけでは心残りしかないはずです!!」


「言葉の綾よ」


「良かったです……ところで、度々出てきていた『フェチ』とは何ですか?」


 フェチ……それは性癖! 性的嗜好! 好物!


「性的嗜好のことよ」


「性!? お嬢様! なんとはしたない!」


「はしたないとは失礼ね! ほら、あそこの二人をご覧なさい」


 私達から少し離れた場所で作業をしている船員を指さした。


 一人が白い肌、もう一人は褐色の肌をしている。


「カーミラは、白い肌と褐色の肌、どちらに好感が持てるかしら?」


「うーん……私は、健康的に見えますので、褐色の肌の方が好感が持てますね」


「ふーん、そうなのね。では、瞳の色は何色が好感が持てるかしら?」


「瞳の色、ですか? 私は空のような青い瞳が綺麗だなと思います」


「そうなのね! なるほど。では……」


 カーミラに髪色や髪型、身長や体格などを次々と質問していった。


「あの、これが何なのですか?」


「それを突き詰めて集約した異性が、カーミラのフェチなのよ!」


「は、はぁ……よく分かりませんが……」


「想像してみなさい。褐色の肌に空色の瞳、少し癖のある茶色い短髪で、背は高く、筋骨隆々で、笑うとえくぼが出来る男性を! どう? 想像出来たかしら?」


「何でしょうか、少しドキドキしますね」


「それがフェチよ! 性的嗜好、すなわち好み! 自分の好みにピタリと当てはまる異性、もしくは同性でもいいわ! そういうものを愛でる! それがフェチ!」


 前世での私はフェチに関してそう思っていた。本当は違うかもしれないが、この際どうでもいい。どうせこの世界にはまだ存在しない言葉なのだから。


「フェチ……はしたない言葉かと思いましたが、好みことなのでしたら、いかがわしくもないですね」


「みんな誰しも、まだ気付いていなくても、自分なりのフェチがあるのよ! 私はそれをずっと前から把握していただけのこと!」


「そう、なのですね……」


「いい、カーミラ? フェチとは実はとても奥深いものなのよ!」


 その後、フェチについても熱く語った私を、カーミラは少し困惑した顔で見ながらも、きちんと話を聞いてくれた。


 フェチとは本当に奥深いもので、人の好みとは多種多様で千差万別であり、フェチも多岐にわたっているのだ。


 外見だけに留まらず、声、匂い、体のパーツ、服装など、様々なフェチがある。


 前世のネット上で度々起きていた、男性の「胸かお尻か論争」もフェチ故の争いであると言えよう。


 胸一つとってみても、大きければ大きいほど良いという人もいれば、真っ平らな胸を好む人もいるし、形にこだわる人もいる。


 かくいう私は、声フェチでもあり、私の好みは、高さを残しつつも程良く低さも持ち合わせていて、耳障りの良い落ち着いた声が好きで、そこに若干のかすれがあると完璧だと思っている。


 逆に、バリトンボイスと呼ばれる、内臓に響くような低音の声は苦手で、バリトンやバスボイスで歌う歌手の歌声は鳥肌が立つほど嫌だった。


 カーミラは手フェチのようで、少し関節がゴツゴツとしながらも、指はスラッと長く、大きな手が好きで、その手で本のページをめくる姿に胸が高鳴るそうだ。


 逆に、ぷにぷにとしていそうな、肉厚であり指が太くて短い男性の手はどうしても好きになれないらしい。


「もふもふは好きだけど、人間で毛深い男は苦手ね。胸毛なんて生えていたら鳥肌が立つわ」


「む、胸毛!? お嬢様!? ご覧になられたことがあるのですか? 一体、いつ、どこで、誰のをご覧になられたのです!?」


「……乙女の秘密よ」


「お嬢様? まさかとは思いますが、淑女としてあるまじき行いは、なさっていませんよね?」


「してないわよ! 失礼ね! 私を何だと思っているのよ!?」


 前世で出来た初めての彼氏が胸毛や尻毛の多い人で、あれは生理的に無理だった。


 少しくらいならば許せるが、皮膚が見えながらももっさり、ふっさりと生えている毛に嫌悪感しか抱けなかった。


 どうせ生えているならば、皮膚が見えないほどみっしりフサフサであって欲しい。その上手触りも良ければ最高であるのだが、人間にそれを求めると、最早ビックリ人間だろう。


 そんなことを話していると、ドヴォルがやってきた。


「もうすぐゲートですぜ」


 ゲートとは、帝国が海上に作り上げた巨大な関門で、ここまでが帝国の海域であると大いに主張している施設である。


 帝国領土から船で移動する者は、帝国海域を出る際には必ずそこを通らねばならず、密航船など一隻も通さない、巨大な橋に似た要塞になっている。


「大丈夫かしら……」


「心配いりませんて! 職員とは顔馴染みですしね。まぁ、見ててくださいよ」


 ゲートには船の大きさ別に関門が設置されており、ドヴォルの船は一番端の巨大船専用門を通るようだ。


 前世の高速道路の料金所のような感じになっており、それと違うのは、人数確認のために関門職員が船に乗り込んで来ることだろう。


 無精髭を生やした恰幅のいい職員は、手際よく、ドヴォルが渡したリストを見ながら人数確認をしている。


 私達の前に来ると、職員が立ち止まった。


「おや? 初顔だね。まさか、その耳は、お前さんの娘さんかい?」


「そうよ。どうだ、可愛いだろ」


「娘がいるとは聞いていたが、まさかこんなにべっぴんさんとはなぁ。お前さんに似なくて良かったじゃないか!」


「俺に似てるから可愛いんだよ!」


「お前さんに似ていたら、こんなに可愛い女の子なわけがあるか! でも、いつ帝国に来たんだ? 来たら分かりそうなもんなのに」


「生まれた時からずっと帝国にいたからな」


「あぁ、一時期奥さんがこっちに来てたな。その時に生まれてたのか」


「帝国の方が教育が進んでるからな。でも、そろそろラボートに戻してもいい頃合いだと思ってよ。里帰りさせるのよ!」


「そうかそうか」


 二人の会話を冷や冷やしながら聞いていたのだが、その後は特に何事もなく、実にあっさりと出国の許可は下りた。


「な? 心配いらなかったでしょ?」


「肝が冷えたけれど、本当に通れたわね」


「関門を抜けたら、ラボートまでは一日あれば着きますぜ!」


 いよいよ憧れの国、ラボートに到着である。


 

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