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 私と一緒がいいと譲らない二人に根負けし、結局私がいただいた部屋で三人で過ごすことになってしまった。


 私とカーミラはベッドルームを、アル様は獣人化した人用の部屋に必要な家具を運んでもらい、そこで過ごすことになった。


「同じ部屋で過ごすのですから、ルールを決めましょう!」


 鼻息も荒くそう言い出したのはカーミラだ。


「アルは獣人であり、男性なのですから、女性の部屋、特にアンジーナ様の部屋への出入りは禁じるべきです!」


「入っちゃ駄目なの?」


「当然です!」


 シュンと項垂れるアル様が可愛らしい。


「逆もまた然りですからね、お嬢様!」


「……分かってるわ」


 言われるだろうとは予想していたが、本当に言われてしまった。


 未婚の、婚約者でもない男女なのだ。当然だとは思うのだが、部屋に行ったところでいかがわしいことなどするつもりもないので、少しくらいはいいと思うのだけど……なんて口が裂けても言えない。


「話がある時はこのリビングで話をする! 用がある時は部屋のドアをノックし、『用があるからリビングまで来て欲しい』と相手に伝える!」


 尤もな話である。


「この部屋ではしたない姿でうろつかない!」


「……はしたない、姿?」


 アル様がキョトンとした顔で尋ねた。


「裸や肌着だけの姿のことです。獣化している時は仕方がないでしょうけど、そうじゃない時はきちんと服を着ること! これはアルに言っているので、きちんと守るように!」


「……分かった……服、ずっと着てる」


 そう言いながらシャツのボタンをきっちり上まで掛けているアル様が本当に可愛い。


「別に、ボタンは少しくらい外していても大丈夫よ? 首が苦しいのではなくて?」


 アル様の首はその体の華奢さから考えても、しっかりと太く、ボタンを全て締めてしまうと窮屈そうに見えてしまう。


「……ちょっと、苦しい、けど、大丈夫」


「一つ、ボタンを外しましょ?」


 近付いて、一番上のボタンを一個外すと、アル様が「ふぅ……」と小さく息を吐いた。


「そして、お嬢様? お嬢様は、アルに必要以上にベタベタしないこと! フェチなのは分かりましたが、お嬢様は未婚の女性であることをお忘れなく!」


「分かってるわよ」


 イチャイチャ出来ることならしたいと思うが、アル様は獣人である。


 獣人には「番」と呼ばれる、いわゆる運命の相手がおり、番と一生添い遂げると聞く。


 獣人にしか分からない特別な香りがあり、それは個々で全く異なっており、番の香りを感じると本能で分かるのだそうだ。


 そして、その香りを嗅ぐと、お互いに惹かれ合い、他は目に入らなくなるのだと聞いている。


 私がアル様の番の可能性は、残念ながらなさそうだ。


 だから、私とアル様がイチャイチャする世界線も存在しないだろう……非常に残念だ。


 でもせめて! せめて時々で構わないから、モフらせて欲しいと願っている。


 これは切実な願いだが、口に出来ない願いでもある。


「リビングは三人の共用スペースになるわけだから、綺麗に使うことも大切よね」


「さすがです、お嬢様!」


「うん、僕、汚さない! 靴も脱ぐ!」


「それは履いていて構わないから」


 靴を脱ぎ始めたアル様を止めたのは言うまでもない。


 この世界は前世とは違い、寝る時とお風呂の時以外、ほぼ靴を脱ぐことをしない。


 部屋の中も当然土足で歩き回るし、スリッパなんてものもない。


 ただ、室内用のヒールのない楽な靴に履き替えることはあるが、それで庭に出たりするため、基本は土足生活である。


 靴が泥などで汚れていれば、家に入る際に拭くことはあるが、完全に裸足になることはないし、そもそも貴族の世界では裸足になることもはしたないことだとされているのでそんなこともしない。


「リビングのお掃除も当番制にすればいいかしらね?」


「当番制ですか? まさかとは思いますが、お嬢様もお掃除をなさる、ということでしょうか?」


「そうよ? 当番制なのだから当然よね?」


「お嬢様が、お掃除……」


 なぜか頭を抱え始めたカーミラ。


「言ったわよね? 私は一通りのことは出来る、と。お掃除もお洗濯もお料理も出来るわよ、私?」


「頭の中で『出来そうだ』と考えることと、実際に行うこととは違うのですよ? お分かりですか?」


「そのくらい分かってるわ。失礼ね。本当に出来るわよ」


 頭で理解していても、実際に行おうとすると出来ないということは多々あることだが、私は本当に一通りのことは自分で出来る。


 こっそりと隠れて色々やってきたのだから、想像だけの話ではないのだ。


 誰に教わることなく、前世の記憶だけを頼りに行った初めての掃除は、とても褒められたものではなかったが、回数を重ねる毎に記憶と行動が一致してきて、今では普通に掃除が出来る。


 料理も洗濯もそうで、実は一番苦労したのは洗濯だった。前世の洗濯機が恋しいと感じたものだった。


「まぁ、それは実際に見てみないことには信じられないのですが……本当に出来るのであれば、当番制も考えてみましょう」


「私よりも、アルの方よね? アルはお掃除って出来るかしら?」


「ゴミ拾いと草むしりは出来る!」


 掃除の次元からして違うようだ。


「あとでお掃除の仕方を教えてあげるから、一緒にやってみましょうね」


「うん!」


「お嬢様が掃除の仕方を教える!?」


 カーミラが必要以上に驚いていた。

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