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 もふもふを堪能し、元の席に戻ると、アル様がツンツンと私の腕をつついてきた。


「どうかして?」


「僕のは?」


「え?」


「僕のは、触らないの?」


「ふぁっ!?」


 驚きのあまりおかしな声が出てしまったことは許して欲しい。


「僕の耳は、触らないの?」


 不安げな上目遣いでそんなことを言われようとは思っておらず、一気に心拍数が上昇した。


「さ、さ、さ……」


「ん?」


「さ、さ、触っても、いいの?」


「アンジーナならいい!」


 嬉しそうに元気よく答えるアル様の、何と愛くるしいことか!


「触って?」


 少し首を傾げながら、甘えたように言われると、それだけで心臓がキュンとしつつ、今にも爆発しそうである。


 クイクイと服を摘んで、触れと催促してくるアル様に、ショック死してもおかしくないほどの衝撃を受け、脳が焼き切れそうだ。


「僕は、触りたくない?」


「はうっ!」


 思わずよろけてしまったところを、カーミラが支えてくれた。


「お嬢様……色々と大丈夫でございますか?」


「だ、大丈夫よ……問題ないわ」


 取り繕ってみたものの、大丈夫でないことは丸分かりのようで、カーミラが深いため息をついた。


「触っても、いいのかしら?」


「うん!」


「本当に本当?」


「触って欲しい!」


 震える手でそっとアル様の形の良い三角形の耳に触れると、しっかりした毛でありながら、手触りはしっとりスベスベなのにふわふわという、それはそれは極上そのものの感触が手に伝わってきた。


「はわぁぁぁ……何という極上至極!」


 心の声は心の中だけでは抑えきれず、自然と口をついていた。


 初めこそ怖々と触っていたのだが、あまりの手触りの良さについ夢中になってしまい、気が付くとしっかりもふもふを堪能していた。


「本当だ。アンジーナに触られると、すごく気持ちいいや」


 アル様が目を細めている。


「キャッ! 愛ね!」


「愛だわ! 愛!」


 私達を見て、ミランとシャロンが黄色い声をあげていたが、その言葉も耳に入ってこないほど、その手触りに、至福の時間に夢中になっていた。


 どのくらい触っていたのだろうか? 気付くとアル様は、耳を触られたことが気持ち良かったのか、コテンと私に寄りかかってきて、小さな寝息を立て始めていた。


 私の胸元に頬を寄せて、幸せそうに眠るアル様。これは、何のご褒美なのだろうか?


 だが、さすがにこれは良くない。まるで胸を枕にしているようにも見えなくもないこの体勢、よろしくはないだろう。


 そっと揺らしてみたのだが、疲れてしまったのか起きてくれない。


 横ではカーミラが今にも怒り出しそうな顔でアル様を睨んでいるし、ファブナ姉妹は口に手を当てて声を押し殺しながらもキャーキャー騒いでいる。


 アル様の頭をそっと持ち上げ、ゆっくりとズラしていく。


 ソファーに横になってもらおうと思ったのだが、結局膝枕になってしまった。


 断じて、神に誓って言うけれど、狙ってやったわけではない! 膝枕なんて、前世からの憧れだったけれど、今は違う! そういうことは二人きりの時にやるものであって、人前でやるものではないのだから!


 だけど、意図せず起きてしまった膝枕というこのシチュエーションに、悶えるなという方が酷である。


 本気で叫び出したい衝動を抑えていたら、カーミラが不安そうに「大丈夫ですか?」と声を掛けてきた。


 興奮を抑えようとした結果、私の体はプルプルと震えていたようで、アル様の頭が重いのではないかと心配してくれたようだ。


「大、丈夫よ」


 私の顔を見たカーミラが大きなため息を吐いた。


「本当に、お嬢様? 大丈夫でございますか? 今にもヨダレでも垂らしそうなほど、お顔が大変だらしのうございます」


 棘しかない口調でそんなことを言われたが、こんな状態で平常心でいられるほど、出来た人間ではないのだ、私は。


 確かに頭は重い。人の頭は意外と重く、ずっとこの状態でいたら、私の太腿はそのうち感覚すらなくなってしまうだろう。


 だけど、そうなってもいい! むしろ本望だ! 二度とないかもしれないこんな状況を楽しまなければ!


 周囲の目を一切無視し、そっとアル様の髪に触れてみた。


 耳のもふもふとは違い、ツルツルサラサラとした髪の手触り。これはこれでまた良い。


 形のいい頭をそっと撫でる。


 アル様の髪は、ちゃんとした散髪はしてこなかったのだろう。傷みがあり、自分で切ったのか長さがバラバラで、肩につくほどまばらに長い。


 前髪もギザギザになっていて、中央部分だけが鼻の頭近くまで伸びている。


「後で切りに行かないといけないわね……」


 前髪付近を撫でてみたら、くすぐったかったのか「んっ……」と眉を一瞬寄せながら小さな声を漏らしたアル様。


「っっ!」


 無防備すぎるその声と姿が私の心のど真ん中を撃ち抜いてきて、鼻血でも吹き出してしまうのではないかと思った。


 そんなことをしていたらジャニスが戻ってきたのだが、眠るアル様に気が付いて静かに入ってきてくれた。


 アル様を起こさないように声を潜めて話を始めた。


「娘達が来ていたのですね。粗相はなかったですか?」


「きちんとした挨拶をしていただいたわ。とても明るくて素敵な娘さん達ね」


「我が家の太陽ですからね。明るさはお墨付きです」


「ドヴォルにここに泊まるように言われたのだけど、きっと聞いていないのでしょ? 迷惑になるようなら、宿を探すわ」


「迷惑だなんてとんでもない! 是非、我が家に泊まってください! ところで、アンジーナ様はなぜこの国に? 何か御用でもおありなのですか?」


 この国へ来た経緯を掻い摘んで説明すると、ファブナ姉妹の目がキラキラと輝いたのが分かった。


「「素敵!」」


「アンジーナ様は獣人が好きなのね!」


「理想の殿方を探しに、家を出てここまで来るなんて」


「「ロマンチック!」」


 本当に息がピッタリな姉妹である。体格差さえなければ双子に間違えられることだろう。


「そういうことでしたか……アンジーナ様? よろしければ我が家に住みませんか? その、銀狐……名前は……」


「アルよ」


「そうだ、アル。アルも一緒に。その御様子から察するに、アンジーナ様の探し求めていた獣人なのでしょう?」


「「まぁ! 素敵!」」


「数泊泊まるだけならまだしも、厄介になるわけには」


「厄介だなんてとんでもない!」


「アンジーナ様、うちに住むの?」


「一緒に暮らせるの?」


「「キャー! 素敵!」」


 姉妹が異様に盛り上がっている。


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