「そうか、犯人は透明人間だ!」
「事件は、滅亡する王国の最前線で起こりました。王都が今にも滅亡しようとするとき、彼女は、国王から婚約破棄を知らされました。その伝達魔法がなされた直後、爆破魔法によって都は滅んだ……」
固唾を飲んで、関係者は真実を聞き出そうとする。
探偵を名乗る男が婚約破棄の現場にやってきたのは、満月の夜のことである。同盟国に逃げ込んだ王子は、国王の遺言を盾に婚約破棄を迫っていた。
しかし、そこに現れた風来坊が、その状況に異議を唱えたのである。
「そうだ。なにもおかしなことはないじゃないか。王国が滅亡するとき、公爵家の人間が持てる人材をもって敵を道連れにすると言う密約は、殿下が伝えた通り!あのような大規模な爆発は、余程魔術がなければ不可能だ!」
「公爵家がもう少しタイミングをずらせば、陛下が亡くなることもなかった!これは公爵家の明確な裏切り行為で、それに気づいた国王が未来のために婚約破棄をさせた!なにも矛盾はない!」
「その爆発が……王家が仕組んだものだったとしても、ですか?」
余韻たっぷりに言った。関係者の間に動揺が走る。王子は色をなくして、バカな、と怒鳴った。
「貴様我が栄光ある王家を侮辱するか!? 悲劇の最期を迎えたわが父らを……!」
「もしも本当に王家が滅んでいたとしたら、侮辱になるかもしれませんな」
「なに!?」
「核爆弾だよ……異世界で発明されたこの爆弾は、想像を絶する熱ですべてを破壊する。その様はもう一つ太陽が生まれたようだったとも言われるほど……それでいて、爆発にはバッグ一つ分で事足りる、まさに悪魔のような兵器。通称そう言った異世界から流れ着いた『オーパーツ』を管理しているのは他ならぬ王家だ。入手も簡単だというわけですよ」
あの日王家がとった行動はこうだ……と探偵が、すべての真実を解き明かしていく。
「既に国境から雪崩れ込んでいた敵兵士たちを止める術がなかったあなた方は、核兵器を用意した一方で、予め避難させていたそこの公爵令嬢を抜きにして、家の人間を口封じのため殺害した。もちろん、自分たちの意図しないタイミングで道連れにされるのを防ぐためだ。そして誰にも邪魔されない状態で脱出の準備を整えたあなた方は、同盟国が手配した脱出手段で国を出た。もちろん直前に、伝達魔法で公爵家を非難することも忘れずに。そうやって罪を擦り付けて、自分たちは王国もろとも滅んだように見せかけた。そうすれば後は、核兵器がすべての証拠を吹き飛ばしてくれるって算段ですよ」
「その証拠は。証拠はどこにあるというんだ!?」
「最前線を担っていた兵士たちが王国ともろとも消し飛ばされた……この状況に、隣国は既に調査を始めています。しかしここ数日、先遣隊からおかしな報告が出始めている……体調不良を訴えているんです。すぐにピンときましたよ……通常の爆発魔法ではなく、核兵器を使用したために、彼らは放射能によって被爆した、とね」
その場にいた誰もが、王子の方へと疑惑の目を向けた。彼は口角に泡をためて、それをぶるぶると震わせていた。今にも爆発しそうなほどに感情を高ぶらせているというのに、額からは尋常ではない量の汗が流れ落ちていた。
「そして何より、王家は核融合炉の設置に最も積極的だった……加えて、あなたが今スカーフで隠している、王家の紋章に見せかけたフィルムバッジ。そんなものを肌身離さず身に着けている時点で、核兵器の使用を疑ってくれと言っているようなものだ」
「もちろん、単純に殿下が公爵令嬢との婚約を破棄したいから王家総出で国を核兵器で吹き飛ばしたわけではないでしょう。殿下の行動は、あくまでも副産物……」
「だ、だが! 仮に王家が爆心地から逃れようとしたとして、どうやって逃げる?爆発までに人間の脚で逃げられるわけがないでしょう!?」
「それこそ愚問だ……殿下が持っているステッキ。一見普通のステッキに見えるそれは、ハンドルだ。そう、電動キックボードですよ。地下のトンネルから脱出するのに使ったとすれば、小回りの利くものでなければならない……だが同時に、その便利な移動手段を他の人間に見られた時、隠蔽できるものでなければならない。最近法改正したばかりのそれを用いることで、殿下は少しでも自分に向けられる疑いを逸らそうとしたんです。それを隠しやすくするために、キックボードから取り外し、ステッキに見せかけた」
「しかし……しかしなぜ、そのようなことを?」
「オーパーツだ。おそらく殿下は、敵国に通じて王家が保管しているオーパーツをいくつか売り払ったんだ。その証拠は敵国がこちらに向けている砲塔で明らかでしょう……そう、10式戦車ですよ。移動する要塞とも呼ぶべきこの恐るべき兵器を、殿下は考えもなしに敵国に売りつけてしまった。その証拠に、馬車では到底つかないような轍が隣国からかつての王国まで、ずっと続いていました。そして、その証拠を掴んだ宰相を、パレードの最中にスナイパーライフルで射殺した。現在の技術で狙撃に適している銃なんて、百メートル過ぎれば当たらないからな。発見された弾丸についていたライフリングマークは、明らかにスナイパーライフルのものだった。ついでに言えばこの間自殺したこの国の大臣を殺害したのも殿下だ。プロジェクターに接続したノートパソコンから動画サイトを開いて、適当な心霊現象の動画を壁に流したんだ。幽霊に追われていると思った大臣は必死に逃げるあまり自分の部屋から飛び降り、ここに不可能殺人が成立したというわけです。また今夜起きた殺人事件も殿下の仕業です。犯人は鋭利なもので殺害されていました。もちろん殿下はこれにオーパーツを使用した。そう、カッターナイフです。血まみれになったそれは刃を追ってしまえばコンパクトに持ち歩ける。まだ殿下が持っていることでしょう。そう言ったオーパーツになぜ私が詳しいかって?それは私が異世界転移してきた人間だからですよ。私の住んでいた国には、このような野蛮で汚い未開の国々とは違って本物の文明があった。その文明を用いて現地の人々をこのように貶めたのだから殿下には反省してほしいものですな。あとそれからそこの少年の妹が死んでしまった件も殿下の仕業だ。人を昇天させてしまうソファで殿下が殺したんだ。そして殿下はオーパーツのニューナンブをこっそり持ち出していた。もちろんそれはすべての罪をこの私に暴露されたため、火曜サスペンスの犯人がよくやるように、自害するため……」
リボルバーが火を噴いた。探偵の体を引き裂いた銃弾が壁にめり込む。王子の顔面は蒼白になっていた。
「くそっ、バレたか!」
王子はこめかみに銃を当て、自殺した。
こうして、異世界の不可能犯罪は、犯人である王子の死をもって終焉を迎えたのであった。