2:エレベーターの女
私は、ある古いマンションのエレベーターに住んでいた。
お気に入りの白いワンピースを着て、自慢の長い黒髪を前に垂らして。
住処には、しょっちゅう生きている人間が出入りしていたわ。失礼なことに、その度にギョッとされたけど、私は寛容だから気にしなかった。
この前のこと。
珍しいことに、生きていない人が一階から乗り込んできたのよね。
赤いワンピースを着た長い黒髪の、私と並んだら紅白で対になっちゃいそうな女。
どこかの階で降りるだろうと思ったら、いつまで経っても降りないの。私の前に立ってじっとしている。
乗ってきた人にはギョギョッと三度見されるし、狭いし、嫌になってきちゃって。
「ちょっと、あんた何なのよ。ここは私のテリトリーなんですけど!?」
「.....」
文句を言っても、うんともすんとも無い。
そんな状態が、3日ほど続いたかしらね。
そしたら、今度は黄色いワンピースの女が乗り込んできたのよ。こいつも幽霊。
「ちょっと! あんたたち、何なのよってば!
他のとこのエレベーター行ってよ、なんだかトリオみたいで恥ずかしいじゃない!」
「「.....」」
やっぱり喋らない。
詰め込んでも定員6名くらいの空間。
いつのまにかマンションの住人はエレベーターではなく階段を使うようになったようで、利用者が減っていたわ。
堪忍袋の緒が切れそうになるのを堪えることさらに3日。
何と今度は全身真っ黒な服装の男が乗り込んでしさきた。あ、こいつも幽霊ね。
プチッ。
「あーあー、もういいわ! 勝手にそこでギチギチになってなさい、私はもっと快適な場所に移りますから。じゃあね!」
言い捨てて、エレベーターを出た。
別にここの地縛霊じゃないし、未練なんてないからね。まあ、薄暗くてジメッとして好きではあったけど。
そうして私は、住処を移したのよね。
これが、しばらく前の話。
◆後日談◆
白いワンピースの女が去った後、しばらく赤・黄・黒の3人は佇んでいたが…
やがて、ニッと笑った。
赤女が伸びをする。
「応援ありがとね〜、やっぱわたし一人じゃ追い出し無理でしたわ」
「なにかちょっかいをかければ良かったんじゃないですか?」
「わかってないな、俺たちが「追い出し業者」だとバレたら強情に居座っちまうじゃないか」
黄女と黒男も口をひらく。
「なるほど…了解です、先輩」
「あなたもそろそろ一人で派遣される頃合いだし、頑張ってね」
「はい」
もう、おわかりであろうが……
そう、彼らはオバケのお祓い業者。
幽霊でありながら幽霊を立ち退かせる。
今回も、とある筋からの依頼を受け出動した。
生きている人間が変に強引に追い出すと、また戻ってしまう事も多い。
その点、自主的に退去させられれば、ほとんど再び現れることは無いのだ。
「さ、帰ったら線香吸お」
「私は三途の河で水浴びてからにします。ここの匂いが染み付きそうです」
「ファブリース浴びるといいぜ」
彼らはファブリース程度では除霊されない。