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乙女ゲームは始まらない

作者: 志居高志

 中世だか近世だかのヨーロッパをモデルとした社会で、本当に貴族学校があるとしたらこういう形式だよね、という話。


 わたくしが前世の記憶を思い出したのは、12歳のときでした。

 その日、王宮で開かれたパーティは、侯爵令嬢たるわたくしを含め、第二殿下と同い年の貴族子女たちが招かれたものでした。

 そこでお見かけした王子殿下や側近候補の方々は、いずれも将来が期待できる美少年(イケメン)でした。

 殿下たちが集まっている一角を見て


(まあ、まるで乙女ゲームの一場面みたい)


と思い


(……乙女ゲームって何?)


と疑問を感じた次の瞬間、前世の記憶が流れ込んできたのです。



「おやすみなさいませ」


 侍女が下がっていった後、私はベッドの中で事態を整理することにしました。

 私が異世界転生したのは間違いありません。()()には前世の世界にはなかった魔法があるのですから。


(乙女ゲームって、平民だの男爵令嬢だののヒロインが、王子様とかと恋に落ちて、婚約者(あくやくれいじょう)である公爵令嬢とかからの嫌がらせに耐え、逆に彼女を断罪して結ばれるって話よね。で、悪役令嬢は婚約を破棄されたあげく、殺されたり国外追放されたり、娼館や修道院に入れられたりする……と)


 乙女ゲームに詳しい人からは怒られそうな認識ですが、前世の私は、乙女ゲームなど全く興味がなかったので、ゲームの世界に転生した人が主人公のウェブ小説でしか知識がないのです。

 悪いことに、先日、私と第二王子殿下との婚約が成立したばかりでした。

 悪役令嬢として破滅するのはごめんです。なんとしても回避しなければなりません。


(でも、ここが乙女ゲームの世界とは限らないわよね。単なる異世界転生かも――)


と思いかけて気づきました。


(明日は王立学園の入学日!)


 この国では、貴族の子女は、13歳になる年から5年間、王都にある学園に通わなくてはなりません。今日のパーティは王子と同じ時期に入学する人達の顔合わせの意味があったのです。

 王立学園といえば、乙女ゲームの舞台そのものではありませんか。



 翌朝。

(大丈夫よね。ウェブ小説には、破滅を回避する方法が色々あったじゃない。

事前に婚約そのものを解消してしまうとか、嫌がらせをしないとか、王家の「影」に自分を監視してもらって無実を証明するとか……)


 そんなことばかり考えていたからでしょうか。入学式で、私は、普通なら違和感を覚えるであろう、あることに気づきませんでした。



「では、各施設を一通りご案内致します」


 10名ほどの小グループに分かれて案内を受けます。先導する職員さんについていきながら、私は渡された案内図に目を落としました。

 学園は、学園長室などがある中央棟を通る南北の線を基準に、対称な建物配置になっているようです。


「こちら東側が女子部、あちら西側が男子部になっています」

(……え?)


 あわてて案内図を見直すと、確かに「女子部」「男子部」と書いてあります。


「あの、建物が分かれているということは、講義も男女別に受けるのでしょうか」


 私の質問に、職員さんはうなずきました。


「その通りです。男女で学ぶ科目も違いますので」


「……同じ講義を受けることはないのでしょうか」


「ありませんね」


 職員さんの目つきがきつくなりました。

 男性とお近づきになれると期待していたのかと誤解されているようです。私は、慌てて言い訳しました。


「……あの、少し殿方が苦手で、一緒の教室で学ぶことになるのかと心配だったのです」


 職員さんの目が和らいだのを見て、私は質問を重ねました。


「食堂や図書館が共用だったりしませんか」


「いいえ。食堂や図書館も男女それぞれの敷地内にありますし、男子部と女子部との間には塀もあります。男子学生と出会う機会はまずありません。一緒になることがあるのは中央ホールでの式典や卒業パーティぐらいですね」



 職員さんの説明は正しいものでした。結局私は、学園内で男子学生と口をきく機会もないまま――もちろん、婚約破棄だのの騒ぎもなく――卒業し、第二王子と結婚して幸せに暮らしています。

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