僕のはちみつ
「あー! 僕のはちみつー!」
「なんだようるせえなぁぺろぺろ」
「うるせえなあじゃないよ! 何やってんだよ、くまお!」
「何って、食ってんだよ」
「見れば分かるよ!」
「じゃあ何だよ?」
「誰の分のはちみつを食ってるんだって言ってんの!」
「んー、貴様の?」
「言い方何!?」
「いいじゃねえか、減るもんじゃなし」
「減るもんなんだよ、がっつり!」
「あーほんとだ、もう五分の四はぺろぺろしたわ」
「めちゃぺろじゃん!」
「いやーうめえ。はちみつうめえ」
「いや返せよ! 僕のはちみつだろ!」
「油断してると、何が起こるか分かんねぇもんだな」
「何かを起こした側に言われる筋合いはないよ!」
「まあいいじゃねえか。もう二度とこんな事はしねえからよ」
「何で今回に限ってそんな事するんだよ!」
「んー、出来心?」
「絶対二度目が起こり得る犯行理由だよ!」
「まあしかし、俺達は食に感謝しないといけないよな」
「急にどうしたっていうんだよ」
「こうやってな、当たり前のようにはちみつが食べられると思っちゃいけねえって話だよ」
「いやほんとに急にどうしたんだよ」
「俺たちは命を頂いているんだ。だからこそいただきますから食は始まるんだ」
「何だい、宗教かい?」
「俺達は、はちみつが好きだ」
「変な間置かないで怖いよ」
「でもな、食べられるはちみつ側の事を考えた事があったか?」
「んー……それは……」
「あいつらもな、相当頭にキテるって話を小耳に挟んでな。反省しないといけねえなって」
「まあ、そうだよね。それは言われれば分かるよ」
「という事で、いただいてます。ぺろぺろ」
「……いや、どういうつもりだよこいつ!」
「ぺろぺろ?」
「それとこれとが、僕のはちみつを盗んで勝手に食ってる事にどうつながるってんだい!」
「はは、何だその言葉遣いうけるー」
「腹立つー!」
「結局君ははちみつを食べたいだけじゃないか!」
「食べてやってんだよ勘違いするな」
「頼んでないよそんな事!」
「すげえな。お前ずっとキレてんな」
「おめえのせいだよ!」
「まあ、はちみつなんてさ、食わなくてもさ、おいしいものなんてさ、いっぱいあるからさ、もうはちみつを食うのはさ、やめとけさ」
「区切り方うざっ」
「そんなこんなでごっつあんです」
「うわー完食―!?」
「あざした!」
「うるせえよ!」
「お前もだよ!」
「ごめん」
「いや負けるなよ」
「僕の……僕の、はちみつ……」
「惚れ惚れするようなガッカリだな」
「……あ、そうだ! 君の! 君の分のはちみつが残ってるだろ! よこせ! よこしなさい!」
「欲しいのか? 欲しけりゃくれてやる。探せ! 全てのはちみつを胃の中に置いてきた!」
「全てが手遅れだよ! ひどい……ひどいよ……」
「……なぁ、くまきち」
「何だい?」
「めっちゃ、うまかった」
「貴様ぁ!」
「はっはっはー。お前は本当に面白いな」
「まったく……この埋め合わせはちゃんとしてもらうかね!」
「はいはい、悪かったよ」
「あーあ。なんかずっと怒ってたら疲れちゃったよ」
「よく眠れそうだな」
「ぐっすりだよ、きっと」
「悪かったな、くまきち」
「いいよもう。そういう日もあると思っとくよ」
「ありがとよ。じゃあな」
「じゃあね、くまお」
【くまきちへ
昨日は悪かった。でも、絶対にお前にはちみつを食わせるわけにはいかなかった。
お前の分のはちみつを盗んだには理由がある。
好き勝手にはちみつを食べる俺達の事を、蜂達はずっと恨んでたんだ。
俺達は気にも留めてなかったけど、あいつらはずっと復讐する事を考えてた。
真向勝負じゃ勝ち目はないと考えたあいつらは、長い時間自分達の毒を集めに集めて強い毒を作っていたんだ。
そして恐ろしい作戦を実行した。
俺達が食べてきたはちみつに罠をしかけた。
大量の毒をしみ込ませたはちみつを森の中に仕掛けたんだ。
俺はたまたま奴らがそれを仕掛けている所を見た。
だから次の日俺はお前とのルールを破った。
お前の領域の分のはちみつも盗んだんだ。
それがお前のはちみつを盗んだ理由だ。
でもお前はきっと疑問に思うだろうな。
じゃあ何でそれを知ってて、自分から毒入りのはちみつを食ったんだって。
最初から自分にもそう言ってくれればいいじゃないかって。
俺はな、あいつらがこんなにも自分達の事を恨んでいた事に今まで気付きもしなかった。
俺達は、何も考えずあいつらが必死でつくったはちみつを横取りしてうまい思いだけをしてきた。
巣ごと奪う時に、俺達は当たり前のようにたくさんの命も奪っていた。
今さら反省したって手遅れだし、それであいつらは許してなんてくれないだろう。
けど、せめてものあいつらへの詫びにと思ってな。食う事にしたんだよ。
でも、お前には死んでほしくなかった。
あいつらには悪いが、それは譲れなかった。
死ぬのは俺だけでいい。
ただ、こんなわがままあいつらには通用しねえだろう。きっとまた何か仕掛けてくるだろう。だからとりあえず、あいつらのはちみつは食うな。もう二度と。
後、ちゃんと教えてやれなくて悪かった。
お前の顔見たら、いつもみたいにふざけたくなっちまった。
死ぬ前に、しけた会話はしたくなかった。
楽しかったよ。最後にお前といつも通り喋れて良かった。
お前は、やっぱり最高に面白いよ。
お前の最後のはちみつ、食ってごめんな。
今までありがとう。
じゃあな。
またどっかで、会えたらいいな。
くまおより】