さては大人になったな貴様!
誕☆生☆日
「月斗さんや。今日は何の日か分かっておるかの」
「陽菜さんや。今日は儂の誕生日じゃのお」
「ふっふっふ、分かっておるのならよい。祝うよ!!」
陽菜の18歳の誕生日を終えて5日後。
短いお姉さん期間を終えた陽菜は、朝から張り切ってご飯を作り始めた。
今日は色々と忙しくなりそうだし、やるべき事は早めに済ますとしよう。
「へいお待ち! フレンチトースト一丁!」
「大将、紅茶はどれがいい?」
「ん〜〜〜、月斗君と同じで」
「はいよ。今日もありがとうな、陽菜」
俺が健康で居られるのも陽菜のお陰だ。
日頃の感謝を伝えるべく頭を撫でてあげると、笑顔に色が着いて輝いた。
可愛すぎるぜこの女ァ!
「はい、どうぞ。ミルクティーだ」
「ありがとう! ほら座って! 食べよ食べよ!」
急かされながら椅子に座り、手を合わせた。
「「いただきます!」」
あ〜、美味し。ほんのり甘くてフワフワととろけるフレンチトースト......最高だ。
やっぱり陽菜の作ってくれるご飯がこの世で1番だ。
「さて、月斗君は何歳になったのかな〜?」
「18歳でちゅ」
「......うん」
「泣いていいか?」
「バッチコーイ!!」
くっ、ここまで陽菜のシナリオだと言うのかッ!?
敢えて俺が泣きそうなことを言わせ、両手を広げて待つなんて......お、抑えろ俺ッ!!!
「もう、我慢しちゃって。今日くらいは好きにしていいんだよ? 産まれてきてくれてありがとうの日なんだから」
「さ、流石にな? 朝からそれは......ダメじゃないか?」
「え〜? 私はいいと思うけどな〜」
ダメです。一度陽菜に甘えると、際限なく甘えてしまう俺が居るんだから、ここらでグッと我慢しないと。
いや〜、でもめっちゃ甘えたい。誰にも見せられないぐらいの濃度で陽菜に甘えたい。
......ちょっとだけならいい、かも?
「食べ終わってからにする」
「お、ほほぉ! じゃあ、誕生日プレゼントは私?」
「もう貰ってるよ。いっぱい」
昔から陽菜には沢山のものを貰ってきた。
楽しいという感情も、生きる幸せも、全部陽菜から貰ったものだ。
その上で貰おうとするなんて、強欲じゃないか?
「月斗君。もっと欲張りになっていいんだよ? 好きな人には沢山『大好き』って言っていいし、楽しいと思うことは全力で楽しんで欲しいの。あんまり、自分を殺さないで」
「......あぁ。じゃあ誕生日プレゼントは......そうだな。陽菜の時間をくれ。この先何十年分の」
大好きな陽菜ともっと一緒に居たい。そうなれば、陽菜の時間を頂くことになる。では予め、陽菜から時間を貰っておけば、俺は何も気にせず陽菜と一緒に居られる。
貰ったものをどう使うかなんて、俺が決めることだ。
「ん? 陽菜?」
さっきから陽菜が何も喋らない。
そう思ってチラッと顔を見てみると、茹でダコの様に真っ赤になっていた。
「プ、プロポーズ......でしゅか?」
「あっ......ま、まだ。今のはそうだな......うん。これからも一緒に遊んで欲しい、的な?」
「もう。言っちゃってもいいんだよ?『プレゼントに陽菜の人生をくれ』とかさ!」
「もう貰う気満々、あげる気満々なのに?」
「うん!」
「それだと少し、遊び心が足りないな。俺ならもっと正直に言うし、出来る限りロマンチックなムードを作る」
そう言いながら最後の一口を食べると、俺は手を合わせた。
「ご馳走様でした。朝からありがとう、陽菜」
「お粗末さまでした。楽しみにしてるね、プロポーズ」
ちょっと照れくさくなって黙って頷いた。
恥ずかしい気持ちもあるが、何よりも嬉しいのだ。
この世で最も大切で、誰よりも愛してる人にそう言って貰えることが、俺の気持ちを温かく満たしてくれる。
来月の武術大会が終われば、勇気を出すとしよう。
「ちょっとログインしてから、2人でゆっくりするか。今日は陽菜と一緒に居たい」
「えへへ、ありがと。洗い物は私がやるから、先にやってていいよ?」
陽菜の優しい申し出に、俺は首を横に振って応えた。
「俺がやる。誕生日と言えど、陽菜に負担をかけたくない。俺は陽菜と生きたいのであって、陽菜に生かされたくないからな。一緒に生きてこそ、ふ......夫婦ってもんだろ?」
「月斗君......!」
丁度食べ終わった陽菜が、ガタッと音を立てて立ち上がった。そしてそのまま俺の元へ来ると、全身を預けるように抱きついた。
俺の胸に頭をぐりぐりと擦り付ける陽菜。
流石に俺も平常心では居られないので、陽菜を抱きしめるようにして顔を隠した。
「大好き。ず〜っと大好きだよ」
「陽菜が好きなら、俺は愛してる。ずっと愛してるよ」
「ん〜っ!!! 私も! 私も愛してるもん!!!!」
囁くように気持ちを伝えると、陽菜は一旦離れてから目線を合わせ、そっと口付けをする。
蜂蜜のように甘い唇は、きっとフレンチトーストだけの力じゃない。蜂蜜より濃密な、陽菜の愛を感じる。
「もっと」
頬をほんのりと赤らめた陽菜は、俺の頬に手を当てて更に唇を重ねてくる。先程よりも甘い、幸せに満ちたキスだ。
そっと割り込まれる舌を受け入れると、更に甘く蕩ける感覚が脳に走る。
もう何も考えられないくらい陽菜に思考を溶かされると、遂に解放された。
一体、どれくらい甘い時間を過ごしたのだろうか。
「危なかった。あとちょっとで理性が無くなるところだったよ」
「......そ、そうだな。ちなみに俺は限界迎えてたぞ」
「えへへ、ごめんね? 襲いたくなってた?」
「それはもう......滅茶苦茶に。でも今は落ち着いた」
言わせんな恥ずかしい! 陽菜が悪いんだぞ!
今までに無いくらい優しく、濃いキスだったんだし、自分を抑えるのに必死だったんだ。
「夫婦になったら、もっと凄いことするん......だよね」
「だな。今から緊張してるのか? まだしないのに」
「し、してないもん! 別に......ねぇ? 裸の月斗君に押し倒されただけで失神しそうだなんて思ってないし」
「思考ダダ漏れじゃねえか。放水したダムかよ」
「放......水!? えっち!」
「すまん言っている意味が分からん。どこにエロ要素があった?」
「......言わせるの?」
「何を?」
「ん〜〜〜! もう!」
ダメだ、陽菜がおかしくなってしまった。
まだ朝の8時だと言うのに、ピンクすぎて最早赤い思考になってるぞ。
これが恋人の誕生日パワーか......恐るべし。
◇ ◆ ◇
「ルナさん、おはようございます」
「おはようフー。今日も青いな」
「はい? え?」
「髪の毛青いな〜って」
「そ、そうですか。普段言わないことだけに、ビックリしちゃいました」
ユアストにログインして寝室を出ると、丁度廊下を掃除しているフーとばったり会った。
目に入ったそのままの気持ちを口に出すと、フーを困らせてしまったぜ。
「リル達はどこに?」
「ピギーさん達とお買い物です。家には私しか居ませんよ」
「そっか。じゃあ俺も掃除を手伝うとするかね」
「いえいえ! 私だけで十分ですよ!?」
「いいんだよ。ルナ様のご好意に甘えろ、メイド」
「......ふふ、分かりました。それでは甘えますね」
普段お世話になっているフーに、そしてこれからもお世話になるフーとこの家に感謝を込めて、掃除を手伝わせてもらった。
リアルの家と差程変わらない日常も、メイドが居るゲームの世界のお陰でちょっぴり刺激的だ。
「そう言えばルナさん、今日って誕生日でしたよね?」
掃除が終わり、2人で紅茶を飲んでゆっくりしていると、急にフーが誕生日について話し出した。
「なんで知ってんの?」
「そりゃあ、私のご主人様ですからね!」
「ご主人様言うな」
「まあまあ。私、プレゼントがあるんですよ。ルナさんの歳でアレが出来るので、年齢を教えてください」
「45億3000万歳だけど」
「......それ、月の年齢では?」
「よく知ってんな。本当は18だぞ」
まさかフーに答えられるとはな。俺も甘かった。
ソルが来るまでゆっくりしていようと思ったが、存外フーの取る行動で忙しくなりそうだ。
そしてフーはメイド服のポケットから金色の何かを取り出すと、それを自分の指に嵌めた。
あれは......指輪か?
「『刻印:18の軌跡』」
そう呟くと、指輪の輝きがドンドンと増していく。
18の軌跡ということは、何かしら思い出が作れるアイテムなのだろうか。
ゲームタイトルに『君が紡ぐ物語』とあるように、刻印出来る何かで思い出を紡げるのかな。
「これをどうぞ。私と出会ってから、ルナさんが私と過ごした日の思い出が見れます。フレイヤさんに脅はk......脅s......お願いして作っていただいたので、消えることが無いアイテムですよ」
「......闇を感じたんだが?」
「アハハ、キノセイデスヨー」
でもこれ、明らかにあの人だけの力じゃなくて、ヘルメス辺りの神の気配を感じるぞ。
ちょっと覗いてみるか。
◆━━━━━━━━━━━━━━━━━◆
『想いの指輪:18の軌跡』
Rare:──
製作者:神界の神々
【特別】
誕生日に贈られる特別なアイテム。
インベントリの特別枠から使用可能。
あなたの紡いだ物語の、ほんの1ページを
見ることが出来る。
◆━━━━━━━━━━━━━━━━━◆
やっぱりな。指輪の真ん中に付いてるガラス玉の様な装飾品に、海のような青い景色や燃える炎のように赤ぬ光ることから、絶対にフレイヤさん1人の仕業じゃないと思ったぞ。
それにしても、嬉しいな。思い出を見れる形として残してくれるとは、粋な計らいをしてくれる。
「後でリル達と見よう。きっと、喜んでくれる」
「勿論です。さて、先程から覗き見しているソルさん? そろそろ出て来てもいいんですよ?」
指輪を見て喜んでいると、リビングのドアに隠れていたソルがひょっこりと顔を出した。
実はミニマップでガッツリ映っていたんだが、普段オフにしているだけあって気付いてないと思ってるんだよな、ソル。
可愛い奴め。撫で回すぞ??
「あはは、バレちゃった。お城の方の飾り付けが終わったみたいだし、行く?」
「飾り付け? 買い物じゃなくて?」
あ、これソル漏らしたな? フーが頑張って『買い物』と隠していたのに、普通にポロッと言ってしまったパティーンだな?
「ソルさん、ルナさんの前だと絶対に嘘をつけませんよね」
「し、仕方ないじゃん! 隠したくないんだもん!」
「もう、これだからお2人は......行きましょうか。まだ早いですが、どうせ2人でイチャイチャする時間が欲しいとか言って直ぐに抜ける未来が見えるのでね」
「「......怖っ」」
ナチュラルに未来予知するじゃん。怖いよ。
しかも何が怖いって、ちゃんと当たってることが怖いんだ。
只者じゃないメイドになってきたな、フー。
スライムにヒィヒィ言っていたアイツはどこへ?
◇◇
「あ、来た来た! 娘共〜!」
「シリカ? アナタ言い方ってもんが......はぁ」
「ほっほっほ。騒がしくなってきましたな」
城に入って早々、シリカとセレナ、それにイブキの声が聞こえてきた。
それにしても娘共とは、シリカもテンションが上がりまくってるな。
「ルナ君、さり気なく尻尾触るの好きだね」
「いや別に? たまたま目の前にユラユラと動く物があれば、自然と手を伸ばしていただけだ」
「掴むなら前じゃない? 普通。ほら、ユッサユサ〜」
リビングに向かう途中、何とな〜くソルの尻尾の先端を触っていたら普通にバレていた。
それにしても、胸を揺らすのはダメだ。一気に18禁ゲームに変わってしまうからな。
「やめなさい。ソルの胸は自然に揺れるのが良いのであって、自分で揺らしてはダメなんだ」
「養殖じゃなくて天然がいいと?」
「そゆこと。でも自然に揺れたからと言って触らないからな?」
「......チッ! 読まれてたか......」
「ソルのことはお見通しだ。ほら、入るぞ」
ソルの頭をポンポンと撫でてからドアを開けると、リル達がクラッカーを持ってスタンバイしていた。
音が鳴る直前、FPSゲーマー脳の俺は『撃たれる!』と思って一瞬だけ身構えたが、ソルの尻尾を思い出して立ち直った。
そして1秒にも満たない葛藤の後、クラッカーの紐が引かれた。
パパパパン!!!!!!
「「「「「誕生日おめでとう! ■&×¥☆〒」」」」」
「あ、ありがとう。呼び方がそれぞれ違うせいで、最後は何も聞き取れなかったが」
使い終わったクラッカーがポリゴンとなって散ると、リルが一目散に走って来た。
「お誕生日おめでとうございます、父様!」
「ありがとうリル。嬉しいよ。てんきゅー」
抱っこして高く持ち上げ、抱きしめながら頭を撫でてやると次の子がやって来た。
「ん、おめでとう。ふけたね、パパ」
「ありがとうメル。また死へと秒を刻んでるよ」
リルを降ろしてからメルと目線を合わせ、サラサラの髪を撫でてあげた。すると目を細めて喜ぶので、軽く抱きしめてあげた。
「お父さん、何歳になったの〜?」
「何歳だと思う? ベル」
「ん〜......45億歳?」
「ごめん、そのネタもうやったわ」
「そんな〜!」
ちゃっかりメルの背後を取って近付いていたベルに答え、抱っこしてあげる。一頻り頭を擦り付けたベルは、いつものポジションと言わんばかりに背中にしがみついた。
「おめでとう、兄さん。また強くなれるね」
「ありがとうチェリ。もっと強くなって、誰にも負けない人になるよ」
次から次へとやって来る皆の対応を終えると、ランチにしては豪華すぎる料理たちが机の上に並べられた。
少し疲れた俺はソルの尻尾をモフっていたが、料理を食べれば回復すると判断した。
「ではではお兄さん? 乾杯の音頭を取ろうか!」
「はいはい、それでは皆さんグラスを持ちまして〜?」
全員がベリージュースの入ったグラスを持つと、皆の前に立って言葉を紡いだ。
「この度、私ルナはね、18歳になりました......うん、それしか言うことないや。皆ありがとう! これからもよろしく! 乾杯!!!」
「「「「「「乾杯!!!」」」」」」
そうして、昼間から騒がしい誕生日パーティを開いたのだった。
あ、夜は陽菜とゆっくりしたよ。リル達が豪華に祝ってくれただけに、リアルでは2人でイチャイチャしながらご飯を作って、美味しく食べました。
18かぁ......結婚、出来るようになっちゃったなぁ。
甘〜いッ! 説明不要!