ワンモアプロポーズ
「お〜、咲いてる咲いてる」
種を植えてからリアルで翌日。
陽菜がまたフェンリルのように襲いかかるのをギリギリの理性で抑えていた俺は、寝不足の状態でユアストへとやって来た。
「おはようルナ。疲れてるの?」
「ちょっとな、精神削ってた。で、これを切ればいいのか?」
「そうよ。ルナの魔法でバッサリいきなさい」
「了解! では......『ヘルバハーベスト』!」
凄まじい勢いで切られていく薔薇の花は、1輪1輪に個性があり、オーソドックスな赤色もあれば、普通は見ることの出来ない、花弁が青や黒の薔薇もあった。
それら全てを回収し終えると、アイテム欄には100本の薔薇となっていた。
「ほら、収穫したのなら行きなさい。そんな服じゃ笑われるわよ?」
「当たり前だ。誰がおバカTシャツでプロポーズするんだ」
「ルナね」
「......酷いなぁ、お姉ちゃん」
「冗談よ。だからもう一度言ってちょうだい」
「誠に残念ですが、ルナの記憶3は消えてしまいました」
「チッ!」
目を輝かせてもう一度を求めたセレナは、今や清楚なイメージはどこへやら。ただのグレたヤンキーの様な顔をしている。
あぁ、気の毒に。お姉ちゃんポジはつらいよな。
「リル〜、メル〜、ベル〜」
「「「は〜い」」」
「この服、似合ってるかどうか見てくれ」
俺は普段着ないような黒いシャツとコートを着て見せると、銀髪娘3人衆は同じように目を輝かせた後、同じように首を傾げた。
「くろい」
「黒すぎますね」
「黒〜い」
「OKだ。じゃあ次、これ」
「しろい」
「白すぎますね」
「白〜い」
「ふむ。もうネタ切れだ。服を買わねばな」
ソルの作ってくれた服の中でも、特にお気に入りな黒い服と天使シリーズがダメだったので、俺は気持ちを切り替えて外に出る用意をした。
「ならメルもいく」
「私も行く〜」
「それでは私はお留守番ですね。楽しんできてください」
ものの2秒で同行するメンバーが決まると、2人が俺の手を繋いできた。
「リルはいいのか?」
「はい。この前は私が父様を独り占めしたので」
「ッ!?......ひとりじめ......でき、ない......!?」
「お姉ちゃん......ここは譲らないよ」
「喧嘩するなら1人で行くからな」
「「なかよし!」」
「ならいいが。リルはお姉ちゃんだからな。大変な時もあるんだ。独り占めくらい許してやれよ?」
「「うん!......うん」」
あからさまに元気が無くなるじゃねぇか。どれだけリルに嫉妬してんだよ。
「ふふっ!」
コラそこ! 妹に出来ないからって、独り占めしたことを胸を張って自慢するな! 争いの火種になるぞ?
全く。今度は皆で出掛けるか。
そうしてイニティにやって来た俺達は、服屋さんで小一時間ほど、着ていく服を選ぶのに悩んでいた。
「パパ、どうしてふくをかうの?」
「今更だけど〜、聞いてないよね〜」
「あぁ、それはソルにもう一度プロポーズするからだな」
「「......えっ」」
「だから、2人には結構重要な任務になるぞ」
指輪はどうしようか。ソルも俺も、左手の薬指にはもう指輪が着いているし......右手の薬指になるが、新しく作ろうかな。
いや、いっか。今回は花だけにしよう。折角貰った種なんだから、それだけで行こう。
「ん〜、これはママが好きそうじゃないし......」
「これはお父さんが着そうにないよ〜」
「「う〜ん......」」
「お悩みですかな、お嬢様方」
2人とは別に服を選んでいると、店主のお爺さんがメル達に話しかけていた。
悪いが聞き耳を立てさせてもらう。
「お悩みなの〜」
「ん。むげんになやめる」
「ほっほっほ。今回着るのは、どちらかな?」
「「パパ / お父さ〜ん」」
2人が指を指す前に悩んでるフリに入った俺は、店主に数秒見られるだけで、特に話しかけられることなくメル達との会話に戻った。
「では、お父上に足りない物を探すのです」
「たりないもの......じかん?」
「足りないものなんて無いよ〜。お父さんは完璧〜!」
「ほっほ。御二方とも、かなり難しいことを仰りますな。では、見方を変えてみるのです。もっと、見た目に関して足りない部分を探してください」
「「う〜ん」」
さぁ、何が足りないと判断する? それ次第では俺の心が粉砕されるぞ?
「「雰囲気?」」
「おぉ、素晴らしいですな。では、どのようにして雰囲気を出させましょう。明るい雰囲気なのか、暗い雰囲気なのか。まずはそこから考えましょう」
「パパはビシッとしたふんいきがない」
「だから〜、ビシッとした服を探す〜?」
「そうです。求める姿に足りない物が見つかれば、存外簡単に服は見つかります。何が足りないかを探すには引き算を。姿を求める時は足し算をすると、見た目は分かりやすく変化しますよ」
「「お〜!」」
「それに、何も服だけではありません。髪型を変えることもまた、雰囲気を変えることに役立ちます」
優しい店主だ。決して着る側の印象を傷つけることなく、アドバイスをくれた。それに、服屋なのにオススメの美容室を紹介する辺り、この人の心の在り方が見える。
俺もいつか、こんな人になりたいもんだ。
そうして服屋でビシッと決まるタキシードや革靴なんかを買った俺は、次に美容室で髪型を整えてもらった。
──ねぇあの人、カッコよくない?
──ルナさんだ。カッコイイ!
──雰囲気が違うな。パーティか何かか?
「めっっっっっっちゃ、見られとる」
美容室から出ると、イニティに居る大量のプレイヤーから注目を集めてしまった。
というか、原因は俺だけじゃないんだ。
どうせだからってことで、メルとベルもドレスを着て、同じく美容院で髪などのセットをしてもらったから、余計に目引くのだ。
有名人プラス超絶美少女2人が街を歩いていたら?
もう、目立つことは当然だろう。
「あ〜! ルナ君がイメチェンしてる〜!」
人目を気にせず堂々と噴水のある広場を歩いていると、パンの入った袋を抱えたソルが走って来た。
「よっ、どうだ? カッコイイか?」
「すっっっごくカッコイイ! でも、どうしたの?」
ソルの言葉を聞いた瞬間、ベルとメルはそっと手を離して俺とソルから距離を取った。
「いやなに。改めてソルにプロポーズしようと思ってな」
「はゅえぇ!?」
「こっちの世界でも、結婚してくれるか?」
俺が100本の薔薇の花束を差し出すと、ソルはその場に袋を落とし、受け取った。
「は、はい......結婚します」
「「「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
流れるようなスピード快諾に、見ていた皆が盛り上がった。
「うぅ、泣きそうだよ〜、2回もプロポーズされちゃったぁ」
「泣くならどうぞこちらへ。いつでも抱きしめてくれる男が居ますよ?」
「うぅぅぅぅぅ!!!!!」
花束をインベントリに仕舞ったソルは、涙をポロポロと零しながら俺に抱きつき、そのまま顔を埋めて泣いた。
ソルの落とした袋はメル達が回収し、完璧なアシストをしてくれた。
「結婚式するぅぅぅ!!」
「ははは、ここじゃあ知り合いが多いからな。大変だぞ?」
「するのぉぉぉぉぉ!!!!」
これはこれは大変だな。招待状の数が大変なことになってしまう。となると必然、それ相応の場所が必要になる。
まぁ、ここは1つ、頑張って何とかするしかないよな。
「分かったよ。あ、そうそう。彼女から嫁になった気分はどうだ?」
「最高だよぉぉ!!!」
「そりゃあ良かった。俺も最高に嬉しいよ」
今日は、1日中幸せな気分で過ごせた。
きっかけを作ってくれたフレイヤさん......もとい小人に感謝をしつつ、これからも過ごしていこう。
読んでくれてありがとうございます!
いや〜、幸せそうで何よりです。
次回は、少し時を戻してお誕生日会にでもしましょうか。となると、今回の話を後にしたいので.....まぁ、その辺は頑張ります。