父の日・カリディ旅行
父の日の番外編です。
たまたまテレビで父の日を取り上げられていなかったら、出来ていませんでした。
そして当然の如く本編とは無関係です! 楽しんでくださいね!
「へいルナ君! 今日は父の日だから、これをあげるよ!」
「お、おう。ありがとう?」
魔境の島にて、イラ・ドラゴン達と戦闘を訓練を終えた俺に、ソルがプレゼントを持ってきた。
渡されたのは小さな紙だ。小指くらいの大きさで、読めない何かが書いてあるな。
「これは何だ?」
「ふっふっふ。それはね......」
「ズバリ!『母様が何でも言う事を聞く券』です!」
走ってやってきたリルが、ソルのセリフを奪って言い放った。
ソル、可哀想に。後で撫でてあげよう。
「何でも、か」
「そうだよ。何でも、だよ! さぁ、欲望のままに答えたまえ!!!」
「じゃあ遊びに行くか。日課の戦闘は終わったし、2人で旅行に行こうぜ」
「......うん」
わぁ、すっごく微妙な反応。俺、ちょっとだけ悲しいな。
折角の機会なんだし、初めての2人旅行もアリだと思ったんだが......嫌なのかな。
「嫌か?」
「う、ううん! 違うの。すっごく嬉しいし、行きたい。でもね、ちょっとこう、予想と違うと言うか......何でも言う事聞くんだよ? もっと欲に塗れてもいいと思うんだけど......」
「旅行、だぞ?」
ソルにスっと近付き、耳元で囁くと、狐耳がピクピクと動き出した。
まぁ、ここまで匂わせるような事を言っておいてアレだが、ただ旅行をするだけだ。ソルの期待しているであろう事は一切しないな。
そもそも『出来ない』から。
「じゃあリル。ソルを貰ってくぞ」
「はい! 楽しんできてくださいね!」
「あ、今日はアテナ達が来ない日だから、メル達と遊んできな。何かあったら念話くれ。直ぐに行くから」
「大丈夫ですよ父様。私達の事は気にせず、楽しんで来てください」
「リル......」
ええ子や。リルちゃん、物凄くええ子や。この子はワシが育てた。
そんなこんなで、ソルから貰った『何でも言う事を聞く券』を使い、砂漠の街である『カリディ』へとやって来た。
「お〜、凄いね〜! 建物が全部黄色いよ!」
「綺麗だよな。プリンみたいだ」
「え?」
「え?」
あれ? もしかして例え方間違えた? 盛大に間違えた選択肢を選んじゃったかな?
「ま、まぁまぁ。ルナ君はプリンみたいに思ったんだね」
「いや、全然。その場のノリと勢いでプリンと言っただけだな」
「え?」
「え?」
ソルが驚きのあまりに手を離してしまったが、直ぐに掴んだ。
ニガサナイゾ。俺のテンションのままに発せられる言葉から、ソルだけを逃がすなんてユルサナイ。
「行こう。適当に1泊か2泊して、観光して帰ろう」
「そ、そうだね! ここの特産品は何なんだろ〜?」
「何だろうな。虫とかありそうな気がするが」
「虫......美味しいのかな?」
「分からん。まぁ、虫は無いと思うが、何かしら特殊な食べ物は多いはずだ。ぶら〜っと見よう」
「うん!」
それから様々な屋台や飲食店の前を通ったが、特にこれといった物は売っていなかった。
カリディには地域限定の物が無いのか、それとも売れ切れてしまっているのか。原因は分からないが、ロークスの品揃えとそこまで変わらなかった。
「仕方ない。こうなればフィールドで食材を探すしかないな」
「え? お店で買わないの?」
「折角の旅行だから、砂漠も楽しもうぜ? それに、お金で買えない経験をするのは大事だ」
「それもそうだね。じゃあ、飛ぶ?」
「いや、徒歩だな。サーチは付けるが、移動は歩こう」
「分かった。砂漠デートだね!」
「そうだな」
俺は今、誰かに聞きたい。『砂漠デートって何?』と。
新たなパワーワードを生むのが得意なんだな、ソル。
俺も見習い......はしないが、それぐらい強烈な言葉を使いたい。
それから暫くして、砂の中にモンスターを発見した。
「ソル、じゃんけんだ。買った方が下の奴を倒すぞ」
「オッケー。じゃあいくよ〜? 最初はグー、じゃんけん」
「「ほい!」」
俺はパー。ソルはグーを出した。
「俺の勝ち。なんで負けたか、明日までに考えといてください」
「おぉぅ......懐かしいネタを......」
「ではルナちゃん。いっきまーす!」
目標は足元。砂の中に手を突っ込めば取れるくらいの、小さなモンスターだ。
「はい、ズボッ!......芋虫だ」
俺が砂から引き摺り上げたのは、白くて綺麗な芋虫のモンスターだ。
どうやらコイツ、倒さなくてもインベントリへ入れられるらしい。
「え〜っと? 名前は『デザートワーム』。甘くて美味しいことから、砂漠の『デザート』と食後の『デザート』を掛けた高級品」
「あ、それ知ってるよ。売ったら20万リテくらいになるって、前にピギーちゃんが騒いでた」
「ほ〜ん......食べるか?」
「えっ......」
ソルの顔の前に芋虫を摘み上げると、ウネウネとその体を動かし始めた。
「私はちょっと......遠慮しとこうかな」
「そうか? なら半分こするか?」
「いや、私はいいよ」
「じゃあ口移ししてやろうか?」
「うっ......いや、いい。ルナ君が食べて」
「え〜、食べないのか? 中々に美味しそうだと思うんだが」
「感性が独特すぎるよ! ルナ君、リアルの芋虫を見ても『美味しそう』って思うの!?」
「食用のヤツは思うかな」
「え〜!?」
仕方ない。無理やり食べさせるのも可哀想だし、このまま生で頂きますか。
俺はインベントリから短剣を出して、デザートワームの頭を落とした。
「いただきます」
「え、生? 嘘でしょ!?」
デザートワームを口に入れると、生クリームの様な甘い体液と、プチプチと弾けるような皮の食感が相まって、とても美味しく感じた。
リアルではよくある糞の苦味とやらも無く、非常に美味しい。
これが高級品と言われる理由も分かる。
「ごちそうさまでした。かなり美味しかった」
「え〜......そうなの?」
「あぁ。お土産用に、もう何匹か捕まえたいな」
「ねぇ、まさかリルちゃん達にも食べさせる気なの?」
「そうだが......ダメか?」
「ダメだよ! 絶対リルちゃん達も私と同じ反応をするよ!? っていうかデザートワームって、普通は調理して食べる物じゃないの!?」
「分からない。でも生で食べて状態異常とか起こしてないから、生食もアリなんじゃないか?」
現に今、生でとても美味しく頂いたしな。正直、虫がこんなに美味しいとは思わなかった。初めての経験だ。
「うぅ......ほ、他の食べ物は無いのかなぁ」
「一緒に探そう。あっちに生えているサボテンとか、もしかしたら食べられるかもしれないしな」
「うん。一緒に行く」
後ろからちょこちょこと歩くソルの手を繋ぎ、隣で一緒に砂漠を探索しながら、食べ物の採取をした。
そして日が暮れる前にカリディに戻り、宿を取った。
「ふ〜、疲れたね〜!」
「疲れたなぁ。いやぁ、まさかトカゲを15キロも追いかけるとは思わなかった」
ベッドに座って旅の苦労を思い出していると、ソルが俺に凭れ掛かってきた。
「えへへ、あの時はごめんね?」
「大丈夫。楽しかったからな」
小さく謝るソルの頭を撫で、俺もソルに凭れ掛かった。
小さい体なのに力は強く、繊細で優しい。全く、今日はソル、何でも言う事を聞いてくれるだったよな?
もう、マジで自制心が耐えられそうにないんだけど。事件が起きそうだ。
......頑張れ俺。まだもう少し、もう少しだけ耐えるんだ。
「ほら、ぎゅ〜! あったか〜い」
「可愛いなぁもう。禿げるまで撫でてやろうか」
「ダ〜メ。女の子には優しく撫でてね?」
「嫌だな。ソルだけに優しく撫でる」
「う〜ん、嬉しいけどダメだね。いや待って? 他の子も撫でるのは、それは彼氏としてはナシなのでは? そもそもの前提として、他の子を撫でちゃダメでは?」
何か言ってらっしゃる。はぁ、真剣に考えている顔も凛々しくて綺麗だな。ソルの笑顔が好きだが、真剣な顔も好きだ。
もう、全部好き。独り占めしたい。
「わっ、とと......どうしたの?」
俺は少し位置を変えて、ソルの後ろから抱きついた。
「独り占めしたくなった。それとな、俺が頭を撫でるのは身内だけだ。ソル以外だと、リル達や付喪神だけ。だから安心してくれ」
「ルナ君......よし、今日は私、頑張っちゃうぞ〜!」
「何を?」
「そりゃあ、ナニでしょ?」
「しません。出来ません。全く、ソルは急に色気というか、フェロモンを出すから心臓に悪い。いつか俺がドキッとしてそのままポックリ逝きそうだ」
ホント、ソルは時代が時代なら傾国の美女になれるぞ?
それぐらいに綺麗なんだから、色気を出したら大変な事になる。
「むぅ、私の色気が足りない?」
「逆だろ。俺の心が強すぎる」
「くぅ! 経験が経験だけに、自制心が鬼の様に強い......!」
「ま、その経験を引き摺らないようにしてくれたのはソルだがな。感謝してるよ。ありがとう」
ソルの頬にキスをして感謝を伝えた。
ソルは俺の命の恩人でもあり、良きライバルでもあり、大好きな恋人でもある。
俺の人生に於いて、大切なものを幾つも持っている。
そんなソルに、小さなお返しだ。
「ルナ君や」
「どうした?」
「襲っていい?」
「ダメ。我慢しなさい」
「こんなにされて我慢できるとでもお思いで? 私ゃもう限界ッスよ、えぇ。今なら何でも出来る気がするもん」
おぉ、尻尾が強気に立っているな。確かになんでもできそうだから。
「そのパワーを違うところで使えば、ソルは大成すると思うんだがな」
「違うところ......よし、ちょっとフィールド出てくる!」
「え、今か? 夜だし寒いから危ないぞ?」
「大丈夫! やる気に溢れてるから!! じゃあ、ちょっとだけ行ってきます!」
「あ、おい待て......はぁ」
ソルは立ち上がると、凄まじい速さで砂漠へと出て行った。
何だろうこの気持ち。大切な人に逃げられたような、自業自得のような。
「信じて待つか。直ぐに帰ってくるだろ」
俺は部屋着に着替え、1人寂しくベッドに入った。
本当に寂しい。最近は何をするにしても1人じゃなかったから、余計に寂しい。
戦闘をするにしても、生産をするにしても、農業をしても、付喪神の皆やソル達が居た。
「はぁ......いつの間にか寂しがり屋になったなぁ、俺も」
懐かしい。昔、陽菜と喧嘩した時に離れていたら、陽菜は怒っているのにも関わらず、寂しがり屋パワーで俺に近寄って来たっけ。
あの時の気持ちって、こんな感じなのだろうか。
「ただいまルナ君!」
もう寝よう。そう思っていると、勢いよく部屋の扉が開かれた。
いや〜眠い。眠いけど起きなきゃ。いやでも眠い。
「あれ? 寝ちゃってる?仕方ないなぁ......」
チラッと薄く目を開けて見てみると、ソルが水着に着替えてからベッドに入ってきた。
ヤバい。それはアカンですよソルさん。事件ですよ!
「えへへ、起きたらビックリするかな」
今ビックリしてます。寝る前からビックリ、起きてもビックリします。
「よし、私も寝よう。ルナ君には明日、プレゼントのデザートワームをあげるからね〜」
そう言ってソルは水着姿で抱きつき、そのまま寝てしまった。
「......いや寝れんて!! 刺激が強すぎるわ!!!!」
結局、頑張って寝た後、起きたらソルの水着姿にビックリした。