鏖殺天使の活動録・ハンドガン編
本編300話記念です。めちゃめちゃ長いので本当に暇な時にどうぞ。
「う゛うん。あ〜あ〜、マイクテストマイクテスト。皆さん聞こえてますか〜?」
俺の名前はアルテミス。Fire ShootというVRFPSゲームで世界ランキング6位まで上り詰めたプレイヤーだ。
今回はチームメンバーに勧められ、生配信というものに挑戦してみた。
尚、配信するゲームは先述のFire Shoot、略してFSだ。
このゲームはVRに於けるFPSゲーとしては世界最高峰で、1番人気の試合形式『バトルロイヤル』を初めとして、チームデスマッチ、ヘッドハンティング、エネミースレイヤーと、数々のモードがあるゲームだ。
今日配信で行う形式はバトルロイヤル。100人のプレイヤーがフィールド内に落ちている武器を使い、最後の1人になるまで戦うというものだな。
「おぉ、聞こえてるね〜聞こえてるね〜!良かった〜!えっと、初めまして。アルテミスです。FPSゲー歴は6年、VRFPSはこのゲームが始めてです!」
俺はゲーム内のアバターを銀髪に金色の眼をしているケモ耳幼女にしているよだが、中身はゴリゴリの男子高校生だ。
中身......リアルでは彼女もいるし、その人とは婚約もしているぐらいラブラブなのだ。
そんな人間の活動録を今、配信として残してるんだ。
「──というわけで、挨拶はこの辺にして早速やっていく......ん?」
現在、配信を付けてから5分くらい経っているのだが、コメントが凄まじい速さで流れていく中で、1つだけ気になるコメントが目に止まった。
「アテナさん。『猫被ってて草』なるほど。あなたは私が猫を被っていると申し出てる訳ですね」
俺、このコメント主の顔が目に浮かぶのだが、何故だろうか。
「いや〜、配信初日だと言うのに、中々に酷い事を言い方がいらっしゃるものですね!困っちゃいますよ、全く」
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4thenA:これは酷い
ドスん子:猫被る以前の問題
おりん:草
トウガラ4:初見です
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「初見さんいらっしゃい。楽しんでいってねって言えって私に配信するように言った人が言ってました」
さて、前フリはそろそろ切り上げて本題に入ろうか。
「今回はね、初配信という事で簡単な縛りでウィンナー取りたいと思います。いぇ〜い!
......あ、ウィンナー取るまで終わりませんよ〜」
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シモヘイヘイ:初回から縛るの草
ポリゴン侍:これは耐久配信
4thenA:何縛りなんだろうか
プルコギうまし:アテナニキおるやんけ
野獣後輩:縛りプレイ、やりますねぇ!
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「は〜い、今回やる縛りは〜?どぅるるるるるるるるるる」
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おファン:セルフドラムロール助かる
PiggyCh.:ドラムロール助かる
プリプリ☆:地味に下手なのが良い
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「デンっ!『ハンドガン縛り』です!いぇ〜い!」
俺は配信するにあたって、チームメンバーから縛りの内容を募集していた。
確かに3人に案を出してもらって、合計20個ほどの縛り内容を貰ったんだ。その中から今、ランダムで引いた結果が今回の縛りである『ハンドガン縛り』だな。
「はい、ハンドガン縛りという事で今回はやっていきましょうか。あ、私の事を知っている人はくれぐれも何も言わないでくださいね。シー!ですよ?」
あざとくウィンクまでして視聴者にお願いしたが、コメント欄は激しく動いていた。
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ShowTime:これは可愛い。推せる
ブッファァン:HG縛りって、ゼウスアリ?
4thenA:ゼウス次第で難易度変わるなこれ。
マンゴーラッシー:サプライ開けるの?
蜜柑:物資次第か
へい4:神の目を付けるかどうかだよね〜
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「あ、サプライポッドは開けないよ。神の目もゼウスも、あんなの使ったらヌルゲーになっちゃうからね」
試合中に降りてくる補給物資を開けると、最高級の防具だったり、文字通り『最強』の名に相応しい武器などのアイテムが手に入るからな。
流石にプレイヤースキルで魅せていきたいからな。サプライポッドは開けません。
「じゃあ早速、やって行こうか!あ、同接1万人ありがとうございます」
配信開始から15分。まだ試合が始まっていないというのに視聴者数が1万人を超えてしまった。
これ、もしかして誰かが拡散したのかな。俺自体の知名度でここまで視聴者数が増えるとは考えにくい。
「ゲームモードはバトルロイヤル。マップはランダムで、サーバーは世界鯖。スクワッドで野良は無し......ヨシっ!」
読み上げて確認しながら設定を入力していき、遂に試合会場となるフィールドに転送された。
「あ、砂漠かぁ。これ詰みかな......いや、イケるイケる!鏖殺天使パワーで何とかナルナル!」
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PiggyCh.:砂必須マップでハンドガン縛りはドM
サスケ:砂漠とか俺なら光の速さで抜けるわ
naito:鼓舞してけー
day:拳てけー
4thenA:鼓舞してけー
【SLA】犬子:鼓舞してけー
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「拳ありがとう!良いプレイが出来るように頑張るねっ!」
あれ、今目に入ったSLAって、なんか前に聞いた事あるな。
確かプロチームだったような......ってあぁ、犬子
さんじゃん。何であの人が俺の配信見てんだよ。
「凄いねぇ!色んな有名人がチラホラいるよ〜!」
そんな雑談を挟みつつ、試合開始までの待機時間が終わり、俺は戦闘フィールドへ飛ばされた。
「はい、対戦よろしくお願いします。ここはマップ北西の中規模集落だね。家の形が独特だから簡単に分かったゃう」
砂漠マップの北西にある中規模集落に転送されたので、最初はここでアイテム収集を始めていく。
試合の流れとしては、この集落でハンドガンと回復アイテムを拾い、狭まっていく戦闘エリアを目指してテクテクと歩いていく感じだな。
「うぅ......A4にスパイダー、蛇まであるのに使えないぃ!」
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紳士A:その表情がすこなんだ。
ヒィハァ:これは変態紳士が湧くぞ〜
ShowTime:もう湧いてます
でやねん:幼女のイイ表情が見られると聞いて
『4thenA:ファンサービス豊富で良き:¥5,000』
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前から順に、アサルトライフル、サブマシンガン、スナイパーライフルが家に出現していたのだが、縛りの関係上拾えなので悔しがっていた。
すると頻繁にコメントを打つ『4thenA』ことアテナが、リアルマネーを使って配信者を応援するサービスでコメントを打ってくれた。
「アテナ......さん。投げ銭ありがとう!ファンサービスではなく普通に悔しがっていただけだからね!」
笑うがいい。普段は欲しい時に来てくれない強い武器達が、武器を縛った途端にゴミに成り果てる様を。
「あ〜!ようやくハンドガン見付けた〜!え゛っ、リボルバーかぁ。私これ苦手なんだよね」
集落の家を漁り、5件目に入った時にハンドガンを入手した。
だが、これは俺の最も苦手とするリボルバー式のハンドガンだ。
使用する弾丸は7.62ミリ、装弾数は6発。アサルトライフルにも使用される弾を使う、高威力のハンドガンだ。
「んま〜仕方ない。次の家に......足音」
リボルバーの他に良い武器が無かったので次の家に行こうとしたが、敵の足音が耳に入ってきた。
「ーー数は3。歩くペース的に男2人と女1人」
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さんさん:分析助かる。頑張れ!
冷奴たん:ガチ勢もドン引きのサーチ力
PiggyCh:変態分析力で怖ひ怖ひ
【SLA】As:これガチで当たってたら怖すぎん?
ピロんちょ:頑張れ
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敵は俺が居ることを把握している様だ。外から誘い込むような足音が聞こえる。
家のドアの反対側から複数人で足音を立て、中にいる俺をドアの方へ誘導してから袋叩きにする作戦なのだろう。
「甘いなぁ。ワイヤーも無しに誘い込むとは、まだまだお子ちゃまだじぇ......ってそうだった。私もワイヤーとかグレネードとか使えないんだった。キツいな〜!」
実は結構序盤で『グレはアリ?』とか『ワイヤー諸々のアイテムは?』ってコメントがあったのだが、勿論それらも縛っている。
ハンドガン縛り回なんだ。ハンドガン以外には回復アイテムしか許されないぞ。
「仕方ない。エイム勝負に持っていきますか。ちょっとカメラを一人称にするので、酔った方はごめんなさいね」
俺は配信画面を俺の視点と同期させ、配信上には俺と同じ景色が流れているはずだ。
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PiggyCh.:背ひっく!
かんこう:ロリ視点とか激レアすぎる
ふんまぁの民:VRゲーで幼女視点は神
夜間P:クソエイムで慌てふためく姿が見たいんじゃ
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あぁ、チラッと見えた夜間Pさんのコメント、分かる人なら分かっているんだろうなぁ。
クソエイムで慌てふためくどころか、神エイムを見せてあげよう。
「そろそろかな......来るッ」
敵がドアを蹴破り、玄関に入った瞬間に俺はリボルバーを右手で持ち、左手に家の壁を掴んだ。
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「芋ってんなこれ」
「芋ってなぁにぃ〜?私分かんなぁい!」
「あぁ、芋ってのは隠れてるって意味だ」
「元々はどんな場面でも匍匐前進で進むプレイヤーを指す、芋虫から取られているんだ。それが今では色んな解釈で取られてるぞ」
「えぇ〜すごぉい!博識ぃ〜!」
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呼吸を穏やかにして敵を待っていると、相手の呑気な会話が聞こえてきた。
人数は予想通り3人。それも男2人、女1人も合っていた。
だが1つ、余計な情報まで入手してしまった。
「うわ......釣りじゃん」
あの女、男を引っ掛けようと甘ったるい言葉で釣ったんだろうな。今は声だけ聞こえている状況だが、きっとボディタッチが多いことだろう。
つまりは、だ。
ボディタッチをしているタイミングで奇襲をかければ、男側は手間取ってくれるという事だ。
敵さん。味方に邪魔される可能性を捨てちゃいかんよ。
「足音が重なったタイミングで行くよ」
小声で視聴者に突撃するタイミングを伝え、俺はその時をじっと待った。
そして女の足音が男の足に近付いたのを察した瞬間、俺は隠れている部屋から一気に飛び出し、ボディタッチをされていない方の男の頭に弾丸をぶち込んだ。
「ハァァロォォォ!!」
俺の表情が配信画面では見えないのをいい事に、今日1番の笑みを浮かべながら男をキルした。
「ひゃあ!!!」
「んなっ、ちょ、邪魔だ!」
女がビビって男にしがみつき、作戦通りに男の射撃の邪魔をした。
それを見た俺は慢心せずにリボルバーを構え、男の顎と額に1発ずつ弾丸をぶち込み、最後に女の額に銃口を突きつけた。
「鏖殺天使をよろしくお願いします」
「ヒィィィ!!!」
バンッ!
拳銃がひとたび吠えると、女の体は崩れるようにして消えていき、最後に鞄ほどの大きさの袋を残した。
「はい、3キル美味しです。ちゃんと宣伝もしたし、配信者ポイント高いのでは?」
ぼく、しってるよ。配信者は宣伝を欠かさないって。
「え〜と、漁りながらコメント見ますね〜」
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辛辛:怖すぎてチビった
4thenA:これは鏖殺悪魔
ランサー:鬼より怖くて草
【SLA】As:シンプルに立ち回りが上手
『おんおんおん糖:ドSロリも好物です:¥3,000』
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「三温糖さん、3000円ありがとうございます。私はドSではないですよ〜」
それからも、コメントを読みつつに家を漁り、十分に物資を潤わせたら次の戦闘エリアへ向かって走る。
本当は車を使ってもいいのだが、このゲームの運転は苦手なので今回はパスさせてもらう。
「あ、銃声が聞こえますね。南西方向へ1300メートルくらいでしょうね。知らんけど」
配信にも慣れていて、コメントを読みながら周囲の索敵が出来るようになってきた。
「『何で銃声の位置が分かるの?』あ〜、それは経験による勘ですよ。このコメント欄にもいる『お上手なプレイヤー』の方々は共感出来ると思いますが、敵の位置を把握する力というのは全て『経験』からなるのです」
「ですから、『多分ここに居る』というより、『ここに居ないとおかしい』と感じる事も多々あります。本当にこれは経験なので、知りたければ場数を踏んで下さい。1試合1試合を大切にして、確実に経験を積んで行きますょ......行きましょう」
最後の最後で噛んでしまった。これは恥ずかしい。
「さ、残り15人。ここからはアクティブに行きますよ。終盤は安定を取るプレイヤーが多いですからね。終盤になるにつれ、大きく動けば動く程キルは稼げます」
「まぁ、その分死ぬリスクが激増するんですけどね。アハハ!」
固まっている敵に突っ込んで行くんだ。そりゃあ死ぬリスクも増える。
ただ、その分キルは沢山稼げる。本来ならグレネードやワイヤーでキルを楽に稼ぐのだが......今回はハンドガンだけだからな。少し慎重に行こう。
「はい。ここで数分待ちます。10分後の戦闘エリア収縮に合わせて、後ろから追い込み漁をします」
システムと人間の心理を上手く活用して攻めよう。
「うわぁ、インドラの銃声もしますね。いつぞやの戦闘を思い出しますが、知っている人は居ないでしょう」
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あんko:インドラひぇぇ!!
4thenA:ウワーインドラコワイナー(棒)
PiggyCh.:シラナーイ(棒)
ShowTime:公式...紹介....うっ頭が
【PPC】隊長:やべぇ、記憶にある
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純粋な視聴者の中に真っ黒な心の人間がよく見える。
公式に紹介された動画なんて、誰も知らないよね。特にとある3人は絶対に知らないよね。うん。
「そろそろ行きますか。そういえばリボルバーしか拾ってないけど、他のハンドガンも拾うべきなのかな......ま、いっか!」
何とかなるやろ。知らんけど。
そして戦闘エリア内の収縮に合わせて移動していると、目の前に広がる砂丘の奥から、アサルトライフルで撃ち合っている音が聞こえてきた。
「ゴーゴー!ちゃんと背後取ればイケるイケるゥ!」
楽しみながらも落ち着いて、1歩1歩確実に砂丘を登ると、戦闘が終わって敵のアイテムを漁っているパーティが目に入った。
敵さん。後ろはちゃんと見ような。天使がいるぞ。
「まぁ、撃たないんですけどね。ラスト2パーティだし、漁夫の利を狙わないと負け確定だからね」
しっかりと戦況を把握し、確実に勝利を収めたい。
「お、進む......いやこっち来てね?引きます引きます」
敵が前に進んだと思ったら、ちゃんとクリアリングをする人間だったらしく、俺の居る砂丘の裏まで歩いてきた。
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「っかしぃなぁ。聞こえたんだけどな〜」
「幻聴だろ。ラスト2パだし、気ぃ張りすぎだ」
「そ〜そ〜!もっと気楽に行きなよ、noob君?」
「俺はnoobじゃねぇ!ったくもう、それよりお前インドラの弾あるか?」
「「ある」」
「あ、私無いです」
「アタシもさっきのヤツから取ったけど、弾無しの女の子だったわ〜!ハハッ!」
「じゃあ渡すわ。5人のインドラでビビらせてやろうぜ」
「「「「お〜!」」」」
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「視聴者さん達。これが絶望というやつですよ。最強のスナイパーライフルを5人全員が持っているという、アホだけど強い構成のパーティですよ」
まさかインドラを5人が持つとはな。咄嗟に砂に埋もれて隠れたけど、バレてないようで良かった。
「あ、戻ってきた。また隠れるね」
1度去ったかと思えば、また敵が近付いてきたので再度、砂に埋もれて隠れる。
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「なぁ、絶対幻聴だから。お前の耳絶対やられてるって」
「いや聞こえたから!マジで!アホって聞こえたから!」
「んな訳ねぇだろ?アホか?」
「......うっぜぇ......ん?......ブハハハハ!!」
「何わろてんねん」
「いやオイ、あれ見てみろよ」
「は?......ぶっ!」
「はぁ。殺ってくるわ。先行っとけ」
「あいよ。アイツらワイヤー仕掛けてるらしいから、ゆっくり遊んでもいいぞ〜」
「はっ、舐めんな。ぬいぐるみで遊ぶのに時間かけるやつがいるかよ」
「フラグ乙。じゃあの」
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何故か2人の内1人がメンバーと合流し、幻聴という名の俺の声を聞いたプレイヤーだけが残ってしまった。
「ケモっ娘ちゃ〜ん。ゴメンネェェ!!!」
男がそう言った瞬間、俺の横腹に凄まじい威力の蹴りが入れられた。
俺は蹴られた衝撃でHPを減らしながら吹っ飛び、敵から5メートルくらい先の場所まで転がった。
「......チッ、重いな」
「痛てぇなクソが。何で俺に気付いてんだよ」
そう言った俺に、敵が間髪入れずにアサルトライフルで射撃をしてくるが、砂丘の傾斜で照準がズレているのか、1発も俺に当たることは無かった。
「チッ」
「フンッ!」
敵がリロードを挟んだ瞬間に一気に近付き、男の急所を思いっ切り蹴り上げた。
「ンンンンン!!......グキギギギ」
男が悶絶している隙にリボルバーで3回頭をぶち抜き、ダウンさせることに成功した。
相手はチームメンバーが残っているので、ただHPを全損させただけでは死んでくれない。
故に、ここで残りの敵が来るまで尋問といこう。
「おい。何で俺の位置が分かった」
「......」
「お〜い」
「......」
「幻聴の聞こえるお兄さ〜ん?」
「黙れ!」
ちょっとイジってみたら効果抜群だった。
「ほら、吐け。何で俺の位置が分かったんだ〜?」
「......」
う〜ん、チーターという説は無さそうだし、まぐれかな。
まぁ、後で試合のリプレイを見てみよう。それで全部分かるだろ。
「おやすみ」
蹲っている男の頭に弾丸を放ち、キルを頂いた。
「残りのヤツ全員殺りに行くか。っと、その前にコイツのハンドガン貰って行こう」
流石にリボルバーだけだと不安だからな。今の敵からフルオート射撃が出来るハンドガンを頂戴し、残りの敵が居るであろう地点へ走った。
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なあん:一人称俺!?!?!?
valuech:これ放送事故では?
5553:切り抜き案件
Daina:初回から事故は草。有望株だな
4thenA:正体現したね。
ダックス憤怒:性体現したね。
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俺はリボルバーのリロードをしながら砂丘を下ると、先程の敵の仲間であろう人間から撃たれまくった。
「危ないなぁぶち殺すよ?」
残りHPが数ミリ程度まで減り、遮蔽物に隠れて回復アイテムを使用する。
「ったく、なんでアイツらインドラ撃たねぇんだよ。宝の持ち腐れじゃねぇか」
距離としては200メートルぐらい先から撃たれたのだが、あの距離ならアサルトライフルで撃つより、スナイパーライフルのインドラで撃った方が確実に殺せるだろう。
何の意図があるのか知らんが、相当アイツが負ける事がイレギュラーだったのだろうな。
「はっ、詰めて来た。クロス組んでるワケでも無さそうだし、二丁拳銃の強さを見せてやるか」
事もあろうに敵が俺に詰め寄ってきた。これは悪手中の悪手。絶対にやってはいけない動きだ。
何故なら、既にハンドガンだけで1人殺られているというのに、グレネードの相手をおびき出す手段も取らずに詰めてきたからだ。
「いた!岩裏1人!」
相手が位置報告をした瞬間にリボルバーで左足を撃ち抜き、即座にもう片方のハンドガン『タキオン』で蜂の巣にし、ダウンさせた。
「次」
相手が動きだす直前でタキオンだけリロードし、相手の体を盾にしながらリボルバーもリロードした。
「あぁっ!アキラごめん!」
「いい!早く殺れ!」
「んな事させる訳ねぇだろ?」
敵が男をキルする事で俺の盾を無くそうとしてきたが、そんな事はさせない。
俺は即座に男を投げ捨て、男を撃とうとした方の敵に距離を詰め、リボルバーで1発だけ牽制射撃をしてからタキオンで蜂の巣にした。
「次」
これで男3人を倒し、残りは女2人だけ。ギャルっぽい金髪と地味っ子ちゃんだ。
そしてギャルっぽい子がグレネードを投げてきたが、見当違いの方向に投げていたので無視し、俺は地味っ子ちゃんの方に詰め寄った。
「ひぃ!」
「アハハハ!!」
ここまで上手く捌けるとは思ってなかったので、特大級の笑みを零しながら地味っ子ちゃんもタキオンの餌にした。
さぁ、最後。ギャルっぽい子だけだ。
「カナ!......スモーク、スモークはどこだ!?」
どうやらギャルっぽい子は頭が回るようで、直ぐにスモークグレネードを探していたが、あらかじめ準備をしていないせいで手間取っている。
頭は良いのに体が追いついてなかったな。残念。
ババババババン!!!
立ち止まらずに動きかながらアイテムを出せば良かったものの、立ち止まっていたので落ち着いてタキオンに食べさせた。
「はい、8キル。あと2人はあの家の中か」
敵チームの全滅を確認しながら両方のハンドガンをリロードし、最後のパーティが居るであろう家を見た。
その瞬間、ズドンと重い音が俺の全身を打ち付け、立ち止まると死ぬ気がしたのですぐさま近くの大きなサボテンに身を隠した。
「うぉぉやべぇ!アイツもインドラ持ちじゃん!!」
おかしいだろ。サプライポッドってそんなに降ってくるものだっけ?その上、インドラってそんなに入ってるものだっけ?
「チーターでも居たのかな。まぁいい。殺るしかないナイ!」
きっとコメント欄では『鼓舞してけー』が流れている事だろう。終盤戦のせいで読めなくてごめんよ。
「エリア収縮は......うわ、敵側じゃん。これ半詰みか?」
マップで次の戦闘エリアを確認すると、なんと敵の籠城している家がエリア内に入っていた。
その上俺の居るポジションはエリア外だ。つまり、絶対にこの遮蔽物から出ないといけない。
このサボテンは弾を通さないが枝の隙間から俺の姿が見える。故に慎重に動くより、大胆に動かなければならないのだ。
「あなたを籠城罪と天使射撃罪で訴えます!理由はもちろんお分かりですね?あなたがインドラで私を撃ち、危険な目に合わせたからです!覚悟の準備をしておいて下さい。近いうちにキルします。ウィンナーも取ります。キルポイントにもなってもらいます。撃たれる準備をしておいて下さい!あなたは敵です!ロビーにぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!」
独特すぎる鼓舞で自らの士気を高め、俺は右手にタキオンを、左手にリボルバーを持った。
俺の利き手は右。だけど射撃精度が高いのは左手だ。
いつぞやの神の目インドラとの勝負でもやったが、俺は左手の射撃の精度が異様に高い。
エイム練習をする時に左右の腕で比べてみても、絶対に左手の方がポイントが高いのだ。
そして何故、単発でしか撃てないリボルバーを左手に持ったか。それは──
「早撃ち勝負といこう。俺はガンマンだ」
俺はガンマンよろしく、西部劇の早撃ち勝負をする。
相手がスナイパーライフルだろうと、それがどんなに強力だろうと、先に撃ってしまえば何の問題もない。
篭城している坊や達。ハンドガンの強さを思い知ってくれ。
「エリア収縮まで15秒。うん、それだけありゃあ2発は余裕だ」
俺は2秒で呼吸を整え、左手に全意識を集中させる。
そして1秒後にサボテンの影から出て、構えて撃つ。
バンッ!ドバンッ!
相手が撃つより一瞬速く放った俺の弾丸は相手に命中し、そして相手の弾丸もまた、俺に命中した。
「......走れ」
左腕とリボルバーが消滅したんだが、前に進むしかない。例え相手が2人で構えていようとも、俺は前に出るしか選択肢がない。
そうして敵2人が篭城している家の壁に隠れ、そっと中を見た。
するとそこら中にワイヤーが張り巡らされており、完全にここで待つ気だったのが伺える。
「はぁ。このどうやって相手を倒そうか考える瞬間こそ、縛りの醍醐味ですね!相手は2階に2人とも芋ってるし、グレネードがあればなぁ」
無い物ねだりは辞めよう。悲しくなるだけだ。
「ここで戦闘エリアが無くなるまで待つのも良いですが、それでは配信は味気ないでしょう。おr......私の配信に来てくれた人を楽しませたいですし、絶対にこの手でキルしますよ!」
配信カメラに、一生懸命やっている雰囲気で宣言し、俺は回復アイテムを使ってHPを満タンにした。
「では、ここからは100パーセントプレイヤースキルによる勝負を行います。勝ったら笑い、負けても笑って下さい。これがアルテミスの戦い方ですから......ハンドガン縛りの、ね」
本来はもっと、頭を使ったプレイをするのだが、ハンドガン縛りではプレイヤースキルの面が大きくなる。
さぁ、負けたら次の試合。勝ったら配信終了がかかっている勝負の始まりだ。気を引き締めよう。
「すぅ......ふぅ......あ、1人外から出た。もう1人は......まだ2階だ」
物音から察するに、1人が窓から外に出て、家の2階から射線が通る位置で挟み撃ちにする気なのだろう。
これは敵に気付かれていなければ通用する作戦だが、バレてたらおしまいだ。
「ゴー」
自分に合図を出して家をグルっと半周する。すると挟み撃ちにしようと外に出ていたプレイヤーと鉢合うので、タキオンで蜂の巣に。
そして味方がダウンした事に気付いた2階の敵が降りてくるが、タキオンのリロードが間に合わない。
俺はタキオンを敵の顔面に向けて投げ、すかさずダウンしているプレイヤーからハンドガンを奪い取り──
バン!バン!バン!
3発の弾丸が敵の心臓と頭を貫き、2人は砂のように消えていった。
◇━━━━━━━━━━━━━◇
【You are WINNER!!!】
◇━━━━━━━━━━━━━◇
「はぁぁぁぁぁ......勝てたぁぁぁ!!!!」
ウィンナーを取ったことを確認すると、俺は大きく息を吐いて砂の上に寝転がった。
「やったよぉ!初戦でウィンナー取れたよぉぉ!!」
ケモ耳に砂がまとわりつく感覚を無視してゴロゴロと転がり、喜びを表現した。
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『4thenA:HG縛りのウィンナーおめでとう:¥5,000』
『金糸雀:ナイスウィンナー!:¥2,000』
『貧民ガイ:最後激アツでした:¥9,000』
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チラッとコメント欄を見てみると、投げ銭の嵐が起きていた。
「ちょ、ちょっと投げすぎでは?皆もっとお金大事にして?」
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『【SLA】As:オカネ、ダイジ。アルちゃんモ、ダイジ:¥10,000』
『パンPすこ:大丈夫。石油王だから:¥11,000』
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「えぇ......有難いけど、そんなに貰ったら......っていうか石油王いるの凄いね。採掘頑張ってください」
そうして配信画面に10キルで勝利した画面を載せ、様々なプレイヤーの行き交うロビーに帰ってきた。
「はい、皆さんお疲れ様でした。試合時間は1時間ちょいでしたけど、10キルしか取れなくてごめんなさい。縛りがもう少し緩ければ倍は狙えたんですけど......私の経験不足ですね」
ハンドガン縛り、それもグレネード等のアイテムを縛った、真のハンドガン縛りでウィンナーを取ったのは今回が初めてだ。
それ故に安定に走った動きもしてしまい、配信は少しつまらなかったと思う。
「それでも、皆さんが楽しんでくれていたら嬉しいです。では、また次回にお会いしましょう。まったね〜!」
カメラに向かって手を振り、配信を切断......せずに待つ。
「はい。今回投げ銭してくれた人のコメントを1から読むので、ここからは雑談です。興味無い方はまた次回に〜」
そうして雑談をしながら投げ銭コメントを読み、俺の初めての配信が終了した。
「投げられた金額18万6500円。最高同時接続人数5万9000人、チャンネル登録者数が0から8600人......俺、ヤバいかも」
配信者が何故あんなにも頑張っているのか、何故あんなにも稼げているのかを理解し、俺はFSからログアウトした。
これはどこかの世界線のアルテミス君なのでしょう。
本当に番外編なので、本編とは関係ありませんからね!