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クリスマスイヴのプレゼント

ベリークルシミマス!


 12月24日。雪がしんしんと......いや、ドシンドシンと降る真冬の朝。陽菜と朝食を済ませた俺は、そそくさとユアストにログインした。



「......標的、睡眠中。これより任務を遂行する」



 ベッドの上で固まって寝ている娘達に気付かれぬよう、スキルと魔法を全力で発動しながら枕元にプレゼントを置いていく。


 リルにはスケール10分の1のソル人形(白狐.ver)を。

 メルには1日お肉食べ放題券を。

 ベルには付与効果マシマシの最強低反発枕を。


 そして寝たフリをしているソルには......額にキスを。



「任務完了。これより速やかに撤退する」


『ピピーッ、ピピー! こちらマサキ。リア充のルナサンタ、どうか迷える私に意見をプレゼントしてください。どうぞ』


「こちらルナ。迷いの種を見せろ。どうぞ」



 寝室を出てフーに挨拶し、シリカを短剣に変えて装備した俺は、ヴェルテクス城へ向かいながらマサキの通信を受け取った。


 マサキからお悩み相談とは珍しい。

 このサンタさんに聞くがよい。



『......俺、好きな人が居るんだけどさ』


「嘘だな。じゃ」


『待て待て待てぇい!!! 本当だっつの!!』


「......えぇ?」



 あのマサキに好きな人だと? リアルか? それともゲームか? どちらにせよ、スムーズに進みすぎた俺に聞くのが間違っている。


 でも親友の相談には乗ってあげたいし、聞くだけ聞こう。



『でさ、リアルで明日ってクリスマスじゃん?』


「せやな」


『俺、早川に告白しようと思ってる』


「............頑張れ」


『なんだその意味深な間は! 何か知ってるのか!?』



 別に特別なことを知ってる訳ではないが、早川......もといピギーは配信者だ。声を出して配信をしている以上、マサキが告白したとしてもOKされる確率は低い。


 配信者の恋愛事情は、本人が言わずに視聴者が気付いた場合、良質な炎上の種になるからな。



「ちゃんと相手を知ってから告白した方が良い。安心しろ、お前は魅力的だ。社交性もあって仲間想いだし、周りに合わせられる奴だ。後は相手のことを深く理解すれば、きっと上手くいくだろう」


『お、おう......ガチなアドバイスじゃん』


「後は......下半身で考えないことだな」


『当たり前だ! お前は俺を何だと思ってるんだ!』


「明るくて優しいヤツ。じゃあな、俺はこれからサンタになるから忙しいんだ」


『ありがとう。頑張れ』


「お前がな。けっぱれ」



 マサキとの会話を終えた俺は、城にある厨房へ行くと、食料専用ストレージである冷蔵庫の中から大量のケーキをインベントリに入れ、一つ一つチェックを始めた。



「シリカ、今から出すケーキにイチゴの盛り付けを」


「りょうか〜い! あ、摘み食いしてもいい?」


「3個までな」


「やったー! お兄さん大好き!」



 わちゃわちゃと2人で騒ぎながらデコレーションしていくと、あっという間にイチゴのホールケーキとブッシュドノエルの用意が終わった。


 2種類合わせて、その数なんと1万2000個。


 ここ最近、ログインしてる時は常にケーキを作っていたからな。知り合いや神達にあげることを考えていたら、いつの間にか大量に作っていたんだ。


 お陰でリアルでもケーキを用意出来たし、調理スキルの熟練度がおかしなことになっている。お菓子だけに。



「よし、配りに行くか。シリカ、お前トナカイ役な」


「え゛っ゛、シリカがサンタじゃないの!?」


「そりゃあお前、シリカのトレードカラーは赤だろ? 身長的にも赤鼻のトナカイを演じるには十分じゃないか?」


「う〜ん、そう言われると反論できぬ......ぬぅ」



 赤鼻のトナカイならぬ、赤髪のトナカイだ。

 俺はシリカにトナカイコスチュームを渡すと、俺自身もサンタコスチュームに衣装を変えた。


 これらのコスチューム、何と1着230万Lだ。

 イベント専用ドロップアイテムのせいで、オークションで買った時に高騰しちゃったんだよな。



「俺も行けば良かった。サタン狩り」


「お兄さん、悪魔狩るの好きだもんね!」


「好きじゃない。楽しいだけだ」



 皆が強敵であるサタンに挑んでいるところを、俺1人で倒しまくっていたら周りの評価が落ちそうだからな。

 今もイベントは続いているが、極力参加しないようにしている。



「ケーキよし、衣装よし」


「ソリはあるの〜?」


「勿論。フラカンで浮ける、本当に空を飛ぶソリがな」


「めちゃくちゃ本気じゃん! 力の入れ方が凄いね!」


「まぁな。イベントに参加出来ない分、全力で遊ぶのが俺だ」



 現在時刻はゲーム内で午前3時。

 プレゼントを贈り回るのに丁度いい時間だ。


 誰も居ない城を出て、綺麗に整えられた庭にソリを置くと、プレゼントボックスの形をした冷蔵ストレージにケーキをぶち込んでいく。


 赤い箱にはイチゴのホールケーキを。

 緑の箱にはブッシュドノエルを。



「じゃあシリカ。頑張ってソリを引っ張ってくれ」


「え......? もしかしてシリカ1人でこのソリを......?」


「Yes! You can do it!」



 シリカは無言で俺に近付くと、トナカイコスチュームから腕を伸ばして拳を握り、サンタのお腹を1発殴った。



「ぐっ、貴様! サンタに逆らう気か!」


「ブラックすぎるもん! 1人でこんな重たいソリを引っ張って、その上魔力の制御もやるなんて無理だもん!」


「仕方ない......フーを呼ぶか」


「人手を増やしてもダメ! 倒産するよ!?」


「分かった、分かったよ。俺が運転するから、引っ張ってるフリだけよろしくな」


「もう......これだからお兄さんは」



 トナカイコスチュームの首に縄を掛け、先にシリカにフラカンを使ってからソリにも使う。トナカイが引っ張っている演出をする為に、魔法の順番は気を付けないとな。



 これで準備は整った。いざ、世界中のプレイヤーへ!




◇ ◆ ◇




「お、おい見ろよアレ! マジのサンタが居るぞ!?」


「どれどれ?......マジだ」



 一通りのレベリングを終え、噴水のある広場でプレイヤー達が休憩していると、空を駆けるトナカイが見えた。



「何かのイベントか? でもそんなの書いてなかったよな?」


「無かったはずだ。運営のサプライズか......もしくはプレイヤーか?」


「プレイヤー? それはないだろ。空飛ぶソリとか作れんっての。作れたとしても、性能的に売るだろ」


「どうだかな。金に困っていない職人クラスのプレイヤーなら、それぐらい......何か降ってきた」



 サンタについて考察するプレイヤー達の上から、4つのプレゼントボックスがゆっくりと降ってきた。

 たまたま真下に居た男が受け取ると、その中身を見て驚愕すると同時に、深く納得した。



「『ルナちゃん特製☆クリスマスケーキ!』、ねぇ?」


「こっちは『ルナちゃん特製☆ブッシュドのえる!』だったぞ」


「お〜い、手紙もあるぞ〜。『みんなで食べてね!』だとよ」



 それぞれが降ってきた物を集め終わると、男達は姿勢を正してサンタに向かい、深くお辞儀をした。



「......プレイヤー想いのサンタさん、ありがとう」


「でもきっと、リアルではソルさんとイチャついてんだろうな......」


「別にいいじゃねぇか。こんなことをしてくれる男なんて、世界にあの人だけだ。あの人なら別に、クリスマスにイチャついていようが許せる」


「あの2人、本当に仲良いもんな......末永くお幸せに」



 口々に感謝の言葉を述べた男達。

 数分後に皆でケーキを食べ、その凄まじい出来栄えと美味しさに、言葉を失うのだった。




◇ ◆ ◇




「いや〜、この役、俺でなきゃ出来ねぇ仕事だわ〜」


「どうして〜?」


「MPの消費がえげつない。フラカンの維持と、プレゼントを落とす場所を決める正確な魔法操作技術が無いと、ケーキがグチャグチャになって終わりだ」


「わ〜お。お兄さんがサンタで良かった〜!」



 途中からは糸を使ってケーキを運び、朝日が顔を出す頃には何とか半分の6000個を配り終えることが出来た。

 もう半分はリアルの夜に配り、25日に皆が楽しめるようにしたい。



「お疲れ様。長時間付き合わせて悪かったな」


「ううん! シリカも空を飛ぶのは久しぶりだったから、楽しかった! またやろうね!」


「おう。それじゃ」



 シリカは城の掃除に戻り、俺は家に帰ると、玄関のドアを開けた瞬間から娘達の楽しそうな声が聞こえた。



「見てください母様! この母様人形、魔法が使えるんです!」


「凄いね! でも火は使っちゃダメだよ?」


「ママ、このお肉って、ドラゴンでもいいの?」


「勿論。好きなお肉を好きな味付けで作ってあげる!」


「......すぴー」


「ベルちゃん? 机で寝ないの。お布団行くよ」



 皆楽しんでくれてるようで何より。

 フー達にもアクセサリーをプレゼントしたら喜んでくれるかな。



「ただいま。朝から元気だな」


「おかえりなさい父様! 聞いてください、このお人形さん──」




 それからずっとリル達と遊んでいると、昼になったので俺とソルはログアウトした。




「陽菜、何かプレゼントとか、欲しいものはあるか?」



 昼ご飯を一緒に作りながら聞いてみた。

 陽菜のことだし、何かとんでもないことを言うに違いない。



「そうだねぇ......う〜ん、強いて言えば〜」


「強いて言えば?」



 少しモジモジと可愛い仕草を見せた後、陽菜は俺の耳元で囁いた。



「月斗君との子ども、かな」


「......今のうちに寝ておくか」



 やっぱり陽菜は陽菜だった。

 大胆に出るところも可愛いし、大好きだ。



「愛してるよ、陽菜」


「私も。愛してる」



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