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95.とても短いバカンスと深海少女

「「「「「海だー!」」」」」

「がっはっはっは、あいつらは元気だなァ」

「まあ女子組はね。僕らはゆっくり体を休めてようか」

「そうはいかないねえ、私らは短いとはいえバーベキューの準備さ。クレハ、肉と野菜は半々だよ」

「はい、わかっていますよ。そうしないと一部は偏って食べますからね」

「おや。そういうのはいないと思ったんだけど、もう心当たりあるんだねえ?」


 大蛸だった少女《水葵》ちゃんを救い出してからしばらく。私達はバーベキューの準備に取り掛かっています。

 もっともカエデちゃんやルナちゃん、トトラちゃんとイチョウさん……あとはお約束のようにジュリアは先に海の方へと遊びに行っていますが。

 なので男性陣は借りて来たテントとパラソル、そしてバーベキューセットの設置、私とフロクスさんは料理の準備をしています。


 ちなみに、水着の方についてですが……配信の方でもルヴィア達が着替えたようですね。

 現実の様に着替える手間は必要ではなく、普通に装備変更をするだけ。水着や道具については《四方浜》の湾岸ショップで市販され始めたので、そちらで調達したのが大半でした。

 私達については、特にこのパーティの面々についてはクラフター班の方が手作りしてくれました。何時だか採寸されたのはこの時の為だったんですね……

 ご丁寧にいつ採寸したのやら、この場にいる十二人分全部作ってありました。もちろん私達に限らず、他の有名プレイヤー達の分も作ってあったようでした。


「ふふん、すごくピッタリ作ってありますわねえ。キツくも無く緩くもなく、それでいて動きやすいですわ」

「トトラもー! トトラもぴったりなのだー!」

「でも、私達は。体型もあるから、うん」

「イチョウどのはー……うむ、まあ当然かのう……?」

「はえー? なんですー?」

「着痩せするタイプなんですわねえ」


 ジュリアは既にパーソナルカラーともなっている紅色のパレオであり、どことなく上品に感じさせるのは作り手の作風が上手いからでしょうか。

 私も貰っており、こちらは白を基調とした色とりどりの花の描かれたもの。若干龍の鱗のように並べて描かれているのが細かいと言いますか……華やかで結構好きですけれどね。

 して、カエデさんルナさんは……無難なビキニと言ったところでしょうか。トトラさんだけ布地が多いワンピースタイプなのは、まあ子供体型に近いからですか。

 そして注目の的となっているイチョウさんは三角ビキニに麦藁帽子。何時もの狩衣の下に隠されていたなかなかのものを見せつけているかのような。

 一応フロクスさんも似たものですが、こちらは恥ずかしがる事もなく着こなしているので、モデルか何かと錯覚してしまいそうですね。


「おーし、ウケタ。こっち立てるぞ」

「はい、どうぞ」

「バーベキューセットはこんなもんか? そんじゃ点火っと」


 男性陣の方は……皆揃ったようなものですが、柄や羽織った物がそれぞれ違うくらいですね。こちらも各々に合わせたサイズとデザインとなっています。

 流石にブーメランやフンドシとかにはならなかった様子。いえ、一般販売には並んでたらしいんですけどね……一部は狙って着たようですが。

 ちなみに狼人で獣に近いキャラクターメイクをしているアマジナさんは、先に広げたパラソル下のビーチベットで横になっています。

 先の戦いでは攻撃予兆のコールや高いAGI(すばやさ)を活かしての魔術迎撃でかなりパーティ貢献していたそうなので、皆納得の上で先に、ということで。

 しかし、外見が外見なのでこうして見ると結構様になっていて格好良さがあるというか……いいですね、獣人タイプ。


「それじゃあ焼き始めますよ。SPごっそり減ってると思うので、しっかり食べてくださいね」

「沢山焼いてくださいませー! しっかり食べますのよー!」

「クレハの料理の腕、ベータの頃はちょっと話題になっていたねえ。私らは実際お目に掛かるのは初めてだ」

「ふふ、とは言っても私は凝った物ではなく、道すがら道中でも作れるものばかりですが」

「そいつは逆に気になるねえ。しっかりしたものしか食べたことないから逆に気になるさね」

「ほとんどは買って、だからなァ。俺も機会があったらなんか注文してもいいか?」

「え? えぇ、まぁ。品質はあまりよくないですが、それでよければ」


 カルパさんが組み立てたバーベキューセットに火が入り、その上に肉と野菜を通した竹串を置いていきます。

 《調理》を取るのは楽ですが、自分で作るより製作を生業としてる人からプレイヤーメイド品を買った方が手間が少ないとかで、戦闘メインの人は取った人が少ないのだとか。

 実際の調理技術も多少プレイヤースキルとして出来に左右するところがあるので、あながちそれも間違ってもないのですけれど。


 配信しっぱなしのコメント欄の方へと目を向けて見ると、先のアマジナさんの妙な魅力で『獣人メイクも味があるな』とか、トトラさん達に目を向けて運営におしおきされかかっている面々とか。

 ルヴィアから離れている理由は察してくれてはいるのですが、その中でようやく私達の位置に関してようやく『そういや他と離れてるけどなんでなんだ?』と。

 これには少し理由がありまして……まあ、ある事を裏で頼まれたからであり、料理も作るのでそろそろ彼女も出てくる……出てきて欲しいと思うのですが。


「あ、あのぅ……私、ここにいていいんですかぁ……?」

「はい。いいんですよ、ですが、まだ病み上がりですから無理しないでくださいね」

「ふぁ、ふぁいぃ……」


 パーティメンバー十二人、と、ここにもう一人。おどおどとしながら私のカメラである光球から隠れるようにしてちらちらとこちらを見る少女。

 蛸壺を模した柄の帽子にゆったりとした洋服、綺麗なストレートの海色の長髪を持ち……不安たっぷりの赤い瞳を此方へと向け続けています。


「しっかしあれだけ暴れた大蛸の元はこんな子だったなんてねえ」

「はわわわ……それはごめんなさいぃ……」

「気にしないでくださいね、元に戻ったんですからそれでいいんですよ……《水葵(みずき)》さん」


 コメント欄の方も驚愕の声が溢れました。はい、彼女こそイベントで対峙した大蛸こと《深海の大蛸 天城(あましろ) 水葵(みずき)》さんなのですから。

 一応、配信しながらも大蛸の亡骸から救い出したのですが、一部は視聴者……イベント参加者はその場面を見ていませんでしたからね。流れでこのバカンス中は彼女の様子を見ることになりました。

 以前同様の状態だった《八葉の巫女》さん達に比べて異様に回復が早いあたり、今後についての情報も持っているのかも知れませんけれど……

 とりあえず、警戒は解いておかないといけませんね。たぶん、私達と対峙してそれなりに暴れたからなのかと思いますが。


「へぅぅ、でもわたし、皆さんにひどいことしたしぃ……」

「あはは……それはもう魔力汚染のせいで怪物化してたからもう仕方ないことだったので」

「そうですわよ。もう大丈夫なんですから、もうちょっとしっかりしてくださいませ」

「しかたのないこと……うぅ、助けて頂いたのは嬉しいのですけどもぉ……それでも……」


 涙を浮かべてぷるぷると震える水葵さん。ジュリアも声を掛けに来ますが、これはこれで……ちょっと扱いが大変ですね……

 街の人たちの話を聞く限り、彼女は元は夜界辺境の生まれらしく、おいしいものが食べられるからという理由でこの湾内一帯の魔物を全て駆逐して守っていたそうです。

 ですが、それも水葵さん自身が汚染されてしまった事でだんだんと正気を失い、怪物の姿へと変わり逆に海に出た船を襲う怪物と化してしまったと。

 根は優しい方だとは思うのですが、気にし過ぎとも感じるような……そんな水葵さんを見かねたフロクスさんが彼女の前へ。


「いいかい? 私ら《来訪者》はさっきみたいな怪物になったこの世界の人達を助けるのが役目さ、わかるかい?」

「ふ、ふぁい……」

「なら、私達はその役割を果たしただけさ。怪物になった間に出した被害も、街の人達は目を瞑ってくれてる。だから、気にしないでいいのさ」


 ぽんぽん、と水葵さんの帽子の上から頭を撫でて。なんとか説得はできた……というより、理解して貰えたようですね。

 不安げな顔が消えてほんのりとその顔に笑顔が戻ったように感じます。フロクスさん、こうして見ると姉御肌のような気質が感じられます。


「よし、それじゃあ色々クレハに自分の事を聞かせてやるなり、ジュリア達と一緒に遊ぶなりしてくるといいさね」

「わ、わかりましたっ、じ、じゃあ、ゴハンできるまで竜のヒトと遊んでもいいですか?」

「喜んでですわ。この辺については詳しいのでしょう? 色々教えてくださいませ」

「ふぁ、ふあいっ!」


 元気を取り戻した水葵さんはジュリアに手を引かれて海の方へ。背丈と言動だけを見ればジュリアやトトラさん達と歳が近いのでしょうから、仲良く遊べるといいのですが。

 ちなみに、怪物化した水葵さんを倒したことで湾内には多くの船が漁に出ています。討伐が確認されるなり、待っていたと言わんばかりの勢いで出たのだとか。

 私達も話を聞いたのがベータの時の最序盤でしたから、本当にようやくと言ったところなのでしょう。

 これで海産物料理もNPCの販売で出回ると考えると、よりおいしいものが食べられるようになりそうですね。

 あとは釣り船なんかも実装する予定があるとの噂。これは運営からのお零し情報なので……多分、お父さんからの、でしょう。


「ああ、蛸少女ってなるとあんな感じになるんだねえ」

「そのうち進化先にも加わりそうですね。その場合、慣れが大変になりそうですけど……」

「一部には需要がありそうだな、一部には、だなァ」

「大分強い警告文が出そうだ……俺はしないし絶対進化先から外れてるけどな……」


 バーベキュー焼き串の山を作りつつ海の方を向けば、水葵さんが蛸足を伸ばして浜辺で追いかけっこをしていました。

 衣服のまま入っているのはそういうものだからでしょうか。重さを感じさせない泳ぎでクラーケンをしてトトラさんを持ち上げて遊んでいます。

 八本の蛸足が人としての手足とは別に……おそらく腰元から生えているようで、器用に操っているようで。

 うねうねと動いているのを見ると色々と想起してしまいますが、それはまあ、はい。置いておきましょう。


「皆さんの今後の予定ってどうなっているんですか?」

「私とウケタはジュリアの声が掛かるまではしばらくこっちで活動する予定さね。手伝いする約束しちゃったし」

「この戦いで得られた素材を使って大剣を新調しようかと。間に合えばいいのですが……」

「サスタとイチョウと一緒に《如良》の方で動いてみようと思ってる。今回のを見せられたら、流石にクレハとやるまでにもうちょっと腕を磨きたくってな……」

「あー……そういえばその予定でした。やるのは三日後でいいですか?」

「しばらくは武器の新調とかもあるだろうから、僕らとしてもその方がいいね」

「異議なしだ、こっちもこないだの猪神の毛皮を加工に出してるからなァ、折角やるんだから万全の方がいいだろ?」


 そういえば《決闘》の約束がありましたね。それに関しては後日、全員が準備出来てからでいいでしょう。

 私も明日と明後日は行っておきたいところがあるので、そちらに行ってからですね。


「ああそうだったな、タラムは《唯装》のダンジョン見つけたからそっちに行く予定があったんだったなァ……」

「お、そりゃあいいねえ。みんなで行けるとこなのかい?」

「それが肝試しみたいなところでね、ソロ限定ダンジョンなんだ。明日のうちに攻略はしてくるつもりではあるさ」

「エルフで《唯装》……新しい《精霊》候補になれそうですね?」

「まあね、使いたいスキルもあるし、そっちの方で考えてるところ……だけど、男でも《精霊》になれるのかな」

「確か今だと……ルヴィアとイシュカさんだけでしたか。あんまり性別で区別は付けなさそうですから、多分いけるでしょう」


 コメント欄の方へと視線を向ければ、運営からのコメント……『その辺りも大丈夫です、ちゃんと男性でも進化出来ますから』とのこと。

 精霊は女性のイメージが付き物ですが、一応伝説上でもオベロンなど男の精霊もいるわけですからね。出来なければむしろおかしい……ということでしょう。

 知っている人が《唯装》を持つことになると、ちょっと嬉しいものでもありますね。期待しておきましょうか。


「さて、と。バーベキュー串もそれなり出来ましたから、先に皆さんどうぞ。それと、遊びに行っている組を呼び戻してください」

「うおっしゃ飯じゃア! 肉ゥ!」

「飯ィ! 海水浴っつったらこれだろ!」

「あっ、それ僕の!」

「追加でどんどん焼くから、どんどん食べていいよ。ほらクレハ、新しく通したヤツさ」


 それなり出来たので、先に男性陣に提供。早速ですけれど争奪戦が起きてますね。

 横になっていたアマジナさんも飛び起きてから串を手に取って喰らいついており、サスタさんがタラムさんが目星を付けていたのを持って行ったようです。

 ちなみに一番多く串を握ったのはカルパさん。体格が一番大きいですからね、それはまあ食べますか。

 ウケタさんはしれっと二本手に取って食べながら、ジュリア達遊んでいる組を呼びに行きました。まあ、戻ってくる速度は……お察しの通り。


「出来上がったと聞いたのだ! 早く串が欲しいのだ!」

「元気ですね……はいどうぞ」

「んふふ、お姉様の料理は絶品ですもの、遊ぶ次には楽しみですもの」

「クレハさんの料理ー、おいしいですー、うふふー……」

「ほらほら水葵殿も食べるのじゃ。おいしいからのう」

「わー……美味しそうですっ、いただきますぅー」

「美味……もきゅもきゅ……」


 水葵さん、とても元気になられたようですね。これなら私から色々と話を聞く事も出来そうです。

 海で着衣のままに遊んだにしてはもう乾いているあたり、特殊な服なのでしょう……ちょっと気になりますね。


「……他のサーバーも早いところ、バカンスを楽しんで欲しいものですねえ」

「激戦真っ只中だそうで、そろそろBサーバーが終わりそうだそうですよ」

「私達が相手にしたものよりはかなり緩いそうだけど……まあ、阿鼻叫喚になっているみたいだね」

「水葵と? 戦ってるです?」

「あはは、まあそういうところです」


 他のサーバーは私達よりも数段劣る面々が集まっているため、それはそれは阿鼻叫喚なようですけれど……

 調整されている分、体力は勿論の事バーサクモードの廃止や魔術の詠唱間隔延長などなど、結構な弱体化が入っているようです。

 それでも強敵なのはなおのこと変わらず、苦戦するサーバーもいるようで。特にCサーバーは引き際を見誤って一レイドが壊滅したとかなんとか。

 その当事者である水葵さんはきょとんとした顔を浮かべ、蛸足を使ってまで焼き串を気に行ったのかもぐもぐと食べています。

 ……あの大蛸の中身がこれなんですから、それはもうびっくりしますよね……


「それじゃあ水葵さん、そろそろ色々と聞かせてもらってもいいですか?」

「んっぐ。うん、水葵が知ってる事なら!」

似た口調の書き分けが難しい……!

クレハ「似てますもんね」

ウケタ「そっくりですからね」

クレハ「ウケタさんは丁寧語、執事風とのことですけれど……」

ウケタ「ですが大剣を振り回していますよ。ふふふ」

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