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88.猛者の元には自然と猛者が集う

「タンク組、大猪来ます! ヒーラーもバフをお願いします!」

「おうさ!」「任せろ!」「お任せを!」

「近接組、一気に仕掛けます! 遠隔組は鴉達の対処を!」


 遠目に見えた、森の中を爆進してくる大猪こと《ビッグボア》をタンク三人組に報せて壁を作り、ヒーラーのイチョウさんとカエデさんから防御上昇のバフ付与。

 直後に獣道から飛び出した大猪の突進をカルパさんが先頭になってタンク三人が受け止め、そこに私とジュリア、フロクスさんとアマジナさんで総攻撃を掛けます。

 上空からも小鴉こと《リトルクロウ》の群れが飛ぶため、遠隔の三人であるタラムさんとトトラさん、ルナさんに迎撃の指示。

 大猪は高火力近接四人とタンク三人の集中砲火によって一瞬でその体力を減らしあっと言う間に討伐、小鴉の群れも他の面々の助力もあって撃退しました。

 撃退したと言ってもすぐに次の群れが襲って来るので厳戒態勢のままで、私は再び上空から索敵を行います。


 始まった輸送クエストでしたが、始まって数分で波乱の幕開けとなりました。

 平均レベルの上昇によって、大型の魔物が追加された上に数も種類も増加。鴉や大猪も追加された魔物であり、主に一番平均レベルが高いパーティが守る荷台を狙って攻撃するようです。

 後方の私達よりも平均レベルの低いパーティは鹿や猪と言った見慣れた魔物を相手にしているようですが、その量も増えていますね。

 開始から十分かそれらいの頻度で襲撃があるので、なかなかに気が抜けなくなってはいます。とはいえ殲滅も早いので、小休憩くらいの時間はありますが。


「指示が早いし的確でやりやすいのだ!」

「流石ジュリアさんの姉君。頼りになります」

「いえいえ、指示に素直に従って下さるので上手く行っているだけですよ」


 荷台の傍らで合わせて歩くウケタさんと、荷台の上でイチョウさんと一緒に固定砲台をするトトラさんが声を掛けてきます。

 実際、普段とパーティを少しだけ組み替えた場合だとどれくらい動けるかも見るつもりでしたが……全員ちゃんと息が合っているので、とてもスムーズなんですよね。

 ジュリア組もまとめてこちらの指示で動いており、細かな敵への対処は各役割ごとで決めても動いているようですね。

 タンク班だとサスタさんが安定して指示を出し、攻撃寄りのカルパさんとウケタさんがそれに沿って動く……と言った感じに、同じような動きが遠隔(レンジ)組、私を含めた近接(メレー)組も出来ています。

 そう、例えば―――


「おっと……後方から鹿が流れてきました。フロクスさんとアマジナさんお願いできますか?」

「よぉし、任せな!」

「さくっと仕留めて来るぞ」


 私は上空索敵と、遊撃あるいは後方が手間取った時の救援という機動力を使った動きもあるので、こういった防衛対象近辺の防衛はアマジナさんとフロクスさんが担当です。

 ジュリアは一番機動力があるので現在後方の初心者パーティが手間取ったウサギの群れに加勢しに行っており、ある程度手伝ってすぐに飛んで戻ってくるという動きもしています。

 当初は私が《八卦》を使ったり、ジュリアが《竜眼》を使った魔術で対処していたのですが、それは取っておいてほしいという話になったのもありますが……


 上からフロクスさんとアマジナさんの動きを観察します。流れて来た二体の鹿に対し、先に仕掛けるのはアマジナさん。

 新調された綺麗な銀細工の施された短剣二本を抜き舞踊のようにすら思える剣技を繰り出し、まずは二体の注意を引きつつ片方に的確にダメージを与えます。

 そうして気が逸れた片方に対し、自身に移動速度上昇の《陽術(バフ)》を掛けたフロクスさんが一気に距離を詰め、金棒型の鈍器で重い一撃を繰り出して不意打ちの直撃(クリティカル)を喰らわせました。

 二体の片方が落ちれば、あとは一方的に二人で詰めて倒すだけ。あっさりと倒せば、後続の邪魔にならないところに移動させて《解体》し、戦利品を獲得して戻ってきます。


「早い処理、助かります」

「いいのよ。いやホント、あんたと組むとやりやすいねえ」

「ははっ、しっかり仕留めてくれるから、こっちもやりやすい」

「息が合っていて、見てるこちらも感心しますよ」


 二人が和気藹々と話しながら戻ってきつつ、お互いの腕を称えます。ほんと、流れる様な所作で処理してますからね。

 それにしても息が合い過ぎているのは、おそらく元々ウケタさんとの動きで同じような事をしていたからでしょう。

 ただ、アマジナさんの場合はより素早いためにいつもよりもスムーズに動ける……からでしょうか。何となしにでしたがこの二人を組ませて正解でしたね。


「私のメンバーに加えたいくらいですね。サスタさんも一緒にどうですか?」

「んお? まあそうだな……考えておくよ、何分夜の方はまだあんまり行ったことが無くてな……」

「あちらも大して変わりはしないよ。ただまあ、慣れの問題もあるか。私もこっちだと逆に明るすぎて(・・・・・・・)見えづらい時もある」

「イベントで一度行きましたが、確かに昼側に長くいるとリアルの感覚で見てしまうところもあって、明るさは同じでも暗く見えちゃうんですよね」

「私も最初はそれで戸惑いましたわ。今はもう慣れてしまいましたけれど」


 ヘッドハンティングが始まりましたね……というより、サスタさんとアマジナさん丸ごと取り込もうという感じでしょうか。

 確かに盾役二人と息の合う近接二人であれば、以前よりは活動範囲は広がりそうですね。こうやって新しい輪が出来ていくのもいいものです。

 私とジュリアは当面一人旅に戻りそうですけれどね。今のところは新しいダンジョンもないので、各地で情報集めとなりそうですし。


 昼と夜の明るさは一緒なのですが、どうにも感覚はリアルに引っ張られてしまうので夜だと暗く、昼だと明るく感じてしまうんですよね。

 どちらも行き来していると感覚は慣れるのですが、長くどちらかに滞在して移動するとそう感じてしまうと掲示板でも話題になっていました。

 こればっかりは人間の感覚ですからね。仕方のないところはあります。

 ふと下方へと視線を向けば、荷台の上、固定砲台を担当している遠隔組が交流をしていました。


「ルナさんとカエデさんはお二人と組んでいてどうなんですかー?」

「トトラも気になるのだ? ジュリアはよく見てるけど、トトラはクレハを知らないのだ」

「……ううん、クレハは防御に回ることも出来るし、何より見抜く力が凄くて安定感がすごい。何でも相手に出来てる」

「こないだ《如良》にまでご一緒しましたけどー、ほんと隙が無いんですよね。私が射る事はありましたけど、私がうっかりしてもすぐカバーしに来てくれましたしー……」

「ジュリアとは対極みたいなのだなー……逆に一度殲滅に出るとぺんぺん草も残らないのだ……そして満身創痍で戻ってきてポーションがぶ呑みしてるのだ」

「まさに噂に聞く"紅炎の通り魔"その通り。クレハも夜界側だと、"蒼白の剣魔"とか言われてる」

「トトラもそれは聞いたことはあるのだ! あちこちで色んなものを斬り伏せてく奴だとか聞いたことがあるのだ!」

「ふぇ、それはちょっと初耳ですねー……?」


 ちょっとそれは私も初耳なんですけどそれ!? という驚き顔で隣にいるジュリアの方を見ると、知った事かという顔を浮かべてます。

 あっ、これはこっそりジュリアが噂を流しましたね? 自業自得でしょうに、それとも対抗意識……?

 まあそうでなくても、掲示板には二つ名を付ける人達がそこそこいるようですからね。ルヴィア含む私以外の幼馴染四人は十二神器の一員だとか呼ばれていますし。

 なので、例えジュリアが流した訳ではないとしてもそういった二つ名が付いていても仕方ないところはあるのですが。

 ……公式から頂いた二つ名は、私は"水龍姫"でジュリアは"火竜嬢"なんですけどね。ずっと伏せてるので露見してない筈……?


「……ふふー、お姉様も夜界板はあんまり見てないようですわね?」

「まあ、担当が違いますから。こちらに集中しようと思って……」

「色々と情報が出回っていますわ、そろそろこちらもグランドクエストが進みそうですもの。各自で動いているのもありますから、あまりリアルでは情報交換は出来ませんが……」

「近郊は既に奪還し終えたなら、確かにそろそろですか……」

「ですわ。次は北方に向かって欲しいと《サーニャ》ちゃんにも《リーシャ》ちゃんにも言われていますもの」

「確か未開拓の方……でしたか。それで、向かう前に……ということですか」

「ベータ組以上の難易度相当だそうですから、あの肉ロード中盤級だと想定しても何人か連れていきたいとも」

「ある意味そのお目付ですか……」

「そういう事ですわ。一人でも行けなくはないのですけれど、やはり後方がいると安定しますのよ。それと……」

「それと?」

「明日はイベントでしょう? 同じサーバーに配属されれば、顔馴染みとすぐ組めるのはいいことでしょう?」

「確かに。私とジュリアはおそらく最高難易度のサーバーでしょうけれど」


 最前線に行くのなら、ジュリアのその話も納得と言うか……

 先のトトラさんの話を聞いていれば、突貫しても確実に戻ってくるとはいえ回復の隙を狙われては堪ったものではないですし。

 ジュリアを捉え切れる魔物が出てくれば、それもそれで厄介となりますでしょうからね。

 特に、そのジュリアが次の目的地とする北方は未だ未探索の部分が多い場所。私は夜側に行けないので、それを見越してのお手伝い……ということになりそうですが。


「さ、次のウェーブが始まりましてよ! 私はさらに上空から見てきますわね!」

「お願いしますね。左後方から猪来ます! 今回は群れ単位なので遠隔組もそちらに!」


 ジュリアの声と共に、次の魔物達が襲来した旨を全員へと伝達。すぐに雑談を止めて各々準備に取り掛かり、数秒後には指示した方向へと目を向けています。

 荷車も道の三分の一にまで到達し、森を抜けて草原地帯へ。もう少ししたら田園地帯へと差し掛かるくらいでしょうか。

 後続の荷車に関してはウサギと鹿の群れが襲い掛かっていますね。まあ、手伝うとすればジュリアの判断ですが……ちゃんと応戦出来ているので心配はないでしょう。


「こっちでも視認したっつーか、土埃舞い上がってるからわっかりやすいな」

「ですが、近くで湧いたのでしょうね。私達もあちらを向いていて見えなかった訳ですから」

「んじゃあ、夜側行きの話についてはまたこいつらを片付けてからだ」

「わかりました、楽しみにしますよ」


 タンクの方はウケタさんが前に出て、サスタさんがその後ろに。カルパさんは後詰として荷台の傍で待機。

 アマジナさんとフロクスさんはタンク二人の後ろに待機し、遠隔組は荷台から攻撃の準備。迎撃の準備が整えばジュリアが戻って来ました。


「空の方は無しでしたわ。ただ、ちょーっと道の先の方で嫌な予感がしますわね」

「嫌な予感?」

「はいですわ。この先遠方……道を辿った先にぼんやりと何かが待ち構えていましたわ」

「……いやいや、まさか」

「念の為私は後方にもこれを伝えに行ってきますわ。念の為レイド戦の準備をしておいて欲しいと」


 ジュリアは私にそう伝えれば、翼を広げて後続の荷台で防衛隊を指揮するリーダーのところへと飛んでいきました。

 ……なるほど、巫女達が言っていた通りにこの輸送が終われば《翡翠堂》がプレイヤー向けにも開店できそうと言っていたのはフラグでしたか。

 おそらくジュリアが見えたというのは大型のボスでしょう。それも、荷台を守りながら戦うという前提を置いた。

 ともかく、そこに到達するのはまだ余裕があります。今回の魔物達を撃退したら改めて伝えるとしましょうか。


「猪の群れ、来ます! ついでに反対側から大猪単騎、私はこちらに加勢するのでカルパさんお願いします!」

「おっしゃアこっちは任せろ!」

「大猪のヒーラーは私がやりますねー!」

「迅速に猪を処理して合流するよ!」


 視界の端、荷車を挟んで反対側に大猪が沸いたので伝達し、私も白雲を抜いて戦闘準備。二面から攻めてくるパターンは珍しいですね。

 以前も何度か手伝っている際も、平均レベルが高くなった時にもこうして全く違う方向から攻めてくるといった事がありました。

 ということは、難易度に関してもプレイヤーの平均レベルに依存ということですか……まあ、《万葉》と《フィーレン》の戦線が終わってレベルも結構上がっているでしょうからね。


「《八卦・水》……!」


 白雲に水属性を付与し、上空から急降下しつつ大猪に対して斬撃を加えます。火属性の弱点と不意打ち、直撃でごっそりと大猪の体力が削り取れましたが、撃破には至らず。

 視界の端では、敵視スキルを使い大猪を誘導し受け止める準備を整えたカルパさんの姿。突進の構えをした猪は、私を無視して敵視の一番高いカルパさんに向けて突進を始めました。

 その突進が始まる前に飛び下がり、巻き込まれないように。よく想像される走っての突進ではなく、地を思い切り蹴り、その巨体を宙に浮かしてその落下による重量と勢いを利用したもの。

 それをカルパさんはその身で受け止めて防ぎ、大猪と睨み合う形へ。もちろんカルパさんの体力をごっそり持って行きましたが、すぐに構えていたイチョウさんからの差し込みヒールで八割にまで回復。


「っ、とぉ……!」


 すぐに体を捻って《飛行》を起動。そのまま軽く上へと飛んでからそのまま勢いのままに大猪の背面を力任せに斬り付け。

 驚いた大猪が勢いを上げてカルパさんに頭突きを見舞いますが、先程の突進ほど威力は無いので余裕と言った顔を受け止め。代わりと言ったように手にしていた大斧を叩きつけました。

 げらげらと笑いながら大猪と頭突きと大斧による斬撃の応酬が始まり、イチョウさんのヒールは狙い澄ましたように唱えられ体力を八割に保っています。

 ぼやっと観察している間もないので、こちらもアーツを発動。《斬月》を繰り出してさらに大きく削り取り、そのまま鞘に納めて《剣閃一刀》。

 大ダメージの連続に大猪の体力も一気に大きく削れて行きますが、それでもまだ三割を残すあたり実にタフ。先程は五人かがりで三匹だったので一瞬でしたけどね。


「おっし、いいぞ! さすがクレハだ!」

「これくらい出来ないと、やってられませんよ!」

「決めちまえ!」


 カルパさんがその一言と同時に、大きく斧を振り上げてアーツ発動の準備。合わせるように私もアーツの準備、そして《新月》を発動してダメージを跳ね上げ。

 《月天》を放ち、水飛沫を散らす斬撃を四連撃。その巨体へと斬り付ければようやく大猪はぐったりと倒れ込みました。


「っ、よっし! こっちは終わったぞ!」

「こちらも終わりました。だんだんと質が上がってますね」

「やっぱりアレですかね……」

「なんか見っけたのか?」

「えぇ、草原地帯の終わりに、おそらくボスが」

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